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<2-13>にごってます

「ふぃー。生き返るー。

 やっぱ風呂は、でっかい方がいいよなー」


 怪我をしてから2ヶ月が過ぎ、日課となったクロエ師匠の戦闘訓練を終えた俺は、汗や泥を落とすために、風呂に漬かっていた。


 先日、新人達のリーダーであるリアムに、頑張ってるようだし、何か欲しいものある? と聞いたら、お風呂を頂きたく思います、と返答が帰って来たため、その日のうちに、新人達用のお風呂を設置したのだが、アンタは勇者様なんだから、兵士達より大きな風呂に入りなさいよね、とアリスに怒られたため、俺達の方の風呂も拡張することになった。


 その結果、俺は、20人くらいが一度に入れるほどの大きさの湯船を毎日、独り占め状態で入れることになった。

 

 岩の隙間からあふれ出してくるお湯は常時かけ流しで、壁にはクロエに描いてもらった富士山の絵。

 体を洗うスペースには、シャワーだけでなく、シャンプーとリンスも常備。


 ……うん。銭湯です。


 どうやら、俺のイメージが強く反映されてしまったらしく、日本の銭湯風になりました。

 クロエ曰く、お兄ちゃんに喜んで欲しいと思ってお風呂を作ったよ、だそうだ。


 いや、あれですよ。おっきい風呂って、銭湯じゃん。


 ん? 温泉? あー、あれね。うん。……行った事ないんですわぁー。


 まぁ、でも、銭湯でも十分幸せだよ。のびのびと入れる風呂とか、それだけで十分最高じゃないですか。


 擦り傷や切り傷、打撲跡など、色々とお湯がしみるけどな……。


「ってか、あれだよ。クロエさん、ちょっとチートキャラすぎだな。

 至近距離から発射した銃弾避けるとか、バグでしょ?」


「そうだね。ボクの目から見ても、彼女は非常に優秀に見えるよ」


「だろ?

 食いしん坊なのが少々残念だけど。その点もあいつの良さと言えば良さなんだよな。

 クロエが幸せそうにご飯を食べる姿とか、見てるとこっちも幸せになるしな」


「そうだね。彼女を購入したキミの目に狂いは無かった、と言ったところかな。

 改めて御礼を言うよ。助けてくれてありがとう」


「どうしたんだよ、そんなサラにありが……」


 あれ? なんかスムーズに返答がきたから話をしてたけど、なんでサラが横にいるの?


 ちょっと冷静に考えよう。

 ここはお風呂場。そして、湯船の中。俺も、サラも……。


「……あー、サラ。ちょっと尋ねたいことがあるんだが、良いか?」


「ん? なんだい?

 何でも聞いてくれてかまわないよ」


「あー、じゃぁ、お言葉に甘えて。

 えっとだな。……なんでここにいるんだ?」


「ん? それはどういう意味だい?

 僕には質問の意図がわからないよ」


「……えーっとだな。

 まず、ここは風呂で、現在俺が使っていたはずだよな?」


「うん。その通りだね」


「サラはいつここへ?」


「ついさっきだね。

 そのとき、キミは幸せそうに目を閉じていたよ」

 

 おぅ。どうやら、周囲が見えなくなるほど、風呂の誘惑に飲み込まれていたらしい。


「ってことは、あれか? 俺が気付かないうちに進入してきたということか?」


「そうだね。その認識で正しいよ」


 おぉ。どうやら、間違っていないらしい。

 目の前に、サラ様のお胸様がお湯の湯力で少しばかり浮かんでいるように見えるこの状況は、間違っていないらしい。


 ……だというのに、なんで、どうして、このお風呂は、にごり湯なんでしょうか?


 おい、風呂のイメージしたときの俺! 何でお湯が澄み切ってないんだよ!!


「で、サラさんは、現在、服を着て居られないわけだ」


「その通りだね。

 風呂は裸で入る物だと記憶していたんだが、違ったかい?」


「…………いや、俺がいるんだから、裸で入ってきちゃだめでしょ

 ってか、そもそも入ってきちゃだめでしょ」


 そんな俺の言葉に対し、サラは、キョトンと首を傾げた。


「どうしてだい?」


「……え?」


 そんなサラの態度に対し、俺は動揺するほか無かった。


「ボク達は夫婦だと記憶しているよ。

 夫婦が仲良くお風呂に入ることはいけないことなのかい?」


「いや、いけなくはないが……」


「なら問題ないじゃないか」


「いや、はい。いえ、そうではなくてですね。

 なんと言いましょうか。私の理性がですね……」


 そう、俺の理性は限界です。いや、だって。目の前に柔らかそうな塊がぷかぷかしてるんですよ。

 時折、サラが動くから、きわどい感じなんですよ。無理だと思いません?


「あぁ、そのことかい?

 大丈夫だよ。男性が女性に対して行為に及びたいと思うことは不自然なことではないと理解しているよ」


「えーっとですね……」


「大丈夫だよ。経験は無いが知識はあるからね。

 ボクはキミを満足させてあげれるよ」


 そんな言葉とともに、サラが背中に抱きつき、体を押し当ててきた。


「たしか、こうすれば、キミはよろこぶのだよね?」


 さらには、両手を俺の胸辺りに回し、強く抱きしめる。

 すると、柔らかいものが背中に当たり、ふにゃんと形を変形させたかと思えば、俺の肌にむにむにと張り付いた。


「うん、悪くない反応だよ。

 自分の体に自信は無かったのだが、キミの反応を見る限り、問題は無いようだね。

 それじゃぁ、次のステップに移るとするよ」


「……次って、これ以上は本当に――」


「ボクはそのつもりだから安心していいんだよ。

 けど、出来れば優しくして欲しいかな」


 そして、胸辺りにあったサラの右手が次第に下がって行き……。


「兄様!!!!」


 その右手が触れる寸前に、クロエが大声と共に風呂場に現れた。


「「…………」」


「え? サラ姉がどうしてここに?

 しかも、そんなに密着して……」


「い、いや。なにも問題なんてないよ。御覧の通り、お風呂に入っていただけだね。

 そんなことよりも、何か急な用事だったのではないのかい?」

 

 クロエの登場で弾かれたように距離をとったサラは、見るからに動揺していた。

 しかし、クロエの優しさか、それとの天然の成せる技なのかはわからないが、サラの不自然な話題変更をクロエは何事も無かったかのように受け入れる。


「うんと、あ! そうだった!!

 あのね。ダンジョンに侵入者だよ!」


「侵入者? どこ?

 …………あー、ほんとだ。そこそこ居るな。

 あー、了解。作戦を考えるから、みんなを会議室に集めといてくれ」


 はーい。と言って、来た時の勢いそのままに、クロエは走り去っていった。


 これで風呂場にいる人間は、先程までと同じ2人だけ。


 それじゃぁ、気を取り直して続きといきますか!!


「……ボク、先に出るよ」


「はい。了解しました」


 ……まぁ、そういうわけにもいかないよな。


 ってか、なんだろう。いい感じの雰囲気で突然人が乱入って……。もしかすると、今が一番勇者っぽい感じだったんじゃねぇ?


 ……この無力感と寂しい気持ちは、愚かな侵入者共に向けるとしよう。

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