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<2-20>侵入者7

「お兄ちゃん、準備おわったよー」


「おぅ、サンキュー

 他の部屋と同じような雰囲気になってるよな?」


「うん。アリスちゃんとスラちゃん達が頑張ってくれたよ」


 クロエに中部屋を作ってもらってから3時間。


 石スライムやアリスの土魔法などで、部屋の中に岩を設置した。

 これで他の部屋と見分けは付かなくなったはずで、俺達が隠れる場所も用意できたはずだ。


「うっし、準備完了だな。

 それじゃぁ腹ごしらえしながら敵の到着を待つぞ。敵の疲労を誘う作戦なのに、俺達が疲れてたら意味無いからな。

 ……あー、うん、ゆで卵って用意できるか?」 


「んゅ? ゆで卵? 大丈夫だけど、ゆで卵でいいの?」


「あぁ、よろしくな」


「あーい」


 いや、あれなんですよ。

 敵のことをカラスを通して監視してたら、すごい美味そうにゆで卵を食べてるじゃないですか。これは、俺も食べなきゃいけないかなー、なんて思ったわけですよ、ええ。

 敵の侵攻スピードを考えると、茹でてる時間は十分あると思うし。


 ってか、俺は思うんですよ。

 何で卵に殻ってあるんですかね?


 殻が無ければゆで卵が世界最強の飯にノミネートしててもおかしく無いと思うんですよね。

 ……いや、まぁ、そんな大会があるかどうかすら知らないけど。


 え? ポーチドエッグ? いや、あれはなんか違うんですよねー。なんか、水っぽい?


「ん? ハルくん、殻剥くの未だに苦手なの?」


「うぐ……。いや、あの、……はい」


 この世界において卵は貴重品らしく、初めてゆで卵をした時は、クロエが泣きながら食べていた事を覚えている。

 ただ、ダンジョン内に鶏の魔物が発生するようになってからは、毎日のように卵を手に入れれるようになったため、日本と同じような手軽さで卵を食べれるようになった。

 そして、今となっては、俺よりも彼女達の方が卵の殻を剥くのが上手ほどだ。

 

 お兄ちゃん殻剥くの上手だね、なんて言われてた頃もあったっけなー。

 

「ハルくんは、変なところで不器用なのよねー。

 はい、お姉ちゃんの剥いたのあげるわ」


「……ありがとうございます」


 結局、見かねたミリアお姉ちゃんがくれました。……情け無い。


 味は、日本に居た頃食べたものよりも濃厚で、口いっぱいにこってりとした黄身の旨みが広がる。


「ふふふ、美味しい?」


「……あぁ、ありがとな」


「いえいえ、どういたしまして」


 完全に子供扱いされているが、ミリアの楽しそうな顔を見ていると、それでもいっか、なんて思えてくる。


「あみゅ、おぃひいね」


「あっ、ちょっとノア。それアリスのじゃない、返しなさいよね」


「えー、いいじゃん、ちょっとくらい」


「何がちょっとよ。1個丸まる持って行ってるじゃないの」


 クロエは両手に持った卵を交互に食べて幸せそうにしている横では、テーブルの上には何十個と卵が乗っているのに、ノアとアリスが1つの卵を取り合っている。

 姦しくはあるものの、みんなすごく良い笑顔だ。


 ……もしかすると、この卵が、俺達の最後の晩餐になるかもしれないんだよな。

 敵は魔法使いか……。出来ることなら、ずっとこの時間が続けばいいんだけどな。

 

 ……まぁ、そんなことも言ってられないか。ゆっくりとはいえ、敵はこっちに向かってきてるな。


「敵が最後の部屋に差し掛かった。

 いま手に持ってる卵を食べ終えたら移動するぞ。

 ……残りの卵は、戦闘が終わった後で、みんなで食べるぞ、いいな?」


「うん」


「任せときなさい」


「了解したよ」


「わかったわ」


「はーい」


 なんとも纏まらない返答だな。……まぁ、それが俺達らしさか。


「それじゃ、作戦を開始する。クロエ、頼む」


「あーい。

 魔力さん、距離を縮めて欲しいな。お願いね」


 クロエの魔法詠唱が終わり、体全体が強い光りに包まれたかと思うと、次の瞬間には、ついさっき作った中部屋の中央に設置した大きな岩の後ろに居た。


「……ありがとな。

 クロエは予定通り、次の行動の準備をしていてくれ。

 タイミングはカラスに突っつかせるから」


「うん、……お兄ちゃん、無理しちゃだめだよ?」


「あぁ、わかってる。クロエもな」


「うん、……それじゃ、いくね」


 小声での会話を終えたクロエが、光りに包まれて消える。


 カラスの目で確認した限り、この岩の向こう側に居る敵に目立った動きは無い。


 敵の中には、索敵の魔法を得意とする者が居ることは、確認していたが、俺達が近くに移動しても反応しないところを見ると、俺の予測通り、本人に使う意思が無いと発動しないタイプのようだ。


 最初の懸念材料は無事クリアーだな。

 さぁ、始めますかね。


 俺は、出来る限り心を落ち着かせ、岩と岩の隙間から敵の様子を肉眼で伺う。

 わかっていた事だが、そこに7人の男が居た。


 そして、男達全員が部屋の中に入るのを待ち、移動系の魔法を使える者に、手に持った武器の先端、銃口を向ける。


 俺専用の武器である火縄銃タイプの銃の上部には、その形に似つかわしくない丸いスコープが取り付けられている。ミリアに頼んでつけてもらった物だ。


 そのスコープに付いた十字の中央が敵の頭の位置に来るように、ゆっくりと銃を動かしていく。


 大丈夫だ。落ち着け。あれは敵だ。敵なんだ。

 俺達の幸せを奪う敵なんだ。


 クロエが苦しんでもいいのか?

 サラが辛い思いをしてもいいのか?

 アリスが泣いてもいいのか?

 ミリアと会えなくなってもいいのか?

 ノアが笑えなくなってもいいのか?

 

 良いわけが無いだろ!!


 俺は、早くなる鼓動と薄れ行く手足の感覚を無理やり押さえ込み、手元の引き金をひく。


 俺が行った行動は、手元の小さな物体を引いただけ。

 その結果、15メートルほど前方で、赤い液体が流れ出した。

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