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ロアの姉


ロアの誕生日を二日後に控えた昼下がり。

いつも通り文字を書く練習をしていた。

傍らにピアスを置いて余裕がある時に魔力を入れている。

片方は無事にいっぱいに溜まったと妖精が教えてくれたので、もう片方。

その片方も透明な部分が青くなり始めている。もう少しかな。

ノックののちに部屋にサラが入って来た。


「セレナの代役です」

「……セレナさん、どうかしたのですか?」


文字を教えてくれるのはいつもセレナだった。

さっきまでセレナが教えてくれていたのだが、部屋を出てそれきり帰ってこない。


「さきほど来客がありまして、セレナはその対応に」


来客か……元帥の家だから結構来客があるんだよね。

来るのはいつも騎士だけど。


「サラさん、この字って……」

「この字はですね」


セレナと同じく丁寧に教えてもらった。

少しずつ字も書けるようになった、かな?

試しにロアに手紙でも書いてみようかな。


「ミツキ様」


部屋にあまり馴染みの無いメイドが部屋に顔を出した。

面識はあるけど、名前は知らない。


「はい、なんでしょう?」

「失礼いたします。先程来客があったのはご存知ですか?」

「サラさんから聞きました」

「その……お客様がミツキ様に是非お会いしたいと……」


来客とは聞いていたけど、騎士じゃないのか。

セレナが対応したまま帰ってこない事を考えると、グラスバルトと親交が深い人物なのかもしれない。

会う事を進められているし、変な人でも無いのだろう。


「分かりました、どこに行けば良いですか?」

「奥様と一緒に庭でお茶をたしなまれています」

「ナタリアさんと一緒なんですね」


昨日、ナタリアは具合が悪そうだった。今日は元気になったのかな。

準備をすると言ってメイドは先に行った。

残ったサラに案内されつつ部屋を出た。


「サラさん、お客様って、どんな人ですか?」


男なのか女なのかも分からない。若いのか年老いているのかも。


「今からお会いしていただくのは、ロザリア様です」

「ロザリアさま……?」


どこかで聞いた事がある名前だ。どこでだったかな。

名前から女性である事は分かった。


「ロア様に姉君がいらっしゃる事はすでにご存知かと思いますが……」

「あっ! ロザリアさんって、ロアのお姉さんだ!」

「はい」


サラがニコニコ笑う。

そうだ、ナタリアからその名前を聞いていたんだった。

えーと……結婚して家を出たんだよね。子供がいるんだっけ、子供は可愛いだろうなあ。

と言うかなんで来たのだろう? やっぱりロアの誕生日関連だろうか?

庭に出て、広場に出ると五人ほどのメイドが忙しそうに動いていた。

その中心に屋外用の可愛い丸テーブルと同じデザインの椅子に座ったナタリアを見つけた。お姉さんはメイドに隠れて良く見えない。

心地よい風が吹き、暖かな太陽が気分を明るくしてくれる。

近付くと、向こうから声をかけてくれた。


「あなたがミツキ?」


長く艶やかな黒髪に大きな赤い眼。顔の造りはレッドとナタリアを足したような顔立ちをしている。どちらかと言えばレッド寄りだ。

青と白のドレスを上品に着こなしていて、これぞ貴族のお嬢様と言えるだろう。


「はい! 美月と申します。えっと……」

「私はロザリア、ロアの姉よ。好きに呼んで良いわ」

「ロザリアさん……あの、何か……」

「そう緊張しないで、ふふっ、お茶でも一緒に飲みましょう?」


笑顔のロザリアに緊張がほぐれる。

あなたと弟は釣り合わないなんて言われたらどうしようかと思ってた。

この家の人はそんな事言わないけど。

用意してくれた椅子に座ると、さっそく紅茶が出てくる。


「今日はねロアにプレゼントを持ってきただけなのよ」

「もう必要ないって言ってるのに」

「今年で最後にするわ。恋人が出来るまでって私も決めていたから」


やっぱり誕生日プレゼントを持って来たのか。

ロザリアの隣にセレナの姿を見つけた。

いつもとは違う微笑みを浮かべていて、楽しそうだ。


「セレナにあなたの事をよくよく聞いちゃったわ。それで会いたくなったの」

「そうだったんですか……セレナさんから」

「ロアの噂は嘘ばっかりだから、本当か確認したかったのもあるけど」

「うわさ……? うそ?」


ロアが誰が好きで狙ってる、とか、結婚の話を誰とした、とかそんな感じの根も葉もない噂。

噂を流して外堀を埋めにかかっているそうだが、誰も信じない事が多い。

むしろ他の令嬢から睨まれるので得をしないのに、やってしまう人が多いとか。


「ロアに少しでも興味を持ってほしかったのね」


好きな人が自分に興味が無い……う~ん、気持ちは分からないでもない。

そんな噂ばかりが横行する中、ロアが家を飛び出してしまった。

ロザリアはそんな弟の事を……


「ぶん殴って性根を叩き直してやりたかったわ!」

「……へ?」

「子供の事があって追いかけられなかったけど」


ぶんなぐ……え? とてもロザリアから出た言葉だとは思えない。

ロザリアの話は続く。

弟に対してイライラしていると、一年後、ロアが帰って来たとの話が耳に届いた。

しかも、女連れで。


「ずっと気にしていたのよ。噂でミツキはこっぴどく言われていたから」

「ああ……はい」


ミレイラの話を思い出す。わたしが悪女だとか言われてた噂ですよね。

ロザリアはそんな噂は全く信じていなかったが、最近聞いた噂だけは確かめたくなった。


「ロアが近々結婚するって噂。最初は信じられなかったわ」

「本人が言いふらしてるから……」

「そうね、お母様から聞いたわ。ミツキの事情も聞いたわ、大変だったのね」


ロザリアは心配そうな表情に、口元は若干笑みを浮かべている。ナタリアがよくする顔だ。やっぱり親子だなあ。

ふと思い出す。ロアのお姉さんと言えば……


「そう言えば、ロアからお姉さんのナイフを預かりました」

「私の?」

「小振りで宝石がいっぱいついてるナイフで……」

「あら、花嫁の祝福で贈った物かしら?」

「花嫁の祝福?」


あのナイフは一度落としている事もあって、グラスバルトに来てからは引き出しにしまいっぱなしだ。

花嫁の祝福? 聞いた事は無いが、ナイフはお姉さんが嫁いだ時に貰ったってロアが言ってた気がする。


「知らないの? ……ああ、そうだったわ。知らなくて当然ね」


花嫁の祝福について教えてくれた。

アークバルト特有の風習で、花嫁が次に結婚して幸せになって欲しい人物に大切にしていた物を送る事だ。身内に送る場合が多い。

ロザリアはロアに大切にしていたナイフを渡したそうだ。

そして花嫁から贈られた祝福を、結婚したい人物に贈ると幸せになると言うおまじないの一種だ。この国では一般的に行われる風習らしい。

ロアからわたしに渡されたのはそんな風習からなのだと、今更ながら気が付いた。

……ん? ナイフを渡されたのって、出会ってそんなに経ってない頃だった気がする。

フロラリア、二つ目の村の宿屋だった。


「ロザリアさん、花嫁の祝福を渡すって事は……どういう事でしょう?」

「どういう? そうね……プロポーズと同意義だと思った方が良いわ」

「ぷろ、ぽーず……?」


そんなに前からプロポーズされていたの?

気が付かないよ! 分からないよ! 何考えてるの?

花嫁の祝福を渡す事が、結婚したいのサインだったと考えると……

ロアは、あの時からわたしと結婚する気だったと言う事なのか?

そう考えると背筋に冷たいものが……


「花嫁の祝福を受け取ったのでしょう?」

「はい……やや強引でしたけど……」

「受け取った、と言う事はプロポーズを受けた、と言うことでもあるわ」

「ひ、え、え……」


思わず悲鳴が漏れてしまった。

その様子を見たロザリアが眉を寄せつつ聞いてくる。


「ミツキ、一つ聞いてもいいかしら?」

「……はい、なんでしょう?」

「ロアに無理を言われてない? あの子我が儘だから迷惑になってないか心配で」


迷惑? 謎に嫉妬するのを迷惑だと言って良いのだろうか。

味わいの一つだと思っていたが……

花嫁の祝福に関しては、迷惑なのではなく、どうして教えてくれなかったんだ! と憤りの感情が強い。

……言ったら受け取ってくれないと分かってたからだろうけど。


「迷惑なんてそんな……考えた事無いです」

「そう? ならいいのだけど……」


襲われかけたのは一度や二度じゃないんだけどね……

嫉妬とか所有欲とか独占欲がすごいんだけどね……

お姉さんに言えるはず無い。


「お嬢様、こちら南方から取り寄せた菓子で……」

「いやだわセレナ。私はもうお嬢様では無いわ」

「申し訳ありません」

「真面目ねセレナ。もう少し気を抜いても良いのよ?」

「そう言う訳にはいきません」


ロザリアとセレナの会話を聞いて、仲が良さそうに見えたので聞いた所。

セレナは元々はロザリア付きのメイドだった事が発覚した。

歳が近いし、友人のような感覚なのかも知れない。


「セレナは結婚とかしないのかしら?」

「相手がいませんから」

「相手は作るものなのよ? セレナは美人だから、引く手数多でしょうに、もったいないわ」

「私は生涯、この家に尽くす所存です」

「考えが古いのよ。子供は可愛いわよ?」


セレナはきりっとした美人だ。

この世界では行き遅れの年齢だろうけど、婚活すれば相手はまだ居る気がする。


「そうだわ、お母様」


聞き手に回ってお茶を嗜んでいたナタリアが眼を瞬かせた。


「子供と言えば、次男の事なのだけど」

「次男? いたずらっ子で手が付けられない子の事?」


ロザリアが産んだ次男は、落ち着きが無くて騒いではしゃいで悪戯が大好きな男の子で、大人しい長男の事をよく泣かせるそうで手を焼いている。

その次男はなんと、幼少期のロアによく似ているらしい。


「次男はうちの方の血が強いんだわ。剣の才がありそうなの」

「まあ、そうなの」

「次男は元気すぎるから、有り余る力を何かに向けさせたくて」

「剣を習わせたいの?」

「ちゃんとした方に習わせた方が良いかなって思って……お父様に相談して下さらない?」

「いいわ、お父様に言っておいてあげる」

「ありがとうお母様」


元気すぎるから剣を習わせるのか。

ロアと子供が出来たら、を少しだけ想像してみた。

男の子がロアに似ていたら……大変だろうな……

子供の頃はちょこちょこ動き回るだろうし、大人になったらロアみたいに好きになった女の子に無理を言わないかとか……うう、今から心労が……


「ミツキは子供好き?」

「好きです、可愛いですよね」

「今度連れて来るわ。う~ん、長男と次男と長女と……上の子達なら大丈夫ね」


……え? 何人居るの?


「お子さん、何人いらっしゃるんですか?」

「五人よ。男男女男男の順番で男の子が四人もいるからもう大変」

「……へ? ……え? ご結婚されて何年ですか?」

「六……いえ、もうすぐ七年ね」


七年で子供五人!? 子沢山すぎやしないか。

見た所、ロザリアはまだ若い。これから増える事もあるかもしれない。

お相手は……精力が強い人なのかな……じゃないと子供を五人も作れないよね……?

やっぱり体を鍛えてる騎士家系に嫁いだのかな?

もんもんと考えていると、執事がやって来た。


「ロザリア様、スーリア様がいらっしゃいましたよ」


執事が笑顔で告げた。

ロザリアは少しだけ顔を歪めた。

スーリア様? 誰だろう、聞いた事無い名前だ。

ナタリアがロザリアの夫である事を教えてくれた。

七年で子供五人作る男性がこれからここに来るのか……

すぐに馬車の姿がここから見えた。


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