表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/142

地震


ワイドナ家でミレイラとライト、それから帰って来たルクスと一緒に夕食を取っていた。

ルクスは帰って来るなり難しそうな表情を浮かべ、


「あとでロアに殺されそうだ」

「そ、そんな事無いです……殺すなんて」

「う~ん、なら半殺し?」

「ロアはそんなことしないですよ」

「どうだか。しばらくあいつには背中を見せないようにしよう」


こんな事になってロアはルクスに警戒されしまったようだ。

気持ちは分からなく無いのでそれ以上は何も言えなかった。

出てきた食事は貴族らしい豪華で華やかな美味しそうな物ばかり。

この家にはお箸が無いため苦戦が予想出来たが、セレナが持って来てくれていた。

急にここに来る事になったけど、ちゃんと食事が用意されている事に驚きつつ食事前のお祈りを捧げ、箸を向ける。


「いただきます」


サラダをつまんだ時、


ズズン……


と地面が若干揺れた。

地震かな? 揺れで言うと震度2ぐらいかな。

気にせずサラダを口に含むと、


「な、なに? 今の揺れ……!」


ミレイラが不安そうな声を上げる。

ライトはすでに席を立って窓を開け、そこから出て行こうとしている。

ルクスもライトの後を付いて行った。

口をもぐもぐさせながらミレイラを見遣る。

ミレイラは顔を真っ青にさせていた。

え……? そんなにひどい揺れじゃなかったと思うけど。


「大丈夫?」

「どうして平気な顔をしていられるの!? あんなに地面が揺れたのに!」

「あんなに? そうでも無かったと思うけど」

「何を言っているの!?」


信じられないものを見る目になったミレイラに何度も首を傾げる。

あのぐらい日本で生きていれば普通に……

ああ、もしかして……この世界には地震が無いのかも。


「わたしが住んでた所は自然災害が多くて……地震もその一つなんだけど」

「地震!? 今みたいに地面が揺れる事が多いって言うの!?」

「他の国に比べると多いかな……家とか、ぺしゃんこになっちゃったり」


ミレイラの顔色がさらに悪くなっていく。

怯えさせたい訳では無いのだけど……


「ミツキ!」


ミレイラに肩を掴まれた。


「良かったわ、そんな場所に帰れなくって! すごく安心したわ!」

「うん? ……うん」


ルクスが窓では無く部屋の扉から戻って来た。


「ミレイラ、なにしてるんだ」

「お兄様! 聞いてくださいませ!」


地震の事をルクスに伝えるミレイラ。

震度2ぐらいで騒いでいたら日本で暮らしていけないよ。

震度4ぐらいでも騒がないと言うのに……電車とか交通機関が止まると騒ぎになるけど……


「そういや俺、ミツキさんの世界のことなんにも知らないや」

「話す機会が無かったですから。ロアにも話してないです」

「どんな世界なの? こことは全く違うのかしら?」


興味があるようで二人に見つめられる。

現実世界とファンタジーだから全くと言っていいほど違うと思う。

大前提として、魔力、魔法、なんてものが無かった世界だし。


「わたしの世界には貴族が居ないの。昔は居たみたいだけどね」

「へえ、じゃあ町での決め事は誰が決めるんだ?」

「町民が選んだ複数人が多数決で決めるよ。国も同じ」

「王様もいらっしゃらないの? 多数決なんて、時間がかかるわ!」

「一人の人間に権力を集中させて失敗して来た歴史があるから……この世界の権力者はとっても善良だから必要ないんじゃないかな」


陛下には一度しか会った事は無いが悪い人では無かった。

甥っ子であるロアにお節介をしていただけだ。

騎士と言うのは、現実世界で言う所の警察と軍隊を合わせた存在だろう。

トップであるロゼはとっても思いやりのある優しい人だ。

国の為、街の為を大切に思っている。そんな人が汚職をするとは考えにくい。


「制度が全く違うのね。わたくし、興味が出て来たわ!」

「そう? この世界に来て一番最初に驚いたのは月が三つもある事だったよ」

「えっ!? じゃあミツキの世界は月がいくつあるのかしら」


わたしは二人に元の世界の話をし始めた。

ロアにも言ってない、故郷の話。

食事を取りながら話していたが、とうとうライトは戻ってこなかった。

揺れの原因は何だったのだろう?

ほんの少しだけ気になった。




*****




ロゼは一息ついて深く溜息を吐いた。

脇に先程無理矢理寝かしつけたロアが苦悶の表情で眠っている。

ぐ、と足に力を入れようとするが、上手く入らない。

一度に多量の魔力を失いすぎた事が原因だろう。

仕方なくその場に座り込み、ロアが破壊した庭と森を眺めた。

……ここまでの事が出来るようになったのか。

成長を喜びたい気持ちもあるが、それ以上に呆れの感情が勝った。

これがいわゆる火事場の馬鹿力だろうか。


「だんな、さま……」


屋敷からか細い声が聞こえた。振り向かなくても分かる、ナタリアだ。

先日からずっと体調がすぐれないナタリアは、さらに顔色を悪くしていた。

安全な事を確認してからナタリアは庭に出て、ロゼの隣によろよろと座った。

そしてロアの顔を見てからロゼに問いかける。


「なにが、あったのです……?」

「見た通りだ。一時でもミツキと離れたくなかったロアの気持ちの表れだ」


ロアの心はすさみきり焼けただれている。

どうしてそこまで余裕がないのか……ロゼにもナタリアにも分からなかった。

ロゼは自分の事を思い返してみたが、例え愛する人と離ればなれになったからと言って王都を破壊しようなどと考えた事すらなかった。

ロゼとロア、愛した女の大きな違いと言えばミツキの出身地ぐらいだろう。

ミツキが異世界から来た事と、何か関係があるのだろうか。


「兄上!」


焼け焦げた庭にライトが降り立った。

騒ぎを感じて飛んで戻って来たようだ。


「……何が……まさかロアが……?」

「そのまさかだ。ナタリア、部屋に戻って休んでなさい」

「えっ、でも……ロアはどうなさるのです?」

「俺が部屋に運んでおく。顔色が悪い、少し休め」


ナタリアはライトに一度だけ頭を下げ、心配そうに息子を見た後、メイドのリファに連れられて部屋に戻って行った。


「家まで揺れました。どれだけの魔法だったのですか」

「王都を半壊……いや、方向によっては全壊した魔法だ」

「そんな魔法をいつの間に……どんな魔法でした?」

「……あれはお前が教えたものだろう」

「俺ですか!?」


生き物の姿を借りた魔法を使うのはロゼが知っているだけで三人いる。

一番最初に使い始めたのはレッドだ。

妖精を使役し魔法で作った入れ物に入れて動かす。

入った妖精は使役者の命令を聞きながら行動する。

一対一でどうしてもロナントに勝てないと始めた事だった。

妖精は各自意思を持っている為、行動が読みにくい。

戦闘を優位に進める事が出来た。

その様子を見ていたロナントが見よう見まねで始め再現する事が出来たが、妖精が見えないため戦闘に組み込む事は出来なかった。

もう一人がライトだ。

妖精を使役しレッド程器用ではないが同様の事ができる。


「ドラゴンに喰われた時はさすがに焦った。押し留めなければ被害が出る所だった」

「あー……ドラゴンかあ……確かに教えたのは俺かも知れないです……」

「お前の魔法とよく似ていた。違いはドラゴンに羽が無かったぐらいか」

「竜ですかね。確かに俺が作る竜は羽が無くって蛇みたいな見た目ですけど」


焼けた森の方で木がバキバキ! と音を立てて倒れた。

こんな事を話している場合では無かった。

火事になれば折角被害を敷地内に収めたのに意味が無くなってしまう。


「ライト、悪いんだが火を消してくれ」

「分かりました。雨を降らせばいいですか」

「ああ。俺の魔力が残り少なくてな……はあ、自分が情けない」


ロゼはなんとかロアを担いで適当な一階の部屋に投げ入れた。

程なくしてぽつぽつと雨が降り始めた。

やがて土砂降りになるだろう。

何故かライトは天気を操る事が出来る。

理由を聞いても本人も分からないと答えるのでロゼは諦めている。


「外で騒ぎになっている可能性が有るな……」

「あれほどの揺れでは仕方ないかと。騎士隊へ説明に行きましょうか?」

「頼む。俺はまだまともに動けん」


ロアを適当にソファーに寝かせた際、ロゼが気が付いた。


「こいつ……」

「どうしました?」

「見てみろ」


ロアの手に紐の切れたミツキのペンダントが固く握りしめられており、はぎ取れそうもない。

ロゼはいつの間に取られたのか、全く気が付かなかった。


「頭が痛い……」

「本当にミツキちゃんの事が好きなんですね……この事をミツキちゃんに伝えた方が良いでしょうか?」

「いや、言わなくて良い。庭と森を破壊した事も伝えるな」


ミツキの事だ、自分を責めるかもしれない。戻って来たいと言われても困る。

ロゼはまた溜息を吐いた。今日何度目だろうか?


「あと……魔封錠を持って来てくれ」

「魔封錠を? 誰に使うのです? もしや……」

「こいつは謹慎だ。魔力を封じておかないと何をしでかすか分かったものでは無い」


魔封錠とは、名前の通り魔力を封じる手錠の事だ。

罪を犯した罪人に使う事が一般的だ。


「ロアは罪人ではありません。いいのですか?」

「ミツキと居られるならば罪人になっても構わないと言ったのはこいつだ」

「……あまり良い方法では無いと思うのですが」

「ロアに聞く耳が無い。父上が帰宅するまでの少しの間だけだ」

「分かりました。最高位魔力保持者用の手錠を持ってきます」


外で本格的に雨が降り始めた。

無事だった芝生が水を蓄えている。その上をライトが早足で傘も差さずに走り去った。

騎士隊の拠点がある王城へ向かったのだろう。

王城の隣の建物が騎士隊の駐屯地だ。王城の敷地内にある。


「ロア……お前は……俺によく似ている……」


ロゼが息子の顔を見遣る。

顔も考え方も……ロゼはもし自分がロアの立場だったらと考えてみる。

抵抗して暴れるぐらいはするだろう。その気持ちは分かる。

ナタリアと引きはがされると思うと、簡単に血がのぼる。

だが、罪人になってまでしようとは思えない。

ミツキの心はロアの元にある。ロアも理解しているはずだ。

ほんの少しの間でも許容できない心の狭さは何故?


「……はあ」


考えても分からない。今までロアの考えている事など手に取るように理解できたはずだった。

本人に聞いてみるしかないと再びロアを担ぎ、ロアの部屋へと運んだ。

ロアはしばらく起きないだろう。

失った魔力を元に戻すため、少しだけ休んでから騎士隊に向かおうとロゼは淡々と予定を決めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ