#006 代償の鳥篭 3
オブシダンが、車で待機していた。
「お互いに重い任務を授けられたわね」
「ええ…………」
赤茶色の車だった。ブランド名は知らないが、高級車なのだけは分かる。
オブシダンは、給与として、カナリーに封筒を渡す。それなりに多い金額が入っていた。
「これから、食事に行きましょう。私が奢るから」
「ありがとう御座います」
「ふふっ、……ベレトとの戦いも覚えてないのよね。四日前の貴女は、もう少し、この私と打ち解けていたわ」
カナリーは、オブシダンの右隣の席に座る。
ラジオから、聴いた事の無いポップスが流れる。よい曲だ。もしかすると、いつか聴いた事があるもかもしれない。けれども、それは失われてしまったのだ。これから食べにいく料理の味も、想い出も、力を使う事によって、消えていくのだろう。
記憶が貪り喰われていく。
いずれ、自分は何もかも、消え去ってしまうのかもしれない。
いつか、自分の全てが削除されてしまうんじゃないだろうか。
窓ガラスから見える、街の景色が移り変わっていく。
全ての記憶が空白になってしまった後、自分はどうなるのだろう。何度も、何度も、仲間達の事を覚えては忘れていく事を繰り返していくのだろうか。メビウスの事も、両親の事も、忘れてしまうのだろうか。
自分の力は、代償が大き過ぎる。
いつか、自分が真っ白な程に、消えてなくなる日がくるのかもしれない。
記憶が無い人間は、想い出が無いという事だ。果たしてそれは、人生を生きていると言えるのだろうか……?
「また、貴方の事を忘れてしまうかもしれません」
カナリーは、ポップミュージックを聞きながら、そんな事を呟いた。
「そう。なら、またお互いに自己紹介をしましょう。何度でも……」
街の景色は明るく、人も娯楽施設が多く、病的な程の黒尽くめの格好をしたカナリーには、とても場違いなものを感じていた。
END




