<2-34>近くの街で
「お兄ちゃん。あそこでドルビの串焼き売ってるよ。
買ってもいい?」
「まてまて。
先に今後の予定と集合時間を――って聞いてねぇな」
クロエの強い希望により開かれた宴会を終えてから2日。
俺達は近くの街に来ていた。目的は魔法で作った皿や服の売却と、みんなの息抜きだ。
ちなみに、昨日は死屍累々な状態で、とてもじゃないが外出できるような感じではなかった。
地獄絵図という言葉がぴったりな状況だった。
誰だよ、酒を手作りしてうちの女性陣に飲ませた奴は! ほんと、大変だったんだからな!!
脱ぎだすやつ居るし、縛りだすやつ居るし、にゃーにゃー言い出す奴居るし、ずっと怒ってるやつ居るし、カラス食べようとする奴居るし、爆薬作りだす奴居るし、リアム達は、後は夫婦水入らずでお楽しみください、とか言って、早々に帰りやがるし。
絶対に褒美以外でお酒を出してやらねぇからな! 造った酒は俺1人で全部飲んでやる!!
あー、もしかすると、戦闘より宴会の方が疲れたかもしれないな……。
「へぇー、ボクの記憶が間違っていなければ、王都より活気があるように見えるね。
ずっとこんな雰囲気なのかい?」
「うん。毎日が収穫祭してるような感じの街だよ。
あたしとお姉ちゃんは何回も来てるから、困ったことがあったら聞いてね」
エッヘンとノアが胸を張る。
なんでも、両親が健在だったときに、商売目的でよく訪れていたそうだ。
「頼もしい限りだね。それじゃぁ、遠慮なく頼らせてもらうよ」
「うん、任せといて」
俺達が訪れた町は、貿易の拠点として利用される場所で、商人の往来が多く、飛び入りで参加できるフリーマーケットが毎日のように開かれているらしい。
王国で王都に次いで2番目に大きな町らしく、王都よりは見劣りするものの、町全体が高い壁で覆われ、その周りに空堀が設置されていた。
ミリア曰く、この町の面白いところは、町に入る際の審査が無いことらしい。なんでも、町を出るときに返還される保証金と入町料さえ支払えば、誰でも入れるのだとか。
悪人だろうとなんだろうと、町でお金を使ってくれる人はお客様ってことらしい。
そんなんで治安とか大丈夫なのか? なんて思ったのだが、以外にも犯罪率は低いそうだ。
この国での犯罪は、盗みや拉致など、お金目的のものが主流であり、お金を持っている人が、わざわざ悪いことなどするはずが無い。そんな国なのだそうだ。
さすがお金が主体の街と言うべきか、門を抜けた先には、露天が所狭しと並び、活気のいい声が耳に飛び込んでくる。
ノア曰く、町全体がお店のような状態で、1日ですべての店を診て回ることは不可能なくらいの数だそうだ。
「ただいまー。お兄ちゃんにも1本あげる」
「あぁ、ありがとう」
そんな町の活気に吸い寄せられたのか、食いしん坊魂に火がついたのかはわからないが、入った直後にクロエが人だかりの中に飛び込んでいき、しばらくして、5本の串を手に帰ってきた。
そのうちの1本がすでに串だけの状態で、満開の笑顔が咲き乱れているところを見るに、すでに1本食べた後らしい。
「安くて新鮮で美味しいよ」
進められるままに、魔物の肉だと思われる塊を口の中に放り込む。
軽く噛むと、肉はあっさりと切れ、薄い塩味と芳醇な旨みが口の中に広がった。
「……うまいな」
マグロの赤身を表面だけバーナーで炙っり塩を振ったかのようなその味に、幸せな懐かしさがこみ上げてくる。
醤油欲しいよー。わさびも欲しいよー。
……日本酒か白いご飯をください。もしくは俺に、米と糀を使わない日本酒の造り方を教えてください。
「美味しいでしょ」
「……あぁ、見た目は肉なのに、魚のような味だな。びっくりした」
「えへへー。この町は美味しそうなものが一杯だね」
「そうだな」
ん? ってか、商売がメインの町だったら、米もどこかに売ってるんじゃないか? もちもちな日本の米までいかなくても、タイ米みたいなのくらいならあるんじゃないか!?
白いご飯は無理でも、ピラフくらいなら可能なんじゃないのか!?
よし、今日の目標が決まったな!!
「今日の予定だが、この後すぐ宿を決める。そして、その後は自由行動とし、明日の昼ごろにダンジョンへと帰る。
それでいいか?」
そういって、全員を見渡してみたが、誰からも異論の声は上がらなかった。
「うし、それじゃぁ、ノア。
オススメの宿とかあったら教えてくれ」
「はーい。
兄様、予算はどのくらい?」
「ん? ……あー、程々な感じで。
朝食付きの個室でよろしく」
「んー、それなら、あそこでいいかなー。……うん、決めた。
それじゃぁ、みんな、はぐれないように付いてきてねー」
どうやら該当する宿があったらしい。
美味い飯が出てきたらいいな。……ん? ご飯?
「……クロエ。ちょっとこっちに来てくれないか?」
「んー? どうしたの?」
「宿に到着するまで俺の手を握っててくれるか?
屋台にふらふらーっと吸い寄せられて居なくなりそうだからな」
「……んー、……わかった。握っとく」
何処と無く不満げな表情を浮かべたクロエだったが、自分でも食の誘惑に勝てないと思ったのか、素直に手を繋いでくれた。
「ダーリン。アリスとも手を繋ぎなさいよね」
「ん? なんでだ?」
「な、なんででもいいじゃない。
ダーリンは黙って手を出せばいいのよ」
「……へいへい」
なぜかそういうことになり、食品系の店に目を奪われるクロエと上機嫌なアリスを引っ張りながら、ノアの後について行った。




