<2-18>侵入者5
「……おほん。あー、それじゃぁ、現状の把握からな。
敵がこのダンジョンに向けて侵攻してきた。
カラスを通じて得た情報によると、どうやら第2王子の命令を受けた魔法兵士らしい。その数は7人」
そんな俺の言葉で、突然のキスで呆然としていた場の空気が一変した。
辺りにはピリピリとして雰囲気が漂い始める。
「兄様。魔法兵士ってことは、魔法が使えるってことだよね?
そんな人が7人でしょ? ダンジョンの魔物だけで撃退出来るの?」
「いや、まず無理だろうな。時間稼ぎがせいぜいだろう」
うん、そうなんですよ。一大事なんですよ。
誰ですかね、こんな大変なときに、キスしてる奴は……。
「敵がダンジョン内の魔物と戦っているところを確認したが、使える魔法は、炎系の魔法使いが2人に、移動系の魔法使いが1人。その他の補助系が4人ってことろだ」
「なによ、キスなんてせがんでる場合じゃないじゃない。まったく。
……それで? 撃退の作戦は?
ダーリンのことだから、すでに考えてあるんでしょ?」
「あぁ、まぁ、一応な」
敵の陣形や戦闘の光景を確認した限り、前衛が敵を抑えている間に、後衛が強力な魔法を撃ち仕留めるスタイルらしい。
そして敵はこちらの情報入手がメインである事。そのバックについている者は第2王子である事。
この3つを確認した時点で、ある程度の戦略は見えていた。
ただ、出来ることならば、別の方法を模索したいとの思いが強いのだが、駄々をこねるなどして時間を引き伸ばしてみたものの、結局最適な打開策なんて見つからなかった。
……うん、そうなんですよ。キス云々は時間稼ぎの演技なんですよ。
ほんとだよ? うそじゃないよ?
「一応ってなによ。歯切れが悪いわね。
とりあえず話してみなさいよね」
どうやら、時間切れらしい。
「いや、悪いな。それじゃぁ、説明するよ。
まず、大前提として、今回は手加減無しでやろうと思う」
「手加減なし? ……つまりは、全員殺すってこと?」
そう、敵を殺すこと。
それが俺を躊躇させる1番大きな要因だった。
「……あぁ。
前回は敵の大半が農民だったから、殺すと後々面倒な自体になると考えて、全員生け捕りにしたが、今回の敵は本物の兵士だ。
敵の狙いは、俺達の情報。生きて返す方が厄介な事態になる」
「なるほどね。確かに生きて返すと、後々厄介なことになるわね。
了解したわ。1人残らず土に埋め込んでやればいいのね?
……って、なんて顔してんのよ」
「……なにがだ? 俺なら、いつも通りの顔だとお――ムグ」
アリスの言葉を否定しようとしたが、突然アリスの手が俺の方へと伸ばされたかと思うと、両手で両方の頬を押さえられた。
ちょ、まって、アリスさん、すごい、痛いっす。
「なにがいつも通りよ。まったくもぉ。
どーせ、ダーリンのことだから、アリス達に人殺しをさせたくないとか、戦闘させたくないとか、危険かもとか、そんな甘ったるいこと思ってんでしょ?」
「うぐっ」
「はぁ。ほんっと、わかりやすいんだから、まったく……」
心底呆れた表情を浮かべたアリスだったが、そういう優しい所も嫌いじゃないけどね、と小さく呟いた言葉を俺の耳が拾った。
「……いい? よーく聞きなさいよ?
相手は私達を殺しにきてんの。それを殺し返したって誰も文句は言わないわ」
「…………」
「はぁ、ほんとにもぉ。
あのねぇ、今、アリス達の本拠地を襲撃してる動物は人じゃないの。あれは第2王子の手先なんだから、悪魔の手先なの。つまりは魔族ってこと。
いつも魔物のお肉は、おいしく頂いてるじゃない。今回の魔族もざっくり倒してやればいいのよ。
わかったわね?」
俺が考えた宣戦布告の内容を引用した言い訳。
こんな気遣いの出来る子に人殺しなんてさせたくはない。それは揺るがない事実だ。
それでも、現状を考えると他に手段なんてない。
それならば、アリスの言うように、無理やりにでも理由をつけて納得してやるしかない。
俺よりもアリスの方がずいぶんと大人だな……。
「…………あぁ、わかった」
「……うん。まぁ、さっきよりはマシな顔になったわね。
ほんと、世話がやけるんだから。もっとちゃんとしなさいよね」
「そうだな。悪かった」
人は皆平等であり、人を殺すことなど許されない。それが俺が育てられた環境下で学んだ生き方だ。
それに相手の兵士も、俺達を殺したいわけじゃない。ただ上司から命令されただけ。
それでも、自分達の身を守るためには、彼女達の手が汚れることになったとしても、俺達はやらなければならない。
これは自衛権の範疇であり、正当防衛の範疇だ。そのはずなんだ。
「……それじゃぁ、作戦を説明する。
現状を鑑みるとダンジョンの機能で敵を撃退するのは不可能だ。ゆえに、俺達の手で迎え撃つ。それでいいよな?」
念のために、全員の顔を見渡して見たが、帰ってきたのは頷きだけで、反対の声はあがらない。
「迎撃の場所なんだが、居住区の端に中部屋を作ってそこで応戦することにしたい。
ダンジョン内だと俺達がモンスターに襲われる可能性があるからな、それに、出来る限り奥まで引き付けた方が、敵の疲労度は高いだろうしな。
反対の者は居るか?
…………それじゃ、クロエ。中部屋を作成してくれ」
「はーい」
そんな訳で、俺達は敵兵を迎え撃つための準備を始めた。




