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宝石店


目的のお店に到着したようだ。

もう一度帽子を深くかぶり直し、先に降りたロゼの手を借りつつ馬車から降りた。

きょろきょろと辺りを見回す。

キーキーとうるさかった嘘つきの女性が居ない事を確認してほっと胸を撫で下ろす。


「どうかしたのか?」

「いえ……大丈夫です……お店は……」


言いつつ振り向いた。

高級街の真ん中に建てられた、白を基調とした建物。

ショーウィンドには大きな宝石をあしらったネックレスや指輪などが飾られている。

外から見えるお店の内装も白を基調としているのが分かる。


「あ……」


これ……入っちゃまずいお店じゃ……

高級感しかない佇まいに気後れする。

前にもカナトラでこんな事あったような気が……

あの時と全く変わらない服装をしている自分を悔やむ。

出掛ける事は急に決まった事だから着替える時間が無かった。

入っていいのかな……?


「ロゼさん!」

「ん?」

「わたしこんな恰好で来てしまいました! 大丈夫でしょうか!?」

「俺が居るから大丈夫だろう」


ロアもカナトラでそう言っていた気がする。

本当に大丈夫だろうか?

宝石店なんか入った事無いよ……

唸っているとロゼが先に行ってしまった。


「ミツキ? 行くぞ」

「あ……はい」


あの時と同じで悩んだってしょうがないよね……結局入るんだから……

ロゼの後をぴったりとくっ付いてお店に入った。

店に入ると外から見えなかった大きなシャンデリアがお出迎えしてくれた。

滅茶苦茶キラキラしてる……威嚇されてるみたいで怖い……

ロゼの背中にぴったりとくっ付く。


「どうしたんだ」

「いや、あの……追い出されそうで……」


ロゼが首を傾げていると、正面から黒のスーツを着た男性店員がやって来た。

わたしを見て変な顔をした気がする。


「いらっしゃいませ、当店は初めてでしょうか?」

「いや、何度か世話になった事がある」

「お名前をよろしいでしょうか?」

「ロゼ・グラスバルト。悪いが店長を出してくれ」


店員は青い顔をしてロゼに一度謝った。

その後、売り場の奥に案内され個室に入った。

個室はそこそこ広く、置かれていた机もソファーも白かった。

汚れそうだなと庶民脳が騒ぐ。

店長を呼んでくると言い、店員は部屋を出た。


「……ミツキ」

「は、はい……」

「もう大丈夫だろう? 長い事くっ付くとロアがうるさい」

「すみません」


服を掴んでしまっていたから、動きにくかったかもしれない……

ロゼはロアとよく似ているから甘えてしまった……気を付けないと……

ロアに見られでもしたら事件だ。

ロゼに促されて白いソファーに座った。

高そうなソファーだなあ。

ロゼが隣に座って、しばらくすると一人40代ほどの女性が入って来た。


「お久しぶりでございます、閣下」

「店員が俺の事を知らない様子だったが……新人か?」

「ええ、教育不足でございます。申し訳ありません」


頭を下げる女性。この人が店長なのかな。

ロゼは気にしていない様子だ。


「早速だが透明魔力石のピアスを持って来てくれないか」

「かしこまりました」


店長が部屋を出た。

……透明魔力石?


「って、なんですか?」

「魔力が宿っていない魔力石の事だ」

「……魔力が宿ってない?」


魔力石は大きく分けて2通りある。

赤青緑のそれぞれ火水風の魔力が宿った石、これが一般的な魔力石。

だが通常の魔力石は一度使うとただの透明な石になってしまう。

ハイドから貰ったネックレスはこれだ。

透明な魔力石は、魔力が宿っていない為最初は透明だが、持っている人の魔力を自然に吸収しその人と全く同じ魔力を宿すようで、石が砕けるまで何度でも使いまわしが出来るお高いけれど便利な魔力石なんだそうだ。

ロゼがしているピアスは元は透明魔力石で、ロゼは火の魔力だから赤い石になっている。

……そう言えば、


「ロナントさんもレッドさんも同じピアスですか?」

「そうだな」

「あれ……? ロナントさんは赤、レッドさんは緑だった気が……」


普通に考えたら、逆だよね?

ロゼに言うとまた渋い顔をした。

また聞いてはいけない事を聞いてしまったか?


「元々は魔力に見合った色のピアスをしていたそうだが……」

「何か……あったんですか……?」

「理由は知らんが、父上が無理に交換したと聞いている」


えっ、なんで……?

声が出かけたがロゼは知らないと言っている。聞いても答えが帰って来る事は無いだろう。


「自分と種類が違う魔力石を持ってて、使えるんですか?」

「難しいが問題ない」


実際にロゼはレッドが風魔法を使っている所を見た事があるようだ。

個室に店長が戻って来た。


「質の良い透明魔力石ですと、このあたりでしょうか」


と、出して来たのはいずれも派手な飾りのついた女性物のピアスだった。


「いや……女性物では無く……」

「あら? そちらのお嬢様にでは無いのですか?」


ブンブン首を振る。こんな高い物いらない!

どうやら店長は一緒に来たわたしへの贈り物だと勘違いしてしまったようだ。


「閣下、失礼ですがこのお嬢様は?」

「息子の恋人だ。今日はその息子のプレゼントを買いに来たんだが」

「まあそうでしたの! 噂は本当でしたのね! 別の物を持ってまいります、少々お待ちくださいませ」


噂って何? 聞こうと思ったが店長は部屋を出て行ってしまった。

すぐにシンプルな男性用のピアスが机に並べられた。

付いている石はどれも透明で、違いと言えば丸く削られているか、ダイヤモンドと同じようにカットされているか、石の周りに飾りの金か銀の台があるか。


「最高品質はこちらの五点になります」

「ミツキ、どれが良い?」

「う~ん……」


男性用だからかピアスが自体小さい。どれも同じように見えるけど……

あんまり飾りが無い方が良いかな?

ロアの耳にくっ付いている姿を想像しながら考えていると、空気がざわめいた。


「妖精さん……?」


久しぶりに妖精の眼を使う。

机の上にいつもの青い妖精が立っていた。


『おねえちゃん!』


「スイ? 久しぶり、どうしたの?」


『良い魔力石を探してるんでしょ? ぼくたちに任せて!』


部屋中いっぱいに妖精が飛び交う。

宝石店は魔力石を扱ってるから妖精が集まりやすいのかな?


『こうみえて宝石に詳しいの! 特に魔力石は神様の力の結晶だし!」


「へえ、そうなんだ。じゃあこの中で一番良いのはど」

「ミツキ!」


ロゼに勢いよく抱き寄せられ、口をふさがれた。

ビックリして心臓が止まるかと思った。

ロゼの胸の中で寄りかかるように硬直した。

ロゼの近くに居た赤妖精が、わたしと同じようにビックリして飛び立った。

妖精が飛び交う中、眼の前に店長の姿が見えた。


「お嬢様……どうなさいましたか?」

「あ……ええと……」


忘れてた。妖精の事を知らない人に言えるはずがない。

今まで安全な所に居たからすっぽ抜けてた。

ロゼに止められなかったら妖精と話し続けただろう。


「気にするな、少し悩む。席を外してくれ」


ロゼが言うと、店長はわたしの事を気にしながら席を外した。

部屋で二人きりになると、


「ミツキ」


明らかに怒った声で呼ばれた。


「……はぃ」

「突然妖精と話すのはやめてくれ。俺も驚く」

「はい」

「危機管理と危機意識の欠如が見られる。ロアが過保護だと言えない」

「本当にごめんなさい……」


項垂れてへこんだ。

言い訳をする気もおきない。完全にわたしが悪い。

わたしと話をしていたスイが申し訳なさそうな顔をした。


「それで、妖精は何と言ってるんだ?」

「………」

「もう怒っていないから」


帽子越しにぐりぐりと頭を撫でられた。

優しい赤と眼が合った。もう怒っていないと言うのは本当だろう。


「妖精は宝石に詳しいそうです」

「初めて聞く。本当なのか?」

「妖精は嘘をつかないので本当だと思います」


ロゼは考え込んでしまった。


「そう言えば……ライトが、そんな事を言っていた気がする」


ライトは妖精が見えるんだっけ。

話せはしないけど、身振り手振りで妖精が教えてくれたのかな。


「どれが一番良いかな?」


『うんとねー、この中だとこれが一番かなあ』


台の飾りが無い、シンプルに丸く削られている物を指差した。

どうしてなのかと聞くと、一番魔力が入るからだと単純明快な答えが帰って来た。


『おにいちゃんは魔力すごいから、比べると入る量は少ないよ?』


「小さいからしょうがないよ」


『小さくてももっと入る石があるの! 人間じゃ見分けがつかないけどね!』


ここにあるのが最高品質だって店長が言っていた。

それよりもすごい魔力石があるのか……見分けはつかないけど。

取り敢えずロゼに、スイが選んだ物を指定しておく。


「これが一番魔力が入るそうです」

「分かった」


ほとんど決まりかけた時、妖精が一人慌てた様子で部屋に現れた。


『おねえちゃーん! 聞いて聞いて!!』


「わっ、どうしたの?」


『あったあった! すごい魔力石!! 普通の水晶として売られてる!』


「ええっ?」


『こっちだよ! はやくはやく!!』


「えっでも……」

「ミツキ、どうかしたのか」

「もっと良い魔力石が普通の水晶として売られてるみたいなんです……」


水晶と透明魔力石の見分け方は、魔力を実際に流して色が付くかどうかを眼で見て判断するらしい。

妖精の言うもっと良い魔力石は、ほんの少しの魔力を溜めたぐらいでは色付かないそうで、水晶として加工されて売りに出される事がほとんどなのだとか。


『絶対向こうの方が良いよ!』


と、妖精に言われ仕方なくロゼと一緒に見に行く事にした。


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