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<2-31>侵入者15

「アルフレット王子。先ほど、先遣の魔法部隊が帰還したとの報告が入りました。

 どうやら大変苦戦したようで、こちらの被害は甚大とのこと。

 可及的速やかに報告書を提出するそうです」


 王都にある第2王子専用の職務室に魔法部隊凱旋の吉報が舞い込んだ。


 ただしそれは、第2王子にとって、日々届けられる報告のうちの1つでしかない。


「……んー? どこに出してた部隊?」


「偽勇者を名乗る逆賊のねぐらへ差し向けた部隊です」


「うん、そっかそっか。

 おつかれさま」


 そして、休むように伝えといて、と言って報告の兵を退出させた。


 第2王子に回ってくる報告は多岐に渡り、その1つ1つに注意を向けることなど無い。

 今回の報告を受けている間も、王子は1度たりとも、報告している兵の方を見ようとはしなかった。

 彼にとって、下から上がってくる報告など、あーなんか言ってるなー、と言った程度の認識でしかないのだ。


 しかし、今回の報告についてはその限りではなかったようで、ふと何かを思い出したかの用に、手元の書類から視線を上げた王子は、斜め前に座る側近に声をかける。

 

「……勇者?

 もしかして、今の報告って、無能な妹達の所の話?」


「はい。サラ様とアリス様も偽勇者と行動を共にしていたとの報告があがってきています」


 おや? と思いながらも、主からの問いに答える側近。

 その答えを聞くや否や、第2王子の様子が急変した。


「きたきたー。まってたよーー。

 かえってきた人達をすぐに呼んできて!!」


「……いますぐに、で、ございますか?」


「うん、すぐすぐ!!」


 はぁ。と困惑した返答を返しながら、側近兵は助けを求めるように宰相、第2王子の暴走を止める事が出来る唯一の人物へと視線を向けた。


「……誠に申し訳ありませんが、あと数刻ほどで、商業ギルド長のグラン様との謁見になりますので、その後、ということでよろしいですか?」


「えー、グランって、あの面白くないおっさんでしょ? そんなん、拒否しちゃってよ。

 それよりも、偽勇者の報告が聞きたいんだって」


「……王子のお気持ちは重々承知しておりますが、グラン様の方も、緊急を要する事態と伺っておりますので、そこをなんとか、お聞き届け願えませんか?」


「うーん。……まぁ、爺がそういうなら、……。

 ……おっ!! そうだ。なんだったら、一緒に呼んじゃえばいいんだよ。

 おっさんの話も聞くし、偽勇者の話も聞く。それならいいよな?」


「……あー、しかし、……。そうですね。……畏まりました。

 それでは、第2魔法部3番隊にも召集命令を出しておきます」


「うん。よろしくー」


 そういうことになった。


 それから30分後。そんな第2王子の一声で急遽呼び出された勇者討伐隊の唯一の生き残りは、状況が理解できないまま、急ぎ第2王子用の謁見の間へと足を踏み入れた。


 部屋の中では、恰幅の良い男性が片膝を床につけ、王子に何かを訴えている。

 

 どうやら商業ギルド長の方が、彼よりも早く到着していたようだ。


「事態は国の威信に関わる問題でございます。なにとぞ、適切な処置をお願いしたく思います」


「処置、処置ねぇー。そういうのは君達で勝手にやって――おっ!! 待ってたよー、早速報告してー」


 そして部屋にはいるなり、王子から直々に催促を受けてしまった。


「はっ! 遅くなり申し訳ありませんでした。それではさ――」


「ぉ、王子。

 申し訳ありませんが、もう少しだけお話を。

 酒は王家の管轄ではありませんか」


「いや、だって、密造酒が出回ってるって言っても、どうせ内部分裂で足引っ張ってるんでしょ?

 知ってるんだよ? 君のところ、長と副長の中が悪いんだってね?

 どうせ、その密造酒も君の事が嫌いな誰かがやってるんでしょ。そういうのに王家を巻き込まないでよ」


 第2王子の指摘通り、商業ギルド長自身も、おそらく身内の誰かがやっていることだろうと思っていた。


 この世界において醸造は厳しく制限されており、その情報を得られる者も限られている。

 ゆえに、ギルド長としても、十中八九副長が絡んでいると思い、王家に目障りな彼を排除してもらおうと考えてその調査を依頼しに来たのだ。


「…………」


 そのため、的確に指摘された彼は、絶句するしかない。


 最近急に権力を持ち始めた第2王子は、極度の気分屋で組し易いと聞いた故の行動だったのだが、どうやら、気分屋ではあるものの、バカでは無いらしい。


「ってな訳でグランは帰宅でーす。

 あ、そうそう、キッチリ調査して、賠償金を王家に納めさせてねー」


「……畏まりました」


 そして彼は逃げるように退出した。内部の情報が知られている以上は、何を話しても墓穴にしかならないだろうと判断したようだ。


 周囲に誤解されることが多いのだが、第2王子もまた帝王学を学んだ由緒正しい王族なのだ。

  

 さぁ、これで邪魔者は居なくなったとばかりに、王子は第2魔法部3番隊の生き残り、移動系の魔法使いに声をかける。


「君が見たこと、聞いたこと。勇者と妹達について、詳しい話をよろしくー」


「はっ!! 畏まりました、それでは……」


 そして、偽勇者の情報が第2王子へと渡ることになった。第1王子にも間者を通じて、数日中に届くことになるだろう。

 

 彼曰く、偽勇者が居るとされる洞窟内で勇者を名乗る少年と遭遇。未知の遠距離魔法で腹に痛手を負ったものの、回復魔法のお陰で一命を取りとめ、王都へと帰還したとのこと。

 

 彼に掛けられた回復魔法は遅延型で、魔法を掛けた仲間が死亡した後も、その魔法は効果を発揮し続けた。

 そのため、回復したときには自分以外全滅していたものの、こうして帰還できたという訳だ。


「ここからは私個人の見解ではございますが、見た目は15歳ほどの少年で、組織としての戦術を備えているようです。そのため、大きな力を得る前に、排除しておいたほうが良いと考えます。

 また、どうやら仲間を守ることを信条にしているようで、その点が弱点になるかもしれません」


「そっか君以外は全滅したんだね……、あとで共同墓地のほうに顔をだすよ。

 ……今回、君達が見てきた物は有効に活用させてもらうよ。彼等の死は絶対に無駄にしないと約束するよ。ありがとう」


「お役に立てて光栄です。

 王子に祈って頂けるのであれば、あいつ等も思い残すことは無いでしょう。

 それでは、失礼致します」


 そして、しんみりとした空気を保ったまま、彼は静かに部屋を出て行った。


 そんな彼を見送った王子は、それまでに溜め込んでいたものを爆発させるかのように、奇声を発する。


「ぅぅうううう!! いいねぇ!!

 いいよ、いい。すごくいい。

 まさか、魔法使いを全員を倒すなんてねぇ。いやー、最高だよ。

 最近は兄貴がおとなしいから退屈してたんだよね。

 うん、本格的に手を出してみよっか。

 もしかすると、兄貴より面白いことになるかもね。うん、きっとそうなるよ」


 そのテンションの高さから、周囲の人間は口出しできず、もはや独演会だ。


「いいなー、どうしたらもっと楽しくなるかなー。ふははは。

 あー、そうそう。それじゃ、そういうことで、手配しといてね」


「え? あ、はい。……了解しました。

 それでは偽勇者討伐の手配をいたします。

 それで、規模はどのくらいにいたしましょうか?」


「うーん、そうだねー。

 出来る限りいっぱいで。

 あ、あと、僕も行くから、そっちの調整もしといてね」


「ッ!!

 ……かしこまりました」


 どうやら、第2王子の興味は、第1王子から偽勇者へと移ってしまったようだ。

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