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<2-33>対策会議

「おにーちゃーん。準備できたよー」


「……あぁ、今行く」


 魔法部隊を殲滅してから4日。

 

 俺達の情報が敵に伝わってしまったことに対する今後の予想や、対策について話し合いを重ねた俺達は、拠点の守りを強化する、という結論で落ち着いた。


 この人数で王子達に攻撃を仕掛けることなど出来るはずもなく、相手の出方を伺いつつ、守りを固める以外に選択肢など無かったわけだ。

 つまるところ、現状維持である。


 そして今、なぜか俺の目の前には豪華な食事が並んでいる。


「早く早く。

 お兄ちゃんの席はこっちだよ」


「……ほんとに、いっぱい作ったんだな」


「ふふーん。がんばりました」


 目玉焼き、ゆで卵、味付け卵、ステーキに焼き鳥、から揚げ、シュウマイに水餃子、デザートはスイカとりんご、蜂蜜のクレープ。

 それらが、陶器のような白い器に入れられ、天高く積み上げられていた。


 決定的な打開策が見つかったわけでは無いが、一応は結論が出たということで、延期していた宴会を開くことになった。


 俺としては、敵の目的が情報だったことを考えると、身内に犠牲者が出ていないとはいえ、今回の戦いは俺達の負けだったと思っている。

 なので宴会は、無期限の延期、という形にしようと思っていたのだが、……クロエ様の笑顔が大変怖かったので開かせて頂きました。


「ハルくん。とりあえず4本だけ持ってきたんだけど、良かったかしら?」


「あぁ、問題ないよ。

 もし足りないようなら、後で持ってきたらいいしな。

 それじゃぁみんな。席についてくれるか?」


 そういって、ミリアから2リットルペットボトルに入れられた黄金色の液体を受け取る。

 そして、褒美だから俺が注ぐと言って、1人1人の席を回り、各自のコップに俺特性のドリンクを注いでいった。


「今回の戦闘では、皆の頑張りにより、敵を撃退することが出来た。勇者として、君達を誇らしく思う。

 そんな君達に報いるために、食事と飲み物を用意した。本日はおおいに楽しんでくれ。

 乾杯」

 

「「「「カンパーイ」」」」」


 お馴染みの掛け声と共に、手に持ったコップに口をつける。


 口いっぱいに心地よい炭酸の刺激が広がり、ほのかに残る蜂蜜の香りが鼻から抜け、後味には程よい酸味が残る。

 そしてアルコール特有の香りを体全体で感じた。

 

 俺と同じように、褒美に口をつけた仲間達は、みんな驚きの表情で自分のコップを眺める。


「……ハルキ。僕の感覚が間違っていないなら、この液体はお酒だと思うのだが、気のせいかい?」


「あぁ、酒で間違っていないよ。褒美として炭酸入り蜂蜜酒(スパークリングミード)を振舞って見た。

 俺の好みに合わせてみたんだが、サラはどう感じる?」


「うーん。……このシュワシュワ感には驚くが、嫌いでは無いと思う。

 それよりも何処から入手したんだい? 塩以外の物を外から購入してきたなんて話は聞いていないのだが、僕に隠れて調達してきたのかい?」


「いや、俺が作った。いわば密造酒だ。

 俺が飲みたくて作ったものなんだが、塩を扱う商人との取引にも使っている。造れる量が少なく、王国の法律に触れるらしいから、大々的には流してないがな」


「……なるほど、勇者としての知識、というわけか」


「そういうことだ」


 この世界に召喚された当時、情報収集のために立ち寄った魔物の肉の焼き鳥屋で、アルコール類が販売されていなかったことにショックを受けた俺は、その後、サラにこの国の酒造りについて情報を流してもらった。

 

 どうやらこの国では、製酒業は王家直轄事業として厳しく管理され、戦いが起きた場合には、出回る量を極端に減らし、かわりに褒美として与えているらしい。

 酒が飲みたければ兵士になって手柄をあげろ、ということのようだ。


 そのため、王家と敵対している俺には、どう頑張っても酒を手に入れる機会が訪れないことがわかり、それならばと、日本時代の知識をもとに、いちから作り上げた、という訳だ。


 ちなみに、塩づくりも王家の管轄で、販売や移動に制限が掛けられているが、こちらは酒と比べて管理が甘い。そのため、密造、密売する者がそれなりに居るらしい。


 一応、塩つくりの知識も無いわけでは無いが、海も塩湖も無いこの地で塩を作れるはずもなく、生育が難しいらしい胡椒と一緒に、ミリアとノアを通じて密造酒と交換してもらっている。 


 密造酒、おぬしも悪よのぉ。

 いえいえ、密造塩様ほどでは……。という感じだ。


「まさか、お酒を頂けるとは……。

 本当にありがとうございます、勇者様」


「十分な量の酒を用意しているから、遠慮せずに飲むといい。

 今出した物は蜂蜜だが、りんごから作ったものもあるので、欲しいものは言うように」


「はい、ありがとうございます」


 どうやらこの国に炭酸飲料の文化は無いようで、みんな、独特な刺激に目を白黒させながらお酒を楽しんでいる。


 ……次に作るやつは、二次醗酵(シャンパン)はしないほうが良さそうだな。


 そうそう、なぜ俺が蜂蜜酒を造ることが出来たかといえば、そう、あれはいまから地球の暦で十数年前、俺がまだ中学2年だった頃にさかのぼる。


 そのときの担任が理科を専門とする教師であり、生徒に無駄な知識を披露することが好きだった事が今回の要因となった。


『いいか、お前等。実はな。お酒ってのは2週間もあれば、特殊な道具を使わなくても出来るんだ。

 たとえば、蜂蜜なんかはそれ自体に酵母が混じっているし、りんごは、無農薬ならその皮の表面に酵母が付着している。ゆえに、酵母が元気に育つ温度にしてやれば、糖を分解してアルコールと二酸化炭素を作るって流れだ。

 まぁ、日本の法律だと違法だから作ったらダメなんだがな』


 なんて、授業の合間に言っていたことを思い出して、試行錯誤を繰り返し、製造魔法でガラス瓶やペットボトルなどを作成し、生活魔法(ライター)の応用で温度を保つなど、魔法の力も借りて作り上げた。


 ってか、お酒も飲めない年齢で、しかも違法って、先生ともあろう人間が、なにを言ってるんだよ。もしかしてバカなのか? たぐい稀なるバカなのか? なんて思って聞いていたのだが、この世に無駄な知識なんて無い、と言う言葉を再認識した。


 人生、何が起きるかわからない。

 一見無駄に見えても、記憶の片隅に残しておいて損はないようだ。


 ……ん? その際に起こる、アルコール醗酵の化学式?


 あー、なんか、そんな話聞いた気がするけど、覚えてないねー。

 ってか、化学式とか、人生で使う機会なんて無いと思わない? 覚えたって無駄でしょー。


 とまぁ、そんなことはさて置き、いやな事はすべて忘れて、久しぶりのお酒を楽しみますかね。


「兄様、兄様ー。ヒック。

 へへへー。兄様」


「もぉ、どうしてダーリンが3人も居るのよ?

 さては、偽者が混じっているわね。ダーリンの癖に生意気なのよ」


「ハルくん。なんだかここ暑くないかしら? 暑いわよね?

 暑いから脱ぐわね」


 ……気にしない、気にしない。

お酒は20歳になってから

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