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<2-39>近くの街で 5

「いやー、俺もよく知らねぇんだがな。

 なんでも最近この世界に来られた勇者様をいたく尊敬してたらしくてよ。勇者様を称えた祭りと称して村人全員で宴会してたらしいんだわ。

 んで、たまたま遠征に来ていた、第2王子の先触れがその光景を見ちゃったって話でよ。

 そんでもって、村の家々を調べて見ると、勇者を称えている物が出るわ、出るわ。

 即刻、村人全員が処刑だとさ。


 中には、勇者様を神として崇める宗教を開いてた者まで居たらしぞ。詳しくは知らないがな」


「……そうか」


「そうそう、それでな。機嫌を悪くした第2王子は、密偵を放って全部の村を調べ上げるって話だよ。次はわが身かねー。

 おーし、出来たぞ。熱いうちに食えよ」


「あぁ、ありがとな」


 クロエが食べ歩きツアーを始めてから2時間ほど。


 待ち時間を利用した情報収集の結果。どうやら、第2王子が持つ権限により、1つの村が壊滅させられたらしい。

 しかも、その原因はどうやら勇者(おれ)のようだ。


 王子の虐殺はその村だけに留まらず、今後も増加する可能性が高いとの事。


「処刑、ねぇ……」

 

 どうやら街でのんびりと買い物を楽しんでいる場合ではないようだ。


「…………。おーい、クロエー。出来上がったってよ」


「ふぁーい。いふぁいふー」


 そんな俺の気持ちとは対照的に、クロエは頬をパンパンにハンバーガーを頬張り、幸せそうな顔で口をもごもごさせている。

 左手に持っている饅頭は次の獲物なのだろう。


 ……まぁ、村が壊滅したことと、クロエには直接関係なんてないしな。関係あるのは勇者(おれ)だけか……。

 

 そうだな。クロエ達には、この街での休暇を延長してもらうことにして、俺1人でその村の状況を見てくるとするか。

 もし墓なんかがあれば、拝んでこようかな。


 顔も知らない人だったとはいえ、俺のせいで亡くなったんだからな……。


 ……あれ? 肝心の村の場所聞き忘れた……。

 

「……なぁ、サラ。

 マルクっていう村の場所が知りたいんだが、どこにあるか知ってるか?」


「ん? マルク村かい? そこなら、街道からすこしだけわき道に逸れた森の中にある村だったと記憶しているよ。ボク達の秘密基地とは逆方向だね。

 そのマルク村がどうかしたのかい?」


「いや……、うん……。……それがな。

 勇者を崇めていた罪で村人全員が処刑されたらしいんだわ」


 恐らくはサラも知らなかった情報なのだろう。俺が言葉を放った瞬間、彼女は目を見開き、視線を彷徨わせる。


「それはあれかい?

 ボク達の味方をしようとしてくれた村が、兄達の手によって滅ぼされた、ってことでいいのかい?」


「あぁ、そういうことだ」


「なるほど。それは完全に予想の範疇を超えた事態だね。

 まさか民を虐殺するなんて思わなかったよ」


 俺達に負けた農民兵士達を村に返す際、彼等が敗北の責任を負わされるのではないかと相談したのだが、サラとアリスの王族組みから否定の言葉を貰った事がある。

 王位につく可能性がある者は、相応の教育を受ける義務があり、農民が増えれば税金が増えるのだから殺さないほうが良い、と学ぶらしい。

 故に、増税される可能性はあっても、命や自由までは奪われないと聞いていた。


 だが今回、第2王子は、その王族の常識と言える部分を無視したようだ。


「キミを崇めたくなる気持ちはわからないでも無いが、敵の目がそちらに向くと大変な事になりそうだ。

 みんなを集めて話し合いをするかい?」


 前例が出来てしまった現在において、早急に対策を立てなければいけない。

 サラの表情から考えても、事態は深刻なようだ。


 しかし、そんな状況だとわかっていながら、俺は自分の我侭を突き通すことにする。 


「いや、皆には休暇が終わってから話すよ。こんな情報を知ってしまうと休暇どころじゃ無くなるからな」


 本当の事を言えば、サラやクロエにも聞かせたくはなかったのだが、村の場所を聞いた手前、なんでもない、などと言えるはずも無いしな。

 せめて、ここに居ないメンバーくらいは、のんびりと休暇を楽しんでもらいたい。それが1点。


 そしてもう1つは、責任者としての墓参り。それだけはどうしてもしておきたい。


「まぁそんな訳で、俺はちょっとその村に行って様子を見てくるよ。

 名目だけの立場だけど、これでも勇者国の代表だからさ。

 みんなは俺が帰ってくるまで休暇を延長して――」


「処刑された村に行くの?」


 金が足りないようなら服や皿を売った金を使ってもいいからな。などと言葉を続けようとしたが、突然、俺の声をクロエが遮った。


 それまでずっと食べ物だけに向けられていた瞳が、真っ直ぐ俺に向かう。


「私も一緒に行っちゃだめ?」


「……この街の飯、全部制覇するんじゃなかったのか?」


「いいの。それよりも、お兄ちゃんについていく」


 何が彼女の心を動かしたのかはわからないが、その瞳からは、強い意志と、どこか寂しい思いが伝わってくる。


「それに、お兄ちゃんの護衛をする人も必要でしょ?

 お兄ちゃん1人だけだったら、すぐ盗賊さんに捕まっちゃうんだよ?」


「……わかった。2人で行くか。

 サラ、そういうわけだから、俺達が帰ってくるまでこの街で休息しててくれ」


「了解したよ。

 本当ならボクも一緒に行くと言いたいところなんだが、護衛対象が増えると大変だろうからね。大人しく待っていることにするよ」


 妹に盗賊から守ってもらうって、どうなんだよ? とか思ったりはしたが、彼女がうちのメンバーの中で1番強いのだから仕方が無い。

 

 ってか、クロエが飯以外に真剣な目を向けるのって、初めて見た気がするな。


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