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<2-16>侵入者3

「我の願いを聞き届けたまえ。バーニング」


「……お、いい具合に煮えてきたんじゃねぇか?」


「いやー、どんな味がするんすかね。すっごくワクワクしますよ」


「そぉいやぁ、俺も最近食ってねぇからな。味なんてとぉに忘れてらぁ。

 っと、おーい、悪いが、もう少し火力を下げてくれ。こげちまわぁ」


「うーっす。

 我の願いを聞き届けたまえ。バーニング」


「おー、そうそう。そのぐらいが丁度いいな。

 悪いけど、そのままの勢いを維持してくれ」


「うっす。頑張ります。

 そのかわり、ちょっと多くくださいよね?」


「あぁ、わかってらぁ」


 勇者の本拠地を侵略中の男達の前には、ぐつぐつと沸騰するお湯で茹でられる卵と、剣が刺さった状態で、火に炙られている肉の姿があった。


「おい、もぉいいんじゃねぇか?」


「いや、どぉ考えてもまだだろ」


 卵の方は、地面に穴を掘り、そこに魔法で出した水を入れて卵も投入。炎の魔法で水を沸騰させいた。

 どうやら、ゆで卵を作る予定らしい。しかも、半熟派と固ゆで派が居た為、どっちも作るんだそうだ。


 肉の方は、各自が愛用する武器を使用し、こちらも炎の魔法で焼いていく。

 塩コショウなどの味付けは無く、素材の味を生かしたシンプルな調理だ。


 幸いな事に、ここには炎魔法を攻撃にすら使用出来る者が2人も居り、熱源の確保には苦労しなかった。

 しかも、超強火から弱火まで、表面だけを熱することも内部だけ熱することも可能で、火に関しては自由自在である。

 もしかすると、火の加減だけで言えば、現代日本の台所よりも良い環境かもしれない。


 そして、当たり一面に肉の焼ける良い香りが漂い始めた頃、男達は慎重に殻を剥き、分厚いステーキのような肉には目もくれず、卵をくちの中に放り込む。


「っぅ!! ぐぅーーーー。

 うあまい!! まじ、うまいっす」

  

「さすがは卵って感じだな。

 それも取れたてを食ってんだ。美味くないはずがねぇ」


 どうやら、卵は好評かを頂けたらしい。

 この世界では、肉より卵の方が入手困難であり、高級なため、塩すら振られていない卵が最高級料理なのだ。

 ゆえに、イメージ補正加わった卵は、男達を1人残らず天国へと導く。


「卵ほどじゃないですけど、肉も美味しいですね。

 やっぱ、魔物は魔力がある分美味しいってのは、本当なんですね」


「だな。これは、いろんな種類の魔物で試して見る必要があるな。

 実は俺、向うの方で、亀の魔物を見たんだが、いかねぇか?」


「いいっすね。

 酒蒸しがいいらしいんですけど、今回は普通に蒸すことにしときますか」


 そんなこんなで美食心を動かされた男達は、敵を倒しながらも、獲られる食料を消費しながらゆっくり進む。


 なんだか、グルメツアーにでも来たみたいだな、などと、ひとりが呟くと、周囲から、次は何を食べる? などと話が飛ぶくらい、この洞窟に慣れたそんな頃、部屋と部屋とをつなぐ廊下の中央に、表面がつるつるな石が置いてある場所に出た。


 石の大きさは人の胸ほどで、表面には文字らしき物が刻んである。


「おい。なんか奇妙な物があんぞ。

 ……この中で、文字が読める奴っていたか?」


「えーっと、お! そうだ、ジェン。

 お前確か読めたよな?」


「うっす。

 ちょっとばかし読むのに時間はかかりますが、読めはします」


「おう。ならたのまぁ」


 うぃっす、と返事をした男は、徐に石に近づき、そこに書いてある文字を眺める。

 そして、指折りで数を数えるようにしながら、一つ一つ、文字を解読し始めた。


 この国の識字率は日本と比べるとはるかに低く、王族や貴族、商人や医師などが読める程度で、一般人では読めないのが普通だ。

 そのため、7人中1人が読めたことは、幸運と言うほかない。


 ちなみに、侵入者が文字を読めなかった場合を考え、石には付与魔法がかけられており、サラの声で忠告を促せるようになっていたが、今回は必要ないらしい。

 まぁ、つまりは、必死に解読しているジュンくんの頑張りは、無駄だということだ。むしろ、侵入者を疲れさせるための策にはまったと言っても過言ではない。


「解読終わりました。読みますね。


(ようこそ、ボク達の城へ。

 キミ達を歓迎したいんだが、生憎と、そこから先は秘密でいっぱいだ。

 いままで進んできた空間で食料を得るなり、住み着くなり、戦闘を楽しむなりしてくれる分には構わないが、それ以上進むようなら、生きて帰る事が出来なくなると忠告させてもらうよ。

 決めるのはキミ達だが、ボクとしてはすぐに帰ってくれるとうれしく思う)


 って書いてありますね」


「敵からの宣戦布告ですか。さて、どーしますかねぇ?

 一応戦闘はしましたよね?

 勇者の配下は魔物でした、その数はそこそこ居ました、って報告するってことで帰っていいですか?」


「俺もそうしたいんだが、さすがにそういうわけにもいかんだろ。

 せめて、勇者の顔を見ました、くらいじゃないと、うえの連中は納得しねぇ」


「ですよね……。

 はぁ、しょうがない。進みますか」


 命の危険があるなんて、この任務を受けてから、いや、兵になってから、ずっと覚悟していたことであり、改めての忠告もあまり大きな意味はない。

 そして、これまで通りの体勢を維持しながら、先へと進む。


「おい、盾に魔力通しとけ、このトカゲ、火を噴くぞ」


「ッチ。まずいな。

 おい、この傷を回復してやってくれ。

 ……あと何回分の魔力残ってるか正確な数値を教えてくれるか?」


 そして、次々に湧いてくる敵を倒し、代わり映えのしない部屋を進み、代わり映えしない敵と戦い、男達は洞窟を奥へと進んでいった。



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