<3-2>近くの街で 7
「ちょっと、そこのおじさん。
暇なんだったら、この皿を見て行きなさいよね」
「ん? おじさんって俺か?
生憎だが、まだおじさんって呼ばれる歳じゃねぇぞ?」
「ふん。別にアンタの歳なんてどうだっていいのよ。
そんなことより、この皿、買いなさいよね」
王子達の手紙を書き始めたサラと別れた俺は、早速とばかりに、ミリア達のもとへと向かった。
カラスの目を通じて確認した限りでは、ミリアとノア、それにアリスを加えた3人で皿や服などを販売しているようなのだが、実際に近づいて見ると、どうにも様子がおかしい。
まず、販売員としてアリスが居る。
いや、まぁ、アリスが居る事自体はおかしなことではない。そもそも、アリスを販売の手伝いとして送り出したのは俺だしな。
「ノア。服の注文が入ったから、採寸と裾直ししてあげなさい」
「はーい。任せといてよ」
「リア姉。そこの客はカモっぽいから、適当に接客して、高い物を売りつけてしまいなさいよね」
「んー? わたしは、こっちのお客様の接客をすればいいのね? わかったわ」
俺の予定では、ミリアとノアが先導し、アリスが2人のサポートをするはずだった。
しかしながら、目の前で繰り広げられているやり取りを見る限り、なぜかアリスがメインで店を回しているようだ。
「……あれ? おじさんまだ居たの?
うーん、そうね。おじさんにはこの皿の価値なんて全然わからないだろうから、アリスが特別に教えてあげるわ。感謝しなさい」
しかも、その態度はどう見ても、接客中の店員のそれではない。
「いいこと? これはねぇ、ただの皿じゃないの。
どんな汚れだって、水をさっと流せば落ちるのよ。
まぁ、あんたの給金じゃ、とても買えるような代物じゃないんだけどね」
道行く人に暴言を吐き続ける。しかも、その内容は、殆どが言いがかりのようなものだ。
「ふはははは。面白い嬢ちゃんだな。
まぁ、たしかに俺の給料はやっすいが、皿くらい買えるさ。
それで? その汚れが落ちるってのは、見せてくれんのか?」
「なによ。見せてくださいでしょ?
まぁいいわ。リア姉、ペンキとってくれる?」
そして、1番おかしいと思うポイントは、アリスのその態度が、道行く人々に受け入れられているという事実である。
手当たり次第に暴言を吐きまくっているその態度に、お客様が切れてもおかしくないと思うのだが、誰1人として怒るような素振りを見せない。
……これは、あれか? ツンツン喫茶的な感じで、新手のパフォーマンスだとでも思われるのか?
「ほら、しっかり見なさい。
あれだけ塗ったペンキが一切残って無いでしょ」
「……すげぇな。ほんとに消えてやがる」
「アリスが販売する商品なんだから、そのくらい当たり前よ。
それで? 買うの? 買わないの?」
「……2つ、貰えるか?」
「ふーん。嫁の分まで買っていくなんて、あんた、意外に良い人みたいね。
リア姉ー。カモが食いついたから、後お願いねー」
「うん、任されました」
遠目から見ていた数分だけで、皿も服も、それなりの数が売れていった。
どうやら、アリスが独特のセンスで客を呼び寄せ、高い商品力を見せ付けることにより、売り上げを伸ばしているようだ。
正直な話し、アリスのポテンシャルをなめてました。
「3人ともお疲れ様。
結構がんばってるみたいじゃないか?」
可愛い3人が地道に頑張る姿を眺めていると、なんだか心が温まり、幸せな気分になるのだが、いつまでのそんなストーカーのようなことをしているわけにもいかず。
客の足が途絶えたタイミングを見計らって、俺は屋台に近づいた。
「あっ、兄様!!
お帰りー」
「んー? ハルくん?
ふふふ、なんだか、男らしい顔つきになったわね」
側に居なかった時間はたったの1日なのに、お帰りと言われるだけで、なんだかほっとする。
そんな歓迎ムードを作りだす2人に対して、明らかに怒っている娘が1人。
「……アリスに黙ってどこで遊んでたのよ。
出かけるなら出かけるで、言ってからいきなさいよね、まったくー」
たしかに、アリスの言う通り、街を出る前に伝えるべきだと思う。だが、あの当時はそこまで考え付くほどのゆとりはなかったのだから仕方が無い。
それでも、いきなりの予定変更で心配をかけたのは事実だろう。
「ちょっと思うところがあってな。
心配掛けてわるかった。次からは絶対に言って行くようにするよ」
アリスの機嫌が少しでも良くなるように、そしてお詫びの心を込めて、髪を梳くようにアリスの頭を撫でみた。
「べ、べつに、心配なんてして無いんだから!!
…………けど、頭を撫でたいなら、べつに、撫でてもいいわよ?」
撫でられながら、アリスは、子猫のような目で見上げてくる。
うん、どうやら、機嫌も戻ったらしい。
「……それで?
いきなりクロちゃんとお出かけだなんて、いったい何があったのか教えなさいよね」
「……あぁ、そうだな」
休暇は十分だろうし、すぐに動き出す必要があるため、勇者のせいで村が滅んだこと、その村を見に行ったこと、そこで感じた俺の思いを伝える。
内容が内容だけに、先ほどまで3人が浮かべていた笑顔は、一瞬にして消え去り、誰もが表情を引き締めた。
「うん。わかったわ。
村への伝言は、お姉ちゃんに任せてもらっていいわよ?
信用できる商人の知り合いに頼めばいいだけだから」
「そうそう。お姉ちゃんの言うとおり、あたし達に任せてもらって大丈夫だよ。
商人は敵同士ではあるけど、お金さえ払えば味方になってくれるからね。
そこに裏切りは絶対にないって約束できるよ」
どうやら、2人も俺の意見に賛成し、手伝ってくれるようだ。
「ありがとう、恩に着るよ。
……アリスはどう思う? 住民を保護してもいいかな?」
「……ふん。好きにしたらいいじゃない」
「そうか、ありがとう」
「……どうしてもって言うなら、手伝ってあげてもいいわよ?」
「あぁ、頼りにしてるよ」
その後、リアム達とも話しをした結果、全員の賛成をもって、勇者国は民の保護を行うことになった。




