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こんなに大きくなりました  作者: 手絞り薬味
その後編(なろう版)
38/60

13 「実家訪問」

 王都にやって来たぞー!

 この国って大国なのは知ってたけど、こんなに華やかなんだ。活気があって人がいっぱいで建物も沢山で、他国の王都に行ったこともあるけど、この国の王都が一番発展してるな。

 思わずきょろきょろと見回せば、父さんがくすりと笑う。

「リズちゃん、そんな態度じゃ田舎者だと馬鹿にされるよ」

 そういう父さんの手には王都の名物料理が握られていた。一番はしゃいでいる奴が何を言うか。

 街を出発した私たちは別の街に向かい、そこから王都に繋がっている移動魔法陣を使用してわずか三日で王都に到着した。いや、父さんがあちこちで我が儘を言わなければもっと早く着いていたのだろう。

 馬車の窓から外を見れば、通行人が振り返って目を見開いているのがよく分かる。王都でもジギーと山賊風騎士の組み合わせは目立つみたい。

 馬車は大通りから少しだけはずれて大きなお屋敷が立ち並ぶ区域へと入っていく。これ全部貴族のお屋敷とかかな、と思っていたら、馬車が一際大きなお屋敷の門の中に入っていき、両開きの大きな玄関扉の前で止まった。

 あれ? このお屋敷に何か用事でもあるのかな?

 ガルディスが御者台から降りて馬車のドアを開ける。

「着いたぞ」

 ……え。着いたって……。

「何処に?」

「実家だ」

「…………」

 建物を見上げる。立派な三階建てだ。

「リズ?」

 訝しげなガルディスに、私はぎこちなく視線を向けた。

「まさか、実家って、ここ?」

「ここだ」

「…………」

 ちょっと待て。

「貴族じゃないって言ってたじゃない」

「貴族ではないぞ」

 父さんが私を押し退け、ガルディスの手を借りて馬車から降りてはしゃぐ。

「わあ! ガディのお家凄いね」

「父や兄が上手く商売をしているからな」

 ということは、貴族ではなくて商売でこれだけの財を得たというの? え、もしかしなくても豪商?

 呆然とする私をガルディスが抱き上げて馬車から降ろす。と、そこで重そうな玄関扉が開いた。

「ガルディス、お帰――え!?」

 茶色の髪と目、背が低めで小太りの男が私たちを見て驚きの表情になる。

「ただいま兄さん」

「…………」

「リズ、二番目の兄だ」

 固まったままの男をガルディスが紹介してくれる。お兄さん……なの? 全然似てないんだけど。

「はじめま――」

 挨拶をしようとした私を父さんが押し退ける。

「はじめまして。ラディって呼んでね」

 ちょっと、邪魔しないでよ!

 父さんに声をかけられたお兄さんは、そこで漸くハッとして顔に笑みを貼り付けた。

「はじめまして。いや失礼、これは驚いた。なんと美しい。月さえも逃げ出して……」

 す、すごいなお兄さん。復活してすぐに、父さんの美しさを称える言葉をこれでもかと並べ始めるとは。さすが商売人。

「うふふ、ありがとう」

 父さんもご機嫌だ。

 とりあえず中へ、と促されて屋敷の中に入れば、奥から見覚えのある顔がやって来た。

 お姉さんだ。それに二番目のお兄さんと同じ顔の男――でも体型は細い――と、お姉さんとよく似た茶髪茶目の女性と、黒髪黒目で背が低くて小太りの男性もやって来る。

「父と母、一番目の兄だ。それから姉は知っているな」

 えーと、黒髪黒目がお義父さん。お姉さんとよく似た女性がお義母さん。二番目のお兄さんと体型以外そっくりなのが一番目のお兄さん、だね。

 それにしても……。

 私はガルディスの家族を見る。

「ガディと全然似てないね」

 私が思ったことと同じことを父さんが口にする。こら、失礼な。

「お義父さんは黒髪と黒目で一緒じゃない」

 それ以外、ちっとも似てないけど。

 ガルディスの家族は、私と父さんを見てぽかんと口を開けている。

「親父、これが俺のリ――」

「はじめまして、ラディって呼んでね!」

 だから邪魔しないでよ!

 二番目のお兄さんが「ごほん!」と大きな咳をする。すると、家族の金縛りが解けた。

 お姉さんが一歩前に出て、私を見て首を傾げる。

「リズ……さん?」

「はい。お久しぶりです」

「……随分綺麗に、というか成長したというか……」

 お姉さんが言葉を選びながら言ってくる。ああそっか、成長途中に会ったきりだものね。そりゃ戸惑うよ。

「それに、こちらの方は……?」

 お姉さんの視線が父さんに向けられる。

 そこでガルディスが間に入ってきた。

「その話も含めて少し相談がある」

 私の姿を見れば、普通ではない何かがあることくらい分かるのだろう。お姉さんは素直に頷いた。

「そうね。では居間に行きましょう」

 お姉さんに促され、私たちとガルディスの家族は居間に移動する。

 うわー、廊下が長い。それに高そうな絵や壺が飾ってあるな。と思いながら歩いていると、お義父さんがさりげなくガルディスの横に立つ。そして囁くような声でガルディスに訊いた。

「ところで、ガルディスのお嫁さんはどっちだ?」

 見りゃ分かるでしょうが!

 居間に入り、改めてガルディスが互いを紹介する。

「これが俺のリズ。そしてこちらがリズのお父上のラディ殿」

 ガルディスの家族の顔が再び驚愕に染まる。

「お父上!?」

「まさか!」

「嫁じゃなくて!?」

 おい、お義父さん。だから嫁は私だって。

 ガルディスが父さんに視線を向ける。

「種族のことを話しても?」

「当然いいよ。長い付き合いになるのだしね」

 ガルディスは頷き、私たち恋する種族のことを家族に話す。話しているうちに、ガルディスの家族の顔は真剣なものに変化していった。

「エルフの血脈……」

 一番目のお兄さんが呟く。お義父さんがガルディスに厳しい顔で訊いた。

「お前はリズさんを、その命をかけて守る覚悟があるのだな?」

「当然です」

 ガルディス……かっこいい!

 お義父さんは頷いて、それから表情を緩めた。

「それならいい。我々もできる限り協力をする。何か問題が起こった時は頼りなさい」

 お義父さんの言葉に、私は安堵の息を吐く。

 良かった。変わった種族だからって反対されることはなかった。

「こんなに美しい娘さんがガルディスの伴侶となることが嬉しいよ」

「よろしくね、リズさん」

 私はよろしくお願いしますと慌てて頭を下げる。

 いい人たちだな。こんな人たちに囲まれて過ごしたから、ガルディスも性格がいいんだろうな。

「早速頼って悪いのだが、リズとラディ殿が陛下に謁見する為の衣装を頼みたい」

 その言葉に、お義母さんとお姉さんの目が光る。

 うわ、そんなに急に身を乗り出されても困るって。

「まあまあ、この二人を思う存分着飾らせていいのね」

「やりがいがありそうよ」

 お義母さん、お姉さん、やる気が満々すぎて怖いです。鼻息が、鼻息が……!

「謁見は明日の午後なのだが、それまでに準備ができるだろうか」

 へえ、謁見って明日の午後なんだ。でもそれって一日で衣装を用意しろってことじゃない。さすがに迷惑じゃない?

 なんて思ったけど、

「あら、誰に訊いているのかしら?」

「うちに揃えられないものなんてないだろう」

「当然間に合う」

「すぐに手配しよう」

「今以上に美しくして差し上げるわ」

 ガルディスの家族が一斉に言う。

 うわー、財力万歳!

 長旅で疲れただろうからと話はそこでいったん終わらせて、私たちは晩餐まで部屋で休むことになった。

 私と父さんとガルディス、部屋は別々だった。ずっと一緒だったから別々というのはなんだか変な感じだ。

 ちょっと寂しいなと思いながらベッドに寝転がったら、やはり疲れていたのか知らぬ間に眠ってしまっていた。そして、どれくらい経ったのか――、体を優しく揺すられて目を覚ます。

「ん……?」

 目の前には、使用人らしき女性たち。

 晩餐前に体を綺麗にしましょうと、女性たちに風呂に連れて行かれておまけに体を磨かれた。その後ドレスに着替えさせられ、食堂へと連れて行かれる。そこには既にガルディスがいた。

「リズ、眠れたか?」

「うん。でもひとりじゃ寂しい。一緒に寝ちゃ駄目なの?」

 そう訊けば、ガルディスが小さく唸った。

「リズは明日の準備があるから別々の部屋の方がいいらしいのだ。それに結婚するまではこの屋敷での同室は避けた方がいい」

 ああ、駄目か。まあそうだよね。

 そんな話を小声でしていたら、父さんがやって来た。父さん、なんだかいつにも増して肌が艶々なんだけどどうして?

「リズちゃん寝てたの? 父さん明日に備えて香油で全身を揉みほぐしてもらっちゃった」

「ああ、そう……」

 無駄に元気だな、父さんは。

 料理は美味しかった。今まで食べたなかでも一番豪華な食事だったんじゃないかな。ああ、そうそう、お兄さんたちのお嫁さんと子供、それにお姉さんの夫と子供も晩餐には来ていて、とても賑やかな食事となった。

 食事を終えると居間に移動してそこでお茶となった。この居間、広すぎるくらい広いよね。さすがお金持ち。と、そこで気づく。

「父さんは?」

「そういえば、居ないな」

 しまった! どこかで悪さをしているかも!

 慌てて探しに行こうとしたら、その父さんが竪琴を持って現れる。

 ああ良かった。ちゃんと居た……と安心したいところだけど、ちょっと待て。

「そのいかにも高そうな竪琴は何処で手に入れたの?」

「お願いしたら用意してくれたよ」

 いきなりおねだりか!

「駄目じゃない」

「大丈夫だよ、お金持ちなんだから。多少搾取しても平気平気」

 本人たちの目の前で、よく言うよ。

「むしろ、僕が使ったことでこの竪琴の価値は上がったね」

 ……どこから来るの、その自信は。

 父さんは椅子に座って竪琴を構える。

「僕は吟遊詩人です。娘を家族と認めてくださった皆様に感謝の一曲を」

 そして竪琴を弾きながら歌いだす。

 何かやらかす気かと警戒したけどそんなことはなく、魔力の籠っていない声で恋の歌を歌う。

「…………」

 ……あれ? なんでだろう、なんでこんなに胸が温かくなるんだろう。今まで父さんの歌なんて聴き飽きるほど聴いてきたのに。

 微笑みを浮かべて琴を爪弾く父さんの姿は美しく、声は優しく甘い。ふと見れば、ガルディスの家族が泣いていた。

 ガルディスが私の肩を抱き寄せて頬に指を滑らせる。

 え? なんで濡れているんだろう?

 分からなくて、ガルディスに縋りつく。

 琴が澄んだ音を響かせて、歌は続いた。




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