<2-29>おくすり 2
「……それは、あれか?
…………、そういうことをするってことでいいのか?」
「そ! ……そうよ。…………。
……ダーリンって、意外に筋肉あるのね」
彼女の指が俺のわき腹に直接触れる。どうやら、本当に、そういうことのようだ。
先の戦闘で人を殺し、虚無感や脱力感、それに罪悪感など、様々な感情が自分の中で湧きあがってくるのは、ずっと感じていた。
しかし、俺は勇者であって、みんなの代表だ。
動揺していることがばれたら、戦闘力が無いと知られた時の様に、本当に勇者なのか? アイツが代表でいいのか? とまた疑問視されると思った。
だから俺は、感情は極力表に出さず、出来るだけアホな事を考えて感情を紛らわせ、みんなにばれないようにしよう、とか考えていたんだが、どうやらバレバレだったようだ。
リアム達は後始末を引き受けてくれたし、クロエは、お兄ちゃんをよろしく、なんて言ってたしな。
まぁ、俺の演技力なんて、そんなもんか……。
「……アリス。
…………いいのか?」
「…………任せなさいよね」
今回の戦いでは、みんながそれぞれに人を殺している。
クロエなんかはナイフで直に殺したんだ。心に襲い掛かる負担は俺よりも大きかったと思う。
俺は、そんな彼女達を慰めるどころか、気を使われてしまったようで、さらには、心配をかけていたことに今まで気がつかなかったらしい。
ほんと、自分の無能さが嫌になるね……。けど、それがわかったからといって、すぐに何とかなる話でも無いんだよな。
……特効薬。……薬、……元気になることが1番、……なのか?
「……痛いかも知れないが、いいのか?」
「当たり前じゃない。
アリスはダーリンの嫁なのよ。
す、……すきに、つかい、なさい」
使え、か……。
ここで拒否するのは、彼女の覚悟に対する冒涜だな。
「……わかった。ありがとう」
覚悟が決まった俺は、両手を彼女の背中に回し、強く、ぎゅっと抱きしめる。
「……んっ、……」
アリスの口からは、艶めかしい声が漏れ、俺の興奮を高めていく。
腕の中にすっぽりと納まったアリスは、身動きすることなく、俺にその身を預けてくれた。
そのことがすごく幸せで、彼女を抱きしめていると、本当に心が洗われるような感覚になる。
「…………」
「…………」
魔法使い達は、生きたまま捕獲するだけでよかったのでは無いか、他にやりかたがあったんじゃないか。
そんな考えが、ずっと頭の中をぐるぐると回っていたのが嘘の様に、穏やかな気持ちが心の底から湧きあがってくる。
「…………」
「…………」
安心したら、なんだか眠たくなってきたな。
なんだか、考えることが出来なくなってきた。
少しだけ、寝るとしようか…………。
「…………」
「…………」
「…………ねぇ、ダーリン。
………………これで終わり?」
「…………」
おっと、いけねぇ、アリスを抱きしめたまま寝るとこだった。
「ん? なにがだ?」
「……はぁー、まったくもぉ。
ほんと、ダーリンってば、ダーリンなんだから……」
なぜか、アリスさんは怒っているらしい。……いや、どちらかと言えば呆れているのか?
とりあえず話を聞こうと思い、アリスの背中に回していた腕を外す。
すると、突然、アリスの顔が迫ってきた。
「ん? え? えっと、なにが、どうし――」
そして、その柔らかい唇が、俺の言葉を塞いぐ。
「……んっ。
……ダーリン。アンタ、ど、どう……、経験、ないでしょ?」
「んぐ!!」
おぉう。どーしてばれた?
……えぇ、童貞ですよ?
前世で言えば、もうすぐ魔法使いですよ?
……えーっと、俺は何をミスしたのでしょうか?
「はぁ、やっぱり……。
ダーリンに期待したアリスがバカだったわね……。
ダーリンはそのまま寝てていいわ。あとはアリスに任せなさい」
状況は見えないが、とりあえず俺は何もしなくていいらしい。
徐にアリスの手が俺の方に伸ばされ、服の裾を掴んだかと思うと、一気に脱がされた。
おかげで俺は上半身裸だ。
……え? ……これってそういうことですよね?
抱きしめる以上に進んでいいの!?
なんて思っていると、いきなりその場で立ち上がったアリスは、自分の腰の方に手を回し、そこにあったホックを外す。
するとスルッとスカートが下へと滑り落ち、青いストライプの布地があらわれた。
し、しまぱん。青と白の縞パン。
思わず視線を奪われてしまった俺を尻目に、アリスは自分の服の裾に手をかけ、ゆっくりと脱いでいった。
そして気がつけば、薄手の白いキャミソールに包まれた体がそこにあった。
どうやら、ブラジャーは身に着けていないようだ。……彼女には必要ないのだろう。
白キャミに縞パン、ツインテ。なにこの最強の組み合わせ!! ……おぉう、そうか、この服作ったの、俺か。
いやー、いい仕事したなー、なんて、自画自賛していると、肌着になったアリスが再び、俺の上へと帰ってきた。
肌と肌の間にあるのは、上も下も布1枚。
先ほどとは比べ物にならないほどの密着間である。
「あ、アリスの体。……存分に、……たのしんでくだ、……たのしみなさい」
そういうと、先ほどまでとは異なり、アリスの方から腕を絡めてきた。そしてその細い腕に力が込められる。
柔らかなアリスの体に包み込まれる感覚にどきどきしながら、アリスの方に目をやる。
えっと、こうやっておっぱいの感触を楽しんでもらって、それから、ぁっぅ! ……おなかに、……あたってる、これって、……そういうことよね? ふふん、あってるのね、さすがは情報豊かな商人のお姉さんね、……つぎは、えぇっと……。などと小さな声でぶつぶつと言っている所を見ると、彼女も精一杯のようだ。
ただ、頑張っているところに水をさすようで申し訳ないが、胸の感触は皆無だったりする。
「……ダーリンってば、もう我慢、出来ない、わよね?
アリスが、……きもちよく、してあげるわ」
どうやら、次に進むらしい。
背中に回されていた腕が外され、上半身を這うようにゆっくりと下へと降りていく。
そして、その手がベルトの金具に触れ、カチャカチャと金属音を鳴らしたかと思うと、その縛めを解き放った。
下半身を覆う硬い布を脱がされ、軟らかい布の方へとその手がかかる。
「…………も、もう。こんなに、しちゃってるじゃない。
アリスが、……すぐに、……しあわせに、して、あげ――」
「お楽しみの所、誠に申し訳ないのだが、すこしだけ、ボクの話を聞いて貰えないかな?
緊急事態なんだ」
そして、アリスが最後の砦を破壊しようとした瞬間、俺達の耳がサラの声を拾った。




