<2-27>侵入者14
「兄様、少しだけ話があるんだけど、いい?」
「ん? あぁ、かまわないぞ?」
なぜか俯き気味で話す彼女の頬は赤く染まり、何処と無く恥ずかしそうに見える。
先ほどまでの態度が嘘のように大人しくなっていた。
戸惑い、オドオドしながら話しかける美少女。
その身を包んでいるセーラー服には、赤く染まった場所がいくつも見受けられ、その手には隠すことの出来ない血塗られた短剣。
…………ありだな!!
「ちがうんだよ。さっきのあれは……、えーっと。戦闘になると、押さえらんなくなるっていうか……、……あのね」
どうやら、戦闘中に豹変したことを気にしているようだ。
ってか、自覚あったんだな。
「……まぁなんだ。初めは戸惑ったけど、今はもう気にしていないさ。クロエと一緒に前線を支えてくれてありがとな。
なにか欲しいものがあったら言ってくれれば、出来る限り叶えるよ」
ノアとクロエには、1番大変な場所を担当してもらったんだし、希望があるなら出来る限りかなえてやりたい。
まぁ、クロエは明日の宴会が1番の要望って感じだけどな。
「……兄様は、あたしが怖くないの?」
「ん? 怖い? なんでだ?」
「だって、さっきまでのあたし、すごく、こわいじゃん」
「そんなこと無いさ。
仲間のために前線で戦う姿が怖いなんて、そんなことがあるはずないだろ?
むしろ、可愛かったかな」
美少女が、ねぇ、死んで、と小さな剣を持って迫る。
どう考えても御褒美でしょ!!
「……うん、わかった。信じとく。
それと、御褒美の件はすこし考えてから決めるよ。ありがとね、兄様」
「おう」
ノアはどうやら、俺の言葉を慰めだと思ったようだ。
間違いなく、心の底からわきあがってくる本心なんだがな? なぜ伝わら無かったのだろう……。
ってか、出来ることなら、戦闘が終わった時に、短剣に付着した血をペロっと舐めて、美味しかったよ、って言って欲しかったのだが、さすがにそこまでは望みすぎか……。
……いや、俺が紳士な態度で頼めば、もしかすると――
「……リン。ダーリン、ねぇ、ダーリンってば!
アリスも話があるから聞きなさいよね!」
おっと、妄想が膨らみすぎてしまった。
「あぁ、悪い。すこしボーっとしてたみたいだ。
どうした?」
リアム、ノアときて、次はアリスのターンか?
なんて思っていると、突然、アリスが俺の腕を掴んだ。
「大事な話があるから、2人っきりになるわよ。いいわね?」
そういって俺の手を引っ張り、アリスが住宅地の方へ歩き出す。
あまりにも唐突な行動に思わず後に付いて行きそうになったが、視界の端に天に召された人が映り、ふと我に返った。
「いや、すこし待ってくれないか?
話を聞くのは良いんだが、その前に彼等を葬ってやんないといけない。
このままにしておく訳にはいかないだろ?」
「…………」
俺の言葉に、アリスも視線を動かす。しかし、その視線は遺体ではなく、なぜか俺の顔へと向けられた。
そして、少しばかり考えるような素振りを見せた後、なぜか悔しそうな顔をしたアリスは、ゆっくりと頷く。
「…………そうね。たしかに放置は出来ないわね。
それじゃ、ぱぱっとやっちゃうわよ」
どうやら戦後の反省会は終了らしい。
さて、どうするかな。
ダンジョンの中は自動修復が掛かってるから掘っても無駄だし、埋葬するのは洞窟の外だな。
……ってか、この世界って火葬の後に埋めればいいのか? 祈りを捧げて浄化した後に棺おけで埋葬? 魔法の力で天国へ送るなんてのもありえるか?
……とりあえず、ノアにでも聞くとしますか。
「あの、勇者様」
などと考えていると、リアムから声が飛んできた。
「ん? どうした?」
「勇者様、遺体の始末は我らにお任せいただけないでしょうか?」
「……あぁ、別に構わないが、なんでだ?」
「あ、……えっと、ですね……、我々は最後に少しだけ矢を放ったくらいで、皆様と比べれば、その貢献度は微々たる物。
せめて後始末くらいは、と思った次第です」
うーん。どーっすかなー。
アリスが居れば、埋葬系ならすぐ終わるし、リアム達に頑張って貰わなくても……、ん? あれ? アリスの土魔法って、移動できる土の量、あんまり多く無いんだっけか? そう考えると、リアム達が1番頼りになるのか。
……けどなぁ、さすがにリアム達だけに任せるって訳にも行かないよな。
それに、俺の命令で散らせた命だ。俺の手で埋葬するべきだろ。
それが償いになるなんて思わないけどさ。
「……いや、申し出は嬉しいが、俺も一緒にともら――」
「リアム。悪いけどお願いするわね」
「イエッサー」
「え? あれ? ちょ――」
「クロちゃん達も、手伝ってあげてくれる?」
「はーい。
……アリスお姉ちゃん。お兄ちゃんのこと、お願いね?」
「えぇ、アリスに任せときなさい」
「ねぇ、聞いてます? ちょっと?
ちょ、アリスさん? なんか、足に土が纏わり付いてきて動けなくなったんですけど?
……なんか、足元の土、動いてません? 無視? 無視な感じですか?」
「ダーリンの癖してうるさいわよ。
この魔法、結構気を使うんだから、静かにしなさいよね。
操作を間違えて、足がグチャってなっても知らないんだからね」
「…………」
そして、俺は引きずられるようにして、アリスと一緒に自室へと戻った。
……俺、勇者のはずだよな? 国のトップだよな?
俺の意見、無視ですか?




