<2-11>勇者の影響
「うん、今の動きは良かったかな。
けど、あともう一歩だけ多く踏み込んでたら、隙を突くキッカケに出来たと思うの」
「ぅぐ……ぐべ。……はぁ、はぁ、……っ。……」
「んー。あと一歩だけだから、もうちょっと頑張ってみようよ。
お兄ちゃんなら大丈夫だよ」
「……ぉ、……ぉぅ」
「それじゃぁ、いくよーー」
魔力を流すことで、魔物を生み出し、そこに住まわせることで防御の要とする。
俺達が作っているダンジョンは、魔物を管理しているわけではなく、住まわせているだけ。
だから、近寄れば攻撃してくる。
その事は、十分に理解していたはずであり、十分注意していたはずだったのだが、気を抜いたことにより、俺はお腹に大きな傷を負った。
「ごばぅ」
「うーん、もうちょっとだね。
もう一回行くよー」
「ちょ、ちょ、まって。
きゅうけい、休憩をさせてくれ。お願いだから。いえ、お願いします」
「んー? そぉ? 疲れちゃったの?
うーん。……まぁ、いっか。じゃ、すこしだけ休憩にしよ」
「ありがとうございます。ほんと、ありがとうございます」
傷を負ってから、1ヶ月。
俺はダンジョン内の一室で、木を削っただけの剣と豪華な盾を手に、クロエと模擬戦を行っていた。
それなりの勢いで血が流れ出していた腹の傷は、完全にふさがり、すこしの傷跡が残るだけとなった。
怪我を負った直後は、あー、これはダメだな、俺、死ぬかもな、なんて、思ったが、幸い、後遺症も無く、すっきり治った。
その要因としては、刺さった場所が比較的良かったため、内臓を傷つけていなかったという点と、傷口に当てた布が優秀だったという点があげられる。
俺が怪我を負ったあの時、あの場に清潔な布など存在しなかったのだが、このままではヤバイ、と思った矢先、ノアが魔法の力に目覚め、ニワトリが落とした魔玉を使って布を作ったらしい。
しかも、その布には、怪我を早く治す魔法が宿っていたらしく、こうして俺が飛んだり跳ねたり出来るようになったのは、ノアのお陰という訳だ。
……仲間のピンチに、新たな力に目覚めるとか、どこの勇者様ですか?
そんなノアに対して、俺の勇者ぶりといったら……。
…………うん。気にしたら負けだな。うん。
「ハルくん。休憩中?
着てみたんだけどどうかな? お姉ちゃんにちゃんと似合ってる?」
「えぇ勿論、似合ってますよ」
俺の体調なんていう、心底どうでも良い話はここまでして、いま、俺の目の前に広がる、幸せな光景の話をしよう。
クロエからイジメ、もとい、指導を受け。やっとの思いで、休憩を頂き、地面に倒れこむように休んでいると、ミリアとノアが顔を出した。
俺がコーディネートした服を身に着けて。
「兄様。この服、すっごく動きやすい」
「そっか、それは良かった。
ノアも似合ってるぞ」
「えへへー。ありがと」
ミリアは、その大人っぽさを全面に押し出すように、Vネックの赤いロングワンピースである。
V字に大きく開いた胸元は、ワンピースの下に身に着けている黒いキャミソールが少しだけ顔を覗かせる仕様になっており、彼女の大きな胸をより印象深く見せている。
真っ直ぐ腰まで伸びた藍色の髪と赤いワンピースが相まって、ふんわりとした具合は残しつつも、普段以上に頼りになる雰囲気だ。
なんだろう、お姉ちゃん、って呼びたくなるこの気持ちは……。
タイトルは、ビーナスの抱擁かな。
あー、えっと。ノアの方は、中学の制服にしてみた。
アリスがコスプレっぽいピンクのセーラー服なのに対して、ノアは紺色の王道的なセーラー服だ。
足元は白ソックス。スカートの中は体操服の短パンという仕様だ。
え? 短パンは反則? 見えたときにがっかりする?
……貴様等は何を言っている。
風であおられてスカートの中が見えたとき、パンツよりも短パンであったほうが、幸せに決まっているだろう。
見れた方は、普段見れないものが見れて幸せいっぱい。見られた方は、短パン履いててよかったと思って幸せ。
皆が幸せになれるんだ。これ以上、すばらしいことはないだろ。
あ、そうそう。アリスのスカートの中は、縞パンです。
純粋で穢れを知らなそうな彼女が、綺麗な着こなしでセーラー服を身に付ける。
なんだか、純粋さが何十倍にも膨れ上がった気がするね。
タイトルは、部活帰りのスイートピー。
もちろん、彼女達の服は、ノアの魔法で出した物だ。
ミリア、ノアの姉妹に魔法の適正があることは、ダンジョンの天井を壊し、敵の兵を落とした時、魔玉を使えたことから知っていたのだが、どうも物造り系の魔法らしい。
なんでも、両親は魔法を使えなかったが、父方の祖父は魔法を使える家系だったんだとかで、サラ曰く、勇者の側に居たから使えるようになったんだろう、とのこと。
……無理やり勇者のお陰ってことにしてないか? とも思ったが、とりあえずスルーしておいた。
ノアは、先も言った通り、俺の怪我をキッカケに、服や布、主に製糸系の魔法を使えるようになった。
「あ、そうそう。
ハルくんから頼まれてたやつ、出来上がったけど見る?」
「え? マジで?
見る見る!!」
「……けど、まだ、試してないから、失敗してもがっかりしないでね?」
そして姉の方も、妹には負けられない、とサラやアリスのアドバイスをもとに、魔法の訓練を頑張った結果、ミリアも製造系の魔法を使えるようになった。
体調不良とシルバーウィークのため、1週間ほど更新をお休みします。
気長にお待ちください。




