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<2-22>侵入者9

「女、子供ばかりじゃねぇか。どうなってやがる!!」


 俺達が岩陰から姿を見せ、次々に攻撃を仕掛けていると、突然、向うのリーダーが苛立ちを隠しもしないで、叫び声をあげた。

 そして、その声に呼応するかのように、ノアと近接戦闘を行っている男が呟くように返答する。


「……しかも、全員がそこそこの力をもっている。

 ほんと、嫌になるね、まったく」

 

 喋るだけの余裕がある訳でも、取り囲むように攻撃してきた事に対して苛立っている訳でも無いようで、どうやら、俺達の姿に苛立っているようだ。


 その様子を見るに、どうやら、戦いは男の仕事だ、という考えが根強い国なのだろう。

 ノアやミリアは商売のために必要で、クロエは奴隷商で覚えたって言ってたし、戦闘力を持った女性が居ること自体が珍しいのかもしれない。


 それに、中身はおっさんだとしても、召喚された時点で、俺も高校生くらいの年齢に引き下げられてるな。

 

 少年、少女が武器を持って襲ってくる。たしかに、戸惑うな、戦闘中に無駄なことを考えるな、って言われても、無理な気がするな。


「そう褒めないでよ。

 嬉しくなってサックリ殺しちゃうかもよ?

 おじさんの血は、赤いのかなー?」


「……ははは、ほんと。どうしてこんな世の中になっちまったかねぇ」


 ……1つ思ったんだが、ノアの雰囲気変わってねぇか? なんか、戦闘開始、ってなったら、いきいきし始めた気がするんだが……。

 あれか? もしかして、戦闘狂ってやつですか?


 …………よし、気にしないことにしよう。そうしよう。


 敵の中には、盾に魔力を通し防御力を底上げする者……、じゃなかった、魔物や、自分の筋力を増加させることが出来る魔物も居たが、さすがに複数方向からの連続攻撃には、防ぐだけで精一杯のようだ。


 前衛2人で突入してきた2人を押さえ、遠距離から飛んでくる石や弓、鉄の塊は、リーダーが魔法で見えない壁を造り防いだり、他の2人が炎をぶつけたりして防いでいる。


 それに時折、誰も居ない岩陰なんかに目を向けている所を見るに、新手の心配もしているようだ。

 今まで次々に伏兵を出したお陰で、そのイメージが強く植えつけられた結果だろう。


 いつものメンバーが全員揃ったなんて、敵が知るはず無いしな。


 そして、嬉しい誤算、と言うには気が引けるが、どうやら、俺達の容姿を見て、殺すのを躊躇っているようだ。


 仲間を殺されているのに何を思ってるのやら、なんて思ってしまうが、子供は守るべき存在と言う考えが根付いているのかもしれない。……小学生の声を騒音なんて言っている奴にも見習って欲しいものだ。


 ただ、無意識の手加減は、クロエの相手をしている男を除いた話である。こちらは、どう見てもいっぱいいっぱいな感じだ。


「フッ、シュ……ハァーー!!」


(おいおい、この子、強すぎるだろ。魔法を唱えてる暇もねぇ。

 こっちの攻撃は全部避けちまうし、飛んでくる攻撃は見た目以上に重たいし。

 体格差があるから何とかなってるが、気を抜くとマジでやばいぞ)


 どうも、クロエが優勢であるように見えるが、力量の差は、すぐに決定打を与えられるほどではないようだ。

 時折、金属が激しくぶつかる音が聞こえてくるが、痛みに苦しむような声は聞こえてこない。


「おじさんの血の色、見てみたいなー」


「ははは、……それはちょっと勘弁してくれないかな」


「だめー。ちゃんと兄様に許可貰ったもん」


 ノアの方も、クロエほどでは無いにしても、比較的有利に戦闘を行えている。相手は魔法兵士。状況を加味したとは言え、十分な戦果であろう。

 ってか、え? 俺、そんな許可だしたっけ?

 ……あぁ、あれか。確かに、生きて返すなって言ったっけ。


 ……よし、気にしない!!


 遠距離組みの方も、敵からの反撃は岩に隠れてやり過ごしているし、こちらも問題はなさそうだ。


 ただ、それは個別に見た結果であり、全体を見ればどちらに転ぶか分からない不安定な状況であり、こちらが不利になる前に何か対策を講じる必要がある。

 状況を引き寄せるための決定打が必要だった。


 当初の予定では、不意打ちで次々と倒していく予定だったので、こう着状態に持ち込まれている時点で、予定がくるっている。 


 まさか、クロエを止めれる奴が居るなんてな。

 マジ、チート。なんて思っていたが、井の中の蛙だったか……。


 そして、何かいい手は無いか? 予定を早めるか? などと頭を巡らせていると、俺の考えが纏まる前に向こうのリーダーが動いた。


「……君達は勇者のもとに集った者だと聞いている。

 私は勇者を名乗っているやつと話がしたい。

 君達に命令を出している人を呼んできてくれないか?」

   

 どうやら、こちらと交渉がしたようだ。


 一瞬だけ、どうしようかな、と思ったが、他に現状を打開する作戦もうかばす、とりあえず、話を聞くことにする。


「……俺がそうだ」


「キミがか?

 ……申し訳ないが、証拠を見せてもらえるか?」


 あ、うん。そうですよね。

 勇者には見えないですよね……。


「……申し訳ないが、目に見える形での証拠は無い。

 召喚される前の世界の話などであれば出来るが、そのくらいだ」


「そうか……」


 そして、向こうのリーダーが周囲を見渡したかと思うと、なぜか、急に納得した表情を浮かべる。


「……いや、疑って悪かった。

 俺達が会話を始めた瞬間、そちらの攻撃が止まったことは確認出来た。

 どうやら、本当にキミがリーダーなようだな」


 あれ? そうなの? と思い、周囲を目を向けると、彼の言う通り、すべての場所で戦闘行為が中断されていた。


 前線の2人は、少しだけ距離を開けてにらみ合っているし、後衛の3人はいつでも撃てる状況を保ってはいるものの、撃つ素振りは見せていない。

 

 どうやら、俺達の会話の行方を確認するつもりのようだ。

 

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