おふろ
「しんいちおにいちゃん! おふろはいろ!」
「…んーええっと…?」
女性陣を見る。温かい目だった。妹の面倒を見るお兄ちゃんを見る親のような顔をしていた。えーっと…冷たくしてくれてもいいのよ?
「…」
愛希のように…訂正。ここまでは求めないが。
「…だめ?」
「んー…昨日はどうしてたんだ?」
まあ色々あって声かけづらかったのは分かるが。
「きのうはひとりで入ったんだけど……」
まあ入れるか。だが、そうなら疑問の余地はないと思うんだ。
とはいうものの、「だめかな? でももしかしたら」と期待と不安の入り混じる上目遣いで以て見詰められたらやはり答えは一つしかないと考える。
「よーし入ろうか」
「やったー!」
さて、愛希はどうした、とちらりと視線を向けると
「愛希さん、少しよろしいでしょうか?」
何やら霞さんが連れ出していた。
いささか気になるが、はしゃいでいる華凜ちゃんにつれられ、風呂場に行くのだった。
「華凜ちゃん。早くしようか」
「ちょ、ちょっとまって!」
あれだけ積極的であったしスムーズに行くかと思った脱衣だったが何故か華凜ちゃんは固まり、まごついていた。仕方ないので俺は掛け湯をしながら華凜ちゃんを待つ。待つ。待つ…うーん。カラスの行水で済ませて出てしまう手もあるか。
「は! なにかふおんなけはいがする!」
叫んだかと思えば一気にばさばさと衣擦れの音が激しくなった。どうやら吹っ切れたらしい。
「お…おまたせ」
胸の前で腕を組み、縮こまりながらもゆっくりとこちらに近づいてくる。
「それじゃあまずは体を洗おうか」
まあ流石に洗えないけどな。肌を傷付けないようスポンジでごしごしと華凜ちゃんは身体を泡だらけにしていく。
「え…えっと…せな…せなか…あらって?」
「そうか届かないもんな」
「ん…ふひゃう!? はぁ…ぁ…」
こちらの動きに対して敏感すぎる程に反応する声が、湿った空間に響いた。
「それじゃあおにいちゃんのせなかもながしてあげるね」
「ははは。ありがとな」
「ん。はぁ…やっぱりしんいちおにいちゃんのせなか…おっきいね…」
息が荒い。すまないな。さぞ疲れることだろう。
「それじゃ、かみも洗って」
「いやいやダメだぞ。髪は女の命といってだな」
「それくらい、しってるよ?」
知った上で、なのか。となると。責任重大だな。
「ん」
ゆっくりとシャンプーを泡立てて、髪になじませていく。…てよく考えればこれ俺が普段使ってるやつなのだが大丈夫なのだろうか。よくわからないのだが
「え? そうなの…うん。だいじょうぶ、だよ」
歯切れが悪いのが気にはなるが。せめて気を付けて。痛めないように、と。技術はないものの、優しくするよう心掛ける。
「それじゃあ流すぞ」
シャワーの量を調節して、ゆっくりとした水量で流してやる。ぷるぷると頭を振り、泡を落としてやる。
「ふぅ~」
二人で湯船に浸かる。俺との体格差があり、膝の間にすっぽりと華凜ちゃんは収まり、水嵩の増した湯ぶねで溺れないようにさり気なく支える。
「…」
ふと、思う。そして、不意に華凜ちゃんを抱き締めてしまう。
「…しんいち、おにいちゃん?」
仮に、愛希を今の様に抱き締めることが出来たのなら。何かが変わったのだろうか? そんなことを考えて。回した腕を強くしてしまう。
「…ん」
「悪い。強かったか?」
「んーん。だいじょうぶ、だよ」




