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<2-26>侵入者13

「ふぅ、……今回も、なんとかなったか」


 敵の全滅を確認し、俺は、ほっと息を吐き出した。

 

 日の傾き具合から考えて、戦闘時間は恐らく1時間も無かったのだろう。もしかすると、30分すら経過していないかもしれない。


 たったそれだけの時間であったはずなのに、体感的にはとてつもなく長く感じられた。

 全身が疲れを訴えており、今すぐにでも寝転がりたいくらいだ。


 俺の周りにあるのは、地面と岩、それから命を宿していない人。そして、空中には異臭が漂っている。

 日本では嗅いだことの無い臭いだ。


 戦闘中にはあまり気にならなかったが、俺が目にしている状況はかなり異常であり、その光景を見つめていると、なんだか心が麻痺していくような感覚になる。


 日本にいた頃は、戦争系の映画や殺戮系のゲームなどをやっていた時には感じなかったが、画面越しとリアルとでは、やはり感じ方が違うってことか。


 画面越しに、臭いなんて無かったしな。

 

 ……昔、グロ画像なんてものを見ていた時期もあったが、何を考えてそんな物を見てたんだろうな。

 ちょっとした刺激が欲しかったなんて、そんなレベルじゃないだろう。

 

 やっぱ、平和ボケ、してたんだろうな。

 

「お兄ちゃん、全員揃ったよ」


「……あぁ、ありがとう」


 クロエに声をかけられて意識を仲間の方へと向ける。

 

 サラ、クロエ、アリス、ミリア、ノア。そしてなぜか跪いているリアム達。


 そこにいた誰もが、何かをやり遂げた表情をしており、殆どのメンバーが何処と無く誇らしげに見える。


 どうやら、なにかに悩んでいるのは俺だけなようだ。


 ……ほんと、戦闘慣れしてるな。

 クロエとノアなんて、返り血で全身血だらけなのに、気にする様子も無いし。


「勇者様、発言させて頂いてもよろしいですか?」

 

 ボーっと仲間達を眺めていると、徐にリアムが1歩だけ前に出た。


「あ、あぁ。構わない」


「ありがとうございます。

 先ほどは、突入が遅くなり申し訳ありませんでした。

 そのせいで、勇者様をはじめ、姫様達にも苦労をかけてしまう事態となり、申し開きもございません」


「……いや、たいした問題では無い。むしろ、ベストなタイミングだったとさえ思う。

 リアム達の突入のお陰で、1人の被害も出さずに敵を全滅させることが出来た。礼を言う」


「……有り難き御言葉、しかと頂戴致しました」


 まぁ、実際の所、俺が死に掛ける前に来て欲しかったかなー、なんて思わなくも無いが、洞窟の入口から、敵に悟られないようにダンジョンを進んで来てくれたんだし。

 いくら敵がほとんどの魔物を始末していたとは言っても、音を気にしながらの侵攻は、多いに苦労したと思うし。


 それに、突入が遅れた原因は、主にクロエの魔力が足りなかったからだしな。

 

 俺の思惑では、全員をそれぞれのポジションに移動させてー、って思ってたんだが、現在のクロエの魔力量では、俺達だけで精一杯だったからな。

 そのせいでー、とも思うが、これもクロエが悪い訳じゃないしな。


 みんなが限界まで頑張ってくれたお陰で、全員が無事に生き延びれた。それが今回のすべてだろう。


 その頑張りに対して、何かしてあげないとな。


「……ミリア。たしか、それなりの数の皿と服が準備できたと言っていたよな?

 どんな感じだ?」


「んー? 私が作ったお皿が250枚。ノアちゃんが作ってくれた服が200着あるわよ?」


「そんなに出来たのか!?」


「うん。みんな頑張ってくれたからね」


 俺が怪我を負って、何も出来なかった間、ミリアとノアはクロエ達が採ってくる魔玉を使って服や皿などの生活用品を作っていてくれた。

 その目的は、勇者国の活動資金を獲るためである。


 また、先の戦闘で、敵の疲労を誘うために使った部屋も、その際に獲たポイントで増やした物であり、現在、ダンジョンの部屋数は13個に増えている。


 洞窟からずっと一本道ではあるが、ようやくダンジョンと名乗っても良いくらいになったと思う。住み着いた魔物は種類が少なく、防衛能力としてはまだまだではあるだが……。


 ってか、今思えば、それなりに環境を整えたのに、結局は自分たちの手で倒すことになったな…………。

 うーん。……防衛についてはもうすこし考える必要があるかもしれないな。


「ここ1ヶ月で採れる食材も増えたし、本拠地もかなり大きくなった。

 これも皆のお陰だ」


 その間に俺がやったことは、寝ていた、ただそれだけだ。


 いや、あれですよ。怪我を治すことが最優先だったからで、別にサボっていたわけじゃないんですよ?


 …………あー、うん、みんなにいっぱい報酬をあげよう、そうしよう。褒美、増し増しで。


「急な話ではあるが、戦闘の疲れを癒すために明日は休息とし、明後日より作った物を周辺の村へ売りに行くことにしたい。

 また、その際の護衛として、リアム達も来てくれ。

 それから、全員に今回の褒美としてすこしばかりのお金を与える。

 ……村は比較的安全だ。村の中での護衛は必要ないから、そのつもりでな」


「……お金、それに休息ですか?」

 

「あぁ、そうだ。明日は1日何もせずにゆっくりと……、いや、やっぱり、宴会にするか?

 ……そうだな。そうしよう。褒美の方もそろそろ良さそうだしな。

 よし、明日は疲れを癒すために食事会にする。普段より豪華な食事を楽しもうじゃないか」


 すごく疲れては居るが、それは精神的な意味合いが強いと思う。なので、1日部屋でボーっとしているより、皆で騒いだ方が良い気がした。


 そんな俺の発言に対して、真っ先に食いしん坊の目が光る。


「豪華な食事!?

 何食べる? 厚切りステーキ? 味付け卵? 焼き魚?

 お兄ちゃんは、どれが食べたい?」


 ステーキは日本と同じなのでいいとして、焼き魚は海から遠いため高価である。味付け卵は、卵も調味料も高価なため、かなりの贅沢品だ。実は、3つの中で1番高いのが、味付け卵である。

 ちなみに、醤油漬けではなく塩漬けだ。


「そうだな。全部作ろうか。

 から揚げも蒲焼もな」


「ふゅ!! 全部!? いいの?」


「あぁ、いろんな種類がテーブルの上に並んでいたら、楽しいだろ?」


「うん!! お兄ちゃん、大好き」


 弾けんばかりの笑顔を見せるクロエの周りでは、そんな彼女を微笑ましそうに他のメンバーが眺めている。

 どうやら、反対する者は居ないようだ。


 まぁ、誰かが反対したからと言って、今のクロエを止める事なんて出来ないと思うが……。


「うっし、話し合いは以上でいいよな?

 それじゃぁ、あいつらを――」


「ちょ、ちょっと待って」


 話が落ち着きを見せ、そろそろ埋葬の準備でも、と思った矢先、ノアが俺の声を遮った。

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