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<2-21>侵入者8

 耳がキーンとする。


 そういえば、耳栓をするの忘れてたな。

 せっかくノアに作ってもらったのにな……。

 

 ……あれ?

 何で俺、手がこんなに震えてるんだ?


 ……あっ、そうか、敵を撃ったんだっけか。


 撃ったんだよな。…………人を。


「うぐぅ、ごっ」


 いや、違う、そうじゃない。落ち着け。


 あれは魔物だ。魔物なんだ。いつも狩りをしている動物達と一緒だ。


 吐いてる場合じゃないだろ。気を強く持て。


「……スーーーー、ふーーー」


 目を閉じて深い深呼吸を行い、瞼に力をぎゅっと込める。そして、ゆっくりと目を開き、岩の向こうの様子を視界に入れた。


 敵は……、大丈夫、まだ俺の場所には気がついて無いみたいだな。


 早く次の弾を装填しないと……。


 ……っち!! だから震えるなよ。落ち着けよ。

 大丈夫、弾を入れるだけだ。ただそれだけだ。

 

 ……移動の魔物が終わったから、次は探索の魔物だな。

 目標を十字線の真ん中に入れて、…………っ!! 震えるな。引け、ひくだけでいいんだよ。

 

「いってくれ!!!!」 

 

 言うことを聞かない体に活をいれ、叫びながら引き金を引く。

 すると、部屋に2回目の爆発音が響き、鉄の塊が目標物に当たった。

 

 しかしそれは、狙っていた場所をはずれ、頭ではなく腹に当たったようだ。


「っち!!」


 1発目と違い即死では無かった様で、回復担当の魔物が、腹部から赤い液体を流す魔物の治療を始めた。


 そして、リーダーに促された1匹の魔物が、俺の方を指差した。


 どうやら俺の場所がバレたらしい。

 

 索敵系の能力は、今撃った奴だけが持ってると思っていたが、どうやら、魔力を感知出来る者が居たようだ。


 ダンジョンを俳諧する魔物の中に、魔法を使う奴が居なかったため、いままで露見することが無かったらしい。


「……クソ」


 戦闘になっても全然魔法を使わないから、盾役専門だと思い込んでいたな。それに、手が震えて狙いを外すとか……。

 愚かだったとしか言いようが無いな。


「……これ以上は無理か」


 俺は、悔しさを吐き出すように小さく呟くと、3発目の弾を銃に込め、銃口を敵に向けながら、身を隠していた岩の側を放れ、敵から見える位置にゆっくりと移動した。


 すると、敵は俺の思惑通り、驚いた表情を浮かべ、俺の次の行動を伺う様に注意深くこちらを見た。

 

 ずっと隠れて攻撃していた敵が、いきなり姿を見せたのだ。驚くなと言うほうが無理だろう。

 

 だが、その驚いた一瞬の間が、1匹の魔物、回復役の魔物には致命的だった。


 敵が俺に注目した瞬間、俺とは別の岩に隠れていたミリアが弓を放ち、真っ直ぐに飛んでいった弓は、吸い込まれるように、回復役の男の首に刺さった。


 完璧なタイミングでの不意打ちであり、敵は、誰一人として、その矢を視界に捕らえることは出来なかっただろう。 


「敵は岩陰にこそこそ隠れて我らを迎え撃とうとしている。ならば、こちらも岩陰に居座り、敵が出てくるのを待つぞ。

 なに、敵に自分達の愚かさを伝えるためだ。決して卑怯な方法ではなっ!! ――子供!?」


 そして、矢が刺さると同時に、こちらも俺達とは別の岩に隠れていたアリスとノアが岩陰から飛び出し、それぞれが短剣と2本のナイフを敵に向かって繰り出した。


「だぁーー!!」


「おじさんって強い人?」


 勢いをつけた良い不意打ちであり、そのままの勢いで切っ先が動脈に到達する、かに思われたその瞬間、敵の持つ盾によって受け止められてしまった。


 ただし、受け止めたほうも咄嗟の対応だったようで、迎撃できるほどの体勢では無い。


「ふっ、シュ、シュ」


「今のを止めるなんて、おじさん強いんだね。

 それじゃぁ、どんどん行くよー」


 無論、そんな状況において、2人が攻撃の手を休めるはずがない。

 敵が体勢を整える前に、次々と攻撃を繰り出していく。


「行きなさい、ロックスロウ」


「忠告はしてあげたのだから恨まないでくれると嬉しいよ」


 そんな2人の攻撃と同時に、アリスが土魔法で、サラが投石器で攻撃を開始する。

 これで、敵は、入口を背に、左右、左前、右前の四方向からの遠距離攻撃を避けつつ、正面から迫り来るクロエ、ノアの攻撃を処理しなければいけなくなった。


 ちなみに、それぞれの潜伏場所には、俺が攻撃している間にクロエの移動魔法を使って行って貰っていた。

 サラの投石器は、60センチくらいのY字の棒に弾力性のある太い紐を繋いだ物で、棒はミリアが、紐はノアが作った特製品だ。


「……クロエもノアも、さすがだな」


 不意打ちで敵を倒すことが出来なかったもの、クロエとノアは危なげなく前線を支えている。


 まるで踊っているかのような2人の戦う姿に、心のどこかで安心を覚え、俺と同じように遠距離から攻撃を行う仲間達の姿に、頼もしさを感じた。

 そして気がつくと、ずっと続いていた腕の振るえが止まり、普段の練習通りに銃を構えることが出来ている自分がそこに居た。


 ……一緒に生活しているメンバーが揃っているとは言え、あいつ等が前で戦っている姿を見て安心するなんてな。


 みんなの手は汚させない。場所が知られる前に俺が全員を倒してやる!! なんて、本気で思ってたはずなんだがな。


 ほんと、腐った勇者だよ……。

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