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<2-15>侵入者2

「……入り口を入った直後に階段か。なんともまぁ、面倒なことで。

 おい。どっちに進む?」


「ちょっとまってくれ。

 古の神々よ、行く道を誤まりし我に進むベき道を示したまえ」


 勇者の姿を確認し、出来る限りの情報、特に戦闘力などを調査しろと、第2王子から命令された魔法部隊所属の兵士7人は、勇者の住みかだと教えられた洞窟へと乗り込んだ。

 

 敵の本陣である洞窟の内部はひんやりとした独特の空気が流れており、男達にはとても不気味に感じられ、奥へ進む道、地下へと続く階段、そのどちらを選んでも不吉な予感しかしない。


 しかし、だからと言って、その場に留まっているわけにもいかず、今すぐに王都へと帰りたい気持ちを抑えながら、男達は、探索が得意な男に行き先の決定権を委ねた。


 無論、占いなどではなく、魔法だ。その正確度は比べるまでもない。


「……洞窟の奥からは人の気配はしないな。人が居るのは階段のほうだ」


「なら、決まりだな。

 サクっと行って、サクっと帰ろうぜ」


 返ってきた答えは一方が当たりだと示すものであり、幸いなことに悩む必要が無かった。


 しかし、その言葉を発した男の表情は、かなり渋い。


「そうなんだがな。……どうも妙な気配がする」


「あん? なにがだ?」


「いやな。人の気配と魔物の気配が入り乱れてんだ。

 なのに、戦闘が起きている感じがまったくない」 


「……ってことはおめー、あれか?

 人と魔物が共生してるとでも言うのか?」


「……あぁ、その可能性もある。

 どーも、一筋縄ではいかない気がするな」


 半ば冗談のつもりの問いかけに対し、返ってきた肯定の言葉。


「マジかよ……」


 人と魔物が仲良く住むなど、魔法が入り乱れるこの世界においても、おとぎ話か、それこそ異世界系の作り話。

 そして、吟遊詩人の語る人魔共生のつくり話は、大抵、攻め入るほうが悪役だ。ゆえに、その結末は……。


「……了解した。慎重に進むとしよう。

 すぐに脱出できる準備を整えておいてくれ」


「あいよ」


 誰かが、そういえば、勇者って異世界から来るんだっけか? と小さくこぼす。

 すると、周囲の空気がすこしだけ沈んだ。


 相手は得体の知れない人物であり、自分達の常識が通じない可能性があるとの認識を強くした男達は、いままで以上に周囲を警戒しながら、階段を下へと進んで行く。

 その足取りは重たく、速度は一向に上がらない。

 しかし、どんなに遅くても進めば必ず終わりはやってくる。

 

 そしてついには、石と岩が点在する広い空間に出でしまった。それと同時に、入口の側にあった岩側を歩いていた生き物を発見する。


「……こいつは、鶏か?

 それにしてはすこしでかい気がするな」


「そうだな。このサイズが市場に並んでいたら、客はさぞビックリするだろうな。

 ここは食料庫、いや、養殖じょ――っく!!」


 少しばかり大きな鶏を前に、冗談めかした話を繰り広げていると、唐突に鶏が走りだし、鋭いつめを前に、一番近くに居た男に飛び掛かる。


 タイミングとしてはバッチリ。完全な不意打ちだった。

 しかし、そんな攻撃も、男の体には当たらず、カチンという音と共に、男が持っていた小さな盾にぶつかる。


 勇者でも反応できなかった攻撃は、日頃から訓練を欠かさない男にとっては、問題にしなかった。

 どうやら、無意識に体が反応したらしい。

 大切なのは、付け焼刃ではなく、長年の鍛錬なようだ。

 

 全力の攻撃を盾で防がれたことにより体勢を崩した鶏は、勢いを失い、その場に着地した。

 その瞬間、2方向から迫ってきた刃により、その姿を肉の塊と卵へと変化させた。


「ふぅ……、いや、悪いな。助かった。


 それにしても、鶏があの勢いで襲ってくるとはな。

 ってか、血抜きも解体してないのに、肉だけが残ってるぞ。

 便利なのか、なんなのか。理解に苦しむね」


 まったくだ、ここに居て気が付いたら肉になってたなんてことないよな? これが勇者の魔法か? などと、口々に戦闘の感想を言い合っていると、索敵担当の男がくちを開く。


「攻撃を受けてからで悪いが、気配からすると、さっきの鶏は魔物だったらしい。

 それゆえのスピードと攻撃力なんだと思う」


「鶏じゃなくて魔物か。……いや、鶏型の魔物ってことか?

 なるほどな。たしかに、鶏にしちゃぁ、でかかったしな」


 そんなことを呟きながら、ふと、視線を横に向けると、そこには、顔が2つある犬がこちらに向かって走ってきていた。 


「おっと。どうやら、早くも次のお客さんらしいぜ」


「この分だとあそこに居る犬も魔物ってことで間違いなさそうだな。

 いや、もしかすると、周囲の岩も魔物って可能性がある。

 目に見えるものはすべて敵だと思って進むぞ。隊形はいつも通りだ」


 うっす。などと、口々に答えた男達は、前衛が3人と後衛2人、周囲警戒2人の普段通りの体勢で犬を迎え入れる。


「ッチ、すばやいな。

 犬なら犬らしく、尻尾振ってれば良いものを!!」


 前衛の3人が盾やナイフや剣などで牽制し、動きを抑制しようとするものの、俊敏に動く犬をとらえることができない。

 しかし、1番重要な役目である、敵を後ろに通さない、という役割だけはキッチリと真っ当することが出来たようだ。


「我の願いを聞き届けたまえ。ファイアーアロー」


「すべての物を燃やし尽くせ。ファイアーボール」


 前衛が必死に犬を抑えるている間に後衛で生み出された魔法が犬へと襲い掛かる。

 そして、ほどなくしてこげた地面に肉と魔玉だけが残った。


「強くはねぇんだが、この調子で襲われたんじゃ、体力や魔力がもたねぇな。

 うし。ちょっくら休憩しながら行くぞ。

 肉に加えて、高級食材の卵まであるんだ、せっかくだし飯でも作るか」


「うぇ? マジっすか?

 なら、俺、ちょっくら鶏狩ってきていいっすか?

 実は、卵食べたことないんすよ。なんで、出来るなら1個丸まる食いたいっす」


「おうよ。怪我だけはすんなよ」


「あざっす」


 どうやら、まだまだ余裕があるらしい。

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