<2-12>新兵器
「うーん。
悪くは無いんだけど、なんか違うな。
……あれかな、持ちにくい?」
「そぉ? 持ちにくいかな?
下についてる取っ手の話しよね?
出来る限り、ハルくんのイメージを尊重して作ったつもりなんだけどな」
「うん、そうなんだけど。……まぁ、初回の試作だって思えば、十分な出来かな。
それらしい形にはなってるし、この分なら試し打ちも出来そうだしな」
ミリアに魔法で製造してもらった武器を手に、その出来具合を確認する。
その見た目は、鉄で出来た円柱の管に木の取っ手が取り付けられただけの物で、大きさは手のひらサイズってところだ。
管の片側は完全に閉じられており、厚みや耐久性も問題はなさそうで、俺が考えていたものとは見た目が異なるが、構造自体に問題はなさそうだ。
「それじゃぁ、試してみるから、みんなはすこし離れててくれ」
「はーい」
クロエやミリアが素直に離れてくれたことを確認し、俺は管の中に小さな魔玉を2つ入れ、管と同じようなサイズの丸い鉄の玉を長い棒を使って、管の奥へと押し込めた。
「うっし。それじゃぁ、やりますか」
初めての試みなため、どんな不具合が起こるかわからないが、ミリア達は遠くへ避難させたし、最悪でも俺がどうにかなるだけだし、まぁ大丈夫だろう。
木の取っ手を握り、管の開いている方を剣術の訓練用に用意した木に藁を巻きつけた的に向けて構えた。
そして、意識を管の中の魔玉に向け、ゆっくりとしたイメージで魔力を流し込む。
…………あれ? 意外に魔力使うな。
それに発動まで時間かかるし。うーん、ここも改良が必要か……。
なんて思っていると、突然、周囲に爆発音が響いた。
「ハルくん!?」
「お兄ちゃん!??」
なんか、遠くで2人が叫んでいるが、爆発音で耳がキーンとなっているため、何を言っているのか、よくわからない。
ってか、覚悟はしていたつもりだったが、予想以上にうるさいなー。ここも改良が必要か? けど、耐えられなくはないし、本物もこんなもんなのかな? ……まぁ、それは後々考えるか。
「お兄ちゃん、無事なの?」
何か言いながらクロエが近寄ってくるのを遠めに見ながら、俺は意識を手元に向けた。
そこには爆発音が聞こえる前と大きな変化の無い筒の姿がある。しかし、何も無かったわけではない。
俺の手には爆発の衝撃を受けた痺れが残っているし、筒の中に押し込んだはずの魔玉2つと鉄の玉の姿が消えている。
……うん。耐久性には問題ないな。
この分なら、螺旋の溝を彫っても大丈夫かな。けど、両手持ちにする必要はあるな。衝撃強すぎるし。
などと、今行なった実験の問題点を洗い出していると、すごい勢いで近寄ってきたクロエに、左前方から勢い良く抱きつかれた。
「お兄ちゃん、大丈夫!? 怪我してない??」
いつも通りのふわふわな感触。ご馳走様です。
……なんて一瞬思ったんだけど、クロエちゃん、涙目になってるね。
あー、ほんとに心配掛けちゃった感じだな。
まぁ、怪我が治った直後に俺の近くで爆発音がしたら、焦るなって言うほうが無理か……。
「あぁ、問題ないよ。
驚かせてごめんな」
「うんうん。……怪我してなきゃいいの」
涙目の上目使いで見上げてくるクロエの頭をゆっくりと撫でる。すると、少しだけ安心した顔を見せてくれた。
「ハルくん、本当に大丈夫なのね?」
「あぁ。ミリアもノアも、驚かせて悪かった。
とりあえず、実験は成功したから」
クロエより少しだけ遅れてやってきた2人と合流し、一緒に的に向かう。
「これを見てくれるか?」
「うーん? 穴、開いてるね?
あの爆発音関連で、遠距離攻撃の魔法を発動したってこと?」
「あー、んー、まぁ、そんな感じかな。
とりあえず、あの距離から木に穴を開けれるくらいの遠距離攻撃が出来るようになったってことで間違ってない」
爆発の衝撃で金属の塊を飛ばす。つまりは、銃だった。
現状、鉄パイプに木の取っ手が付いているだけの見た目で、到底、銃には見えない代物だがな。
もしかすると、大砲の方が近いのか?
本体や玉の形成はミリアの魔法でやってもらった。
どうも、妹が非金属、姉が金属の形成魔法らしい。
爆薬のほうは、サラに頼んだ。
前世のうろ覚えな知識から、酸素供給源と可燃物と着火源があれば爆発を起こせるはず、とサラに言ったところ、それは面白い仮説だね、って流れで、出来上がった。
なんでも、火の魔法を分解して2つに分けた後、それぞれの威力を調節したら爆発するようになったんだとか。
詳しい仕組みもわからず、かなりアバウトな注文だったのだが、さすがは魔法の世界、ってことで納得することにした。
俺としては、必死に黒色火薬の原料を探して調達して、試行錯誤を繰り返して配合してー、なんて思っていんだがな……。なんか、あれだな。ロマンが足りなくない?
「そうなんだ。
けど、鉄の玉を飛ばしてたみたいだけど、あれじゃぁ、避けられるかナイフで防がれるか、じゃないかな?」
「ん? …………クロエ。もしかして、なんだけど。あの距離から飛んでく玉、見えた?
ってか、防げる? …………ナイフで??」
「うん。
その筒から飛んでいったやつでしょ?
近くに飛んできたら叩き落せるよ?」
クロエは、当然だよね? といわんばかりの顔をしている。
え? あれ? 銃弾ってナイフで防げんの?
ってか、あれ? 遠くからでも玉が飛んでったのが見えた?
「クロエ。
……そんなこと出来んの?」
「え? うん。
……あれ? えーっと、お兄ちゃん、出来ないの?」
「…………い、え、あ、うん。あははー。
出来る、うん。出来るよ。もちろんじゃないかー」
「そうだよね。まっすぐにしか飛んでこないもん。簡単だよね」
「そうだなー。はははー」
後日、試してみたんですが、クロエ様は、本当にスライムナイフを使って飛んでくる弾丸をはじき落とされました。
前世の知識をもとに、クロエを見返してやる!! なんて、思ってた時期もありましたが、どうやら魔法世界には、こえられない壁があるようです。




