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こんなに大きくなりました  作者: 手絞り薬味
その後編(なろう版)
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16 「惨事の後の急展開」

「監視されることになっちゃった」

 てへっと舌を出す父さんに呆れて物が言えない。

 王様への謁見の翌日、朝っぱらから父さんが楽しそうに教えてきたのは、意外なほどに軽い罰だった。

「あんな騒ぎを起こしておいて、監視だけで済んだの? 投獄は?」

 あの後、城内が元通りになったのは空が暗くなってからだったよね。

 父さんが頬を膨らませる。

「酷いなあ、リズちゃん。父さん、国王陛下から凄―く感謝されているんだよ」

「嘘吐くな!」

 そんなわけがないだろう!

 しかし父さんは首を横に振る。

「嘘じゃないよ。ねえレクちゃん」

 父さんの隣に座っているレクが頷く。ちなみにここはレクの私室で、父さんとレク、それから私とガルディスが居る。使用人は皆部屋の外に出てもらっていた。

「ここだけの話だが、陛下……兄上には悩みがあった」

「悩み?」

「跡継ぎがまだということだ」

 ああ、王様だからそれは重要だよね。

「忙しさと世継ぎの期待が重圧になり、最近は夫婦仲も悪くなりがちだったのだが、昨日それが解決した」

 あー……と、それは父さんのあの歌で仲良くできたということかな?

 頑張って歌った甲斐があったよ、と父さんが満足げに頷く。

 そうか、つまりそういう欲望が盛り上がるように魔力を籠めていたわけね。どうりでガルディスが近づくなと強く言ってくるはずだ。

 だが、とレクが続ける。

「兄上個人としては感謝しているが、国王としてはこれ程までに魔力の強い人物を野放しにすることはできない。昨日の城の惨状を見ただろう。歌だけで周囲にあれ程の影響を与えられるというのは脅威だ」

 まあ、そうだろうね。

「それで、監視というのは具体的にどんなことをされるの?」

 どこかの塔にでも閉じ込めておくとか?

「ラディはわたしの元に置くことになる」

「レクの元に?」

 王弟殿下が自ら監視をするの?

「世継ぎの問題も解決しそうだし、これでわたしも周囲のうるさい声に煩わされなくて済む。ラディを連れていれば声をかけてくる勇気のある女もいないだろうから都合がいい」

 えーと、それって……。

「女嫌い?」

 そうではない、とレクは首を振る。

「ただ、無駄な後継者争いを避けたいだけだ」

 ふーん。よく分からないけど、王族には王族の悩みがあるってことね。

「じゃあ父さんは城に住むことになるの?」

 これには父さんが嬉々として答える。

「レクちゃんはこの部屋とは別に大きなお屋敷を持っていて、そこで暮らすことになるんだって。父さん王弟殿下の寵妃として立派に君臨してみせるよ。レクちゃんを足掛かりとして国王陛下を誑かし、いずれはこの大国の支配者となるんだ!」

 ……レク、やっぱりこの男は投獄した方がいいんじゃない?

「そして君は、ガルディスの監視下に置かれる」

 まあ、それは変わりないからいいか。良かった、城に残れとか言われなくて。

「ガルディスは王都に戻すこととなった。もともとの近衛騎士の仕事に戻るだけなので、こちらは問題ないな」

 レクの言葉にガルディスは頷く。

「ああ、問題ない」

 そっか、あの街とはお別れになるのか。

「でも警備隊長の仕事はいいの?」

「本来の警備隊長と副隊長が怪我から復帰することが決まっていたから問題ない」

 そうなんだ。

 それからもうひとつ、とレクが真剣な表情でガルディスを見つめる。

「ガルディス、結婚を早めろ」

 これには納得し難かったのか、ガルディスが眉を寄せた。

「何故だ」

「お前の妻だと知って手を出す馬鹿は、少なくともこの国ではいないだろう。それにリズさんは現在魔力が不安定らしいが、それも結婚を早めることで解決するとラディから聞いた。必要なものはこちらで用意してやるから、すぐに式を挙げろ」

 ふぁ!? すぐ!?

 私は驚いて、思わず身を乗り出して訊く。

「すぐっていつ?」

「できるだけ早くだ」

 えええ! 急展開過ぎてついていけないよ。

 戸惑う私を元通りソファに座らせて、ガルディスは唸る。

「急にとなれば、あらぬ噂を立てられる可能性もあるだろう。俺はいいが、リズは……」

「そんなことにこだわっている場合ではないだろう。これは命令だ。そして彼女の為だ」

 ガルディスはもう一度唸り、それから私の手を取った。

「こんなことになってしまい、準備もろくにできないままの式となってしまうが、必ずリズを幸せにすると誓う」

 私はガルディスの大きな手を握り返した。

「うん」

 むしろ早まってくれて嬉しいくらいだよ。

 感動していたら、父さんが優雅にお茶を一口飲んでから指を三本立てた。

 ……それなに? 何の合図?

「三週間後」

 父さんがきっぱりと言う。

「式は三週間後。それ以外は認めない」

 は? 認めないって、そんなこと言われても困るんだけど。でもなんで三週間後?

 レクとガルディスも疑問に思ったみたい。

「理由は?」

 すると父さんは、驚きの答えを口にした。

「リズちゃんの二十歳の誕生日だから」

 は!?

 目を見開いた私に、父さんはやれやれと溜息を吐く。

「忘れてたね、リズちゃん」

「…………」

 すっかり忘れていました。そうだ、私、三週間後には二十歳じゃない!

 そうだったのか、と訊いてくるガルディスに頷く。

「レクちゃん、準備できるよね?」

「いいだろう」

 レクが頷く。

 い、いいの?

「ガディもいいよね。リズちゃんに最高の誕生日を贈ってあげてね」

 ガルディスも神妙な顔で頷く。

 ……あ、なんだか嫌な予感。ガルディス、無理していろいろ揃えそうな気がする。

「僕は娘の結婚式で歌う歌でも作ろうかな」

「魔力は籠めないでよ」

 結婚式でいやらしい歌なんて歌ったら、一生恨むからね。

「当たり前だろう? 父さんを信用しなさい」

「信用できるか!」

 前科がありすぎるわ!

 はあ、心配……。

 私は姿勢を正してレクに頭を下げる。

「レク、父さんのことをお願いします。しっかり監視してやってくださいね」

「ああ、安心して任せてほしい。監視とは言っているが実際には保護のようなものだ。君たちは我がザレリア国が護るから安心してくれ」

「いえ、父さんは監視でお願いします。監禁でも構いません」

 それくらいしないと、何やらかすか分からないからね。

 父さんが唇を尖らせる。

「酷いなリズちゃん、拘束して拷問しても構わないなんて」

「言ってない!」

 はあ……本当に野放しにできないひとだな、父さんって。誰かにしっかり監視して、それこそ拘束でもしてもらわないとろくでもないことをしでかすよ……、ん?

 私は首を傾げた。

 誰かに拘束……? どこかで似たようなことを聞いたような……。

 そう思った時、頭の中に不意に蘇る言葉。

『権力と財力を兼ね備えた人物の囲い者にでもなってしまえ!』

 ……あ。

「ん? どうしたの、リズちゃん」

 私は父さんの顔をじっと見つめる。

「え……と」

 父さんが目を細める。

「困ったことがあったら何でも父さんに相談してね。何せ権力と財力は腐るほどあるんだから」

「……うん」

 まさか……ね。

「さっそくだけどレクちゃん、僕もっと豪奢な衣装を着たいな。それから見たことがないほど大きな宝石が付いた首飾りも」

 レクが眉を寄せる。

「そんなもの必要ないだろう」

「え? どんな衣装も宝石も君という輝きの前では褪せてしまう? やだ、レクちゃんったらお口が上手!」

「そんなことは言っていない」

 呆れた表情を見せるレク。

 無邪気にあれこれ我が儘を言う父さんを、レクが冷たい言葉でいなす。この二人、意外と相性がいいのかも。

 ガルディスもそう思ったのか、私の頭を撫でて言う。

「ラディ殿は、任せておいて大丈夫だろう。むしろ王族の保護下に入れて運が良かったかもしれない」

 うん、そうだね。運がよかったんだ。だから――偶然だよね。でも……。

「愛しているよ、リズちゃん」

 綺麗な笑顔を私に向ける父さん。

「……うん、私も」

 思わずそう返せば、

「リズちゃん……!」

 父さんがテーブルを飛び越えて抱きついてきた。

 零れるお茶、顔面を蹴られるレク。

 支えようとしたガルディスごと、私たちは後ろにひっくり返る。

「きゃああ!」

 下敷きになったガルディスから、大きな音がする。

「何するのよ、馬鹿親父!」

「てへっ。また失敗」

 可愛くないわ!



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