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オーダー -封印の鳥篭-  作者: 朧塚
13/24

#003 水色の墓標 2

 固めた空気に包まれながら、ベレトは海底の中を漂流していた。

 今になって、切断した腕の痛みが激しく伝わってくる。

 彼は憎悪を深く、心の中でたぎらせていた。



 ベレトは波止場に辿り着く。

 釣りをしている初老の男の横を通り過ぎる。男は海から上がってきた彼の姿を見て、怪訝そうな顔をしていた。

 ベレトは港に置かれていた布をつかむと、自らの上に纏う。

 しばらくの間、周囲を見ながら、彼は歩みを進めていた。

 彼は港町で小さな電化製品のショップを見つける。

 そして、通信機が売られている場所で、適当なものをスリ取る。

 店を出た後に、彼は記憶している番号を入力する。

 電話は繋がる。

「おい、デス・ウィング。お前、まさか奴らの側にも、何か力を貸さなかっただろうな?」

 電話の相手は、何かを含むような言い草だった。

「まあいい。俺がこれから潜伏する場所を教える。畜生、自分で切断した腕が痛ぇ。あちこち、骨折してやがる……」



「それで、スリ取ったお金で、この安ホテルに隠れているんですか」

「そうだよ。誰かが敵側に知恵入れしてくれたお陰でなっ!」

 ベレトは、にやにやと笑っている、くすんだ髪の女を睨みながら、果物を口にしていた。

 リンゴにバナナ、ブドウにナシ。見舞いの果物を一通り持って、彼女は、この部屋に現れたのだった。デス・ウィングは律義な面もあるみたいだった。

「私は特に何もしてませんよ。あちら側に一人、興味のある人物がいたので、少し話を聞いてみただけです」

「それが余計だったんだろうよ、ああ、これは最低、二週間は戦えねぇな」

 彼は酷く、落ち込んでいた。

「何かあったんですか?」

「分かるだろ。あいつら、俺の塔に、俺の大切なコレクションに火を放ちやがったんだ。ああ、ふざけやがって」

 ベレトは頭を抱えていた。

「いくつか押収したみたいですから、回収してきては?」

「後、二週間は戦えねぇんだよっ!」

 彼は思わず、悲鳴を上げていた。

「そうですか」

 彼女は少し考えて、提案を行う。

「ベレト、貴方も、しばらくは、私と同じスタンスになりませんか?」

「どういう意味だ?」

「傍観者になりましょう。彼らの。きっと、面白い事が起こると思うんです。楽しいですよ」

 無邪気な言葉だった。そして、それこそが、彼女のスタンスなのだ。

 自らは、あくまで彼女が言う処の、他人のストーリーの観客なのだ。

「少しだけならな……。だが、俺も参加するぜ、お前が言う処の劇役者にな。そうでなければ、この腹の虫が収まらない」

「そうですか」

 ベレトは、バナナの皮を剥いて、それを口にしていく。

 デス・ウィングは、ふと、敬語口調を止めて、神妙な顔付きになる。

「なあ、それと、ベレト。もう一つ、気になる事があるんだ」

「なんだ?」

「極めて、単刀直入に言う。シンプルな問いだ。そして、もっともお前の核心に迫るような問いかもしれない。脚色なく、答えて欲しい」

「いいぜ」

 ベレトは、痛む右腕を見ていたが、それを止め、彼女と瞳を合わせる。

「私を殺害して作品にしてみたいと思うか?」

 デス・ウィングは、無感情な声で、彼に訊ねた。

 きっと、色々な者達に、同じような問い掛けをしているのかもしれない。

 だが、彼の心の底を覗き込むには、充分な一言だった。

 ベレトは首を横に振る。

「思わない。デス・ウィング、今や俺にとって、お前は俺の神なんだ。俺という神話を見届ける伝承者になって欲しい。俺は愛が何なんか分からないが、俺は絶対的な力に魅せられるんだ。お前がいなければ、俺は地を這うムシケラだった。初めてかもしれない。俺が自分以上に価値のある存在が出来たのは」

「錬金術師は?」

「あれは俺が力を得る為に必要な存在でしかない。奴は俺を評価しないだろう。だが、お前は違う。理解者になってくれる」

「ベレト、それは友情というものだよ。お前には分からない感情かもしれないが」

「そうなのか? なら、そうかもしれない」


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