<2-32>侵入者16
「死体が動くわけが無いし、恐らく生きていたんだろうな。
……サラ、死体って動かないよな?」
「んー、動く死体や操作魔法なんかが使える魔法使いが居れば可能だけど、今回に限っては側に僕達が居たからね。
誰の目にも触れることく、忽然と消えてたことから考えると、十中八九、移動魔法を使ったと思うから、生きていたと考えるのが妥当だと思うよ」
魔法の世界だからと思って聞いて見たのだが、死体は動かない、という常識は無いらしい。
どうやらこの世界の推理小説家は大変なようだ。だって、死体が動いたんじゃ、トリック全般が仕えなくなると思うし。
まぁ、この世界に推理小説家がいるかどうかなんて知らないけどな。
「敵の1人が生きていて、移動魔法で逃げた可能性が高いけど、死体が動いた可能性もあるのか……。
よし、少しだけ様子を見ることにしようか。
残った遺体は洞窟の入口で1日放置。俺がカラスを使って24時間、じゃなかった、1日中見張って変化が無いか確かめる。
それと同時進行で王都の様子も確認してみるから、結果がわかり次第またここに集まることにしよう。
今はゆっくり体を休めてくれ。それじゃ――」
「ちょっとまって。
お兄ちゃん、質問していい?」
情報が足りず結論が出せなかったので、その場を解散しようとしたが、俺の声をクロエが遮った。
「……あぁ、いいぞ?」
「えっとね、宴会の準備はどうするの?」
「ん? ……あぁ、そういえば、そんな話をしていたな。
悪いが、事情がかわったから、状況が把握できるまで宴会は延期する。それでいいよな?」
俺がそういうと、クロエは驚いたように目を開き、頬をプクーっと膨らませる。
「……やだ」
「いや、やだって……」
「やだもん」
クロエが拗ねてしまった。
……やだ、なにこの子。かわいいんですけど。
膨らんだほっぺを突っついたら余計に怒るかな?
……けど、まぁ。この状況で明日宴会ってわけにはいかないよな。
「クロエは、俺と食事、どっちが大事なんだ?」
我ながら卑怯な質問だとは思うが、仕方が無い。
もし移動魔法が使える者が生きて王都へ帰ったとすれば、俺達の人相や戦い方など、俺達が不利になる情報が敵に渡ることになるんだ。
早いうちに状況を把握し、対策を立てなければ、取り返しの付かないことになる。
「ん? お兄ちゃんと食事?
んー………、食事!!」
ん? …………え?
……あ、はい。
そうですよね。……知ってましたよ?
俺なんかが人間の三大欲求の1つに勝てるはずないですよね。
あれ? なんだろう。目から汗が……。
「悩む素振りを見せてくれてありがとうございます」
そう、即決じゃなかった。一応、悩んでくれた。俺はそれだけで満足です。
…………ほんとだよ?
さて、どうするかな……。
クロエが納得してくれそうなこと、……うーん。
やっぱ、飯関係だよな。
「あー、クロエ様。
飯の量を増やすので、日にちを延長させてくれませんか?」
「ご飯、増量? んーーーー、…………。
……うん、わかった。約束だからね」
えーっと、あのー、クロエさん。先ほどの質問より今回の方が悩んだ気がするのは、俺の気のせいですかね?
気のせいだよね? そうだよね?
周りのみんなも、俺を哀れむような目をしているのも気のせいだよね?
……うん。気にしない。
「……みなさま、解散してください」
「イ、イエッサー」
まぁ、そんな感じで、精神に大きなダメージを受けながらも、自室に戻った俺は、全身系を集中して、王都周辺に配置したカラス達と感覚を共有し、情報収集を開始した。
その結果、やはり移動系の魔法使いが生きていたこと、俺達の戦い方や人相が第2王子、第1王子に伝わってしまったことを知った。
腹に銃弾を受けた移動系の敵は、遅効性の回復魔法で回復し、女性陣がわいわい話をしている隙に魔法で逃げ出したらしい。
狙いを外し、移動魔法が使える者を即死させることが出来なかった原因は俺で、回復魔法が使える者に魔法を使う時間を与えてしまったのも俺だ。
さらに、俺がみんなに心配を掛けなければ、アリスに自室に連行されることっも無く、女性陣が話し込むこともなかっただろう。
つまり、すべての責任は俺1人にあったわけだ。
俺は何のために、彼等の命を奪い、何のために、彼女達の手を汚させたのだろう。
自分の無能さ加減が嫌になる。
「今回の結果は仕方の無かったことだから、自分を責める必要は無いと進言させて貰うよ」
「そうだよお兄ちゃん。
私の焼き鳥あげるから、元気出して」
「終わったことを悩んでても仕方ないでしょ。
みっともない顔してないで、笑いなさいよね」
「兄様は笑ってるほうが、似合ってるよ」
「お姉ちゃんがよしよししてあげるから、嫌な事は忘れちゃおうね」
仲間達に情報収集の結果を伝えると、みんな、同じような言葉を口にした。
どうやら、俺はポーカーフェイスも出来ないらしい。
ほんと、いやになるね。




