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<2-14>侵入者

 クロエが風呂場に突入する2週間前。


 王都にある酒場に、7人の男が集まっていた。


 彼らの前にはぬるいビールが注がれたジョッキが置かれているものの、誰一人として、その器に口をつけるものはいない。


 全員が何かに取り付かれたかの様に、テーブルの上に置かれた一枚の紙から、目を離せずに居た。


「……白紙に加えて王印まで押してあるってことは、拒否権無しの命令ってことでいいか?」


「あぁ、残念ながらな」


 彼らは全員が兵士。

 それも、魔法部隊に所属するエリート兵士だった。


 魔法部隊の戦闘力は国内最強と言われるものの、その数が少なく、慢性的な人手不足である。

 そのため、数人だけで任務を行うことが少なくない。


 また、使える魔法は血筋に由来し、得意な魔法が一人一人異なる。そのため、出来ることが大きく異なり、特定の人間としか共闘出来ない者も居た。


 そんな事情からか、一部の人間を除いたおおよその魔法兵士達は、数人でグループを造り、いつも同じメンバーで任務を受けることが一般的となっていた。

 

 また、魔法の相性の関係で、任務の内容が自分達に適してないと感じた場合は、任務を拒否することも認められている。

 その任務に必要な魔法を使える者がやれば良いというわけだ。


 ただし、何事にも例外は存在する。

 命令を行った者が王族である場合、任務拒否をすることは許されない。


「かーーーーー。マジかよ。

 ここって、あれだろ? 中隊が全滅したってうわさの場所だろ?」


「あぁ、そうだ。そこを見て来い、ってことらしい」


 一応は偵察任務だからお前等の得意分野だろって言われぞ、とリーダーを勤める男が話を続けると、辺りからは批判を交えた溜息が飛び交う。 


「ただ、その噂は一つ訂正がある。

 噂はうわさだ。実際は、全員が無事で、怪我をしたやつすら居ないとのことだ。

 情報系の奴に直接聞いてきたから、信頼性の高さは保障する」


 彼らに与えられた任務は、勇者を語る偽者が寝床にしていると噂される場所の探索だった。


 第1王子の失脚とサラの宣戦布告。そのどちらも、国民の野次馬魂に火をつけるには十分すぎる内容であり、すこしばかりの時間が経過したことで、噂話が一人歩きし始めた。

 その結果、最近では勇者の文字すら消え、あそこには殺人鬼の集落があるといったのものや、悪魔の巣窟だ、などいった噂が王都を中心に広まっていた。


 さすがに、兵士である彼等が、本当に悪魔が居るなどと思っていたりはしないが、火の無いところに煙は立たず、というように、危険そうな場所である、という認識は持ち合わせていた。


「はぁ? 全員が無傷? 

 けど、うちの国が敗北したのは事実なんだろ? あれだけ堂々と宣戦布告されたわけだしな。

 なのに全員無事って、余計に意味わかんねぇよ」


「それも含めて見て来いって話しらしい。

 出来るならば勇者様の姿も拝んで来いってさ」


 第2王子派の偉い人から与えられた情報は、探索場所、そして、偽勇者が居る可能性が高い事、ただそれだけである。


「……白紙で王印で、俺達には受けるか国を敵に回すかしかない状況か。

 やってらんねーな」


「そういうな。

 敵に見つからなければ戦闘することなく、姿だけ見て帰宅だ」


「まぁな。敵を全滅させろって書いてないだけマシか」


「そういうことだ。

 準備を整え次第出発するぞ。まずは周囲の村に聞き込みを行なってから、敵本拠地に乗り込む」


「了解」


 魔法軍の指揮権を持つ第2王子からの直接命令。

 気乗りはしないものの、引き受ける以外に選択肢など無かった。




 それから4日後。

 彼等は、ダンジョンがあると記された場所から程近い村で、勇者やダンジョンに関する情報を収集していた。

 

 しかし、その進捗状況は予想以上に悪い。


「……どういうことだ。なぜこんなにも軍を敵視している?」


 1つ目の村では、国の兵士であることを明かし、勇者の情報提供を求めたが、返ってきたのは、村から出て行け、と言ったバッシングだけだった。


「軍の関係者ってことを隠して話しを聞こうにも、勇者って言葉を出しただけで目の色が変わるからな。

 かーーーー、どうしようもねぇな」


 王族が直接的な決定権を持つ軍に所属する彼等の質問は、王族が質問していることと同義である。

 そのため、国内での情報収集で手間取るなど、普通なら有り得る事ではない。


「結局、酒場で聞こえてきた、勇者を褒め称える声が1番有力な情報って感じだな」


「あぁ、そうなってしまったな。

 あの時は、敵をほめるなんてむかつくやつらだ、なんて思っていたが、どうやら、この辺いったいの村々じゃ、そんな連中がうようよいるようだしな」


「敵方の洗脳が進んでるってことか。

 これはいよいよもってまずいかもしれんな。

 俺達に厄介ごとが振りかって来る前に出発するとしよう。

 このままここにいると、敵地に乗り込む前に、ここの住民達と争うことになりかねん」


「そうだな。情報不足は否めないが、疲れた状態でいくよりはマシだろう」


「よし、決まりだな。明日、日の出と共に敵地を攻める。

 目的は敵の能力の把握とその特徴を捉えること。

 その2つが判明次第、即座に撤退するから、そのつもりでな」


「あいよ」


 結局彼等が手に入れた情報は、敵は洞窟の中に居ることと、大規模な魔法が使える者が居る、ということだけだった。


 その情報自体も、洞窟全体が崩れるなんてすげーよな、しかも、それが一瞬にして治るんだぜ、さすが勇者だよな、と酔っ払いが話していた言葉を聴いたのみであり、信頼度としてはかなり薄いものであった

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