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<2-9>岩のある部屋2

 くるぶしほどの大きさの石を跨ぎ、膝丈ほどの石と石の合間を抜け、部屋中央の腰くらいある岩の後ろに回り込み、准男爵から巻き上げた剣と盾を構える。

 

 一応、空いた時間にクロエから剣術を教えてもらっているが、いまの所、見た目だけはそれなりに構えることが出来るようになりました、ってくらいの進歩状況なので、剣を構えたところでさほど意味は無いのだが、無いよりはマシだろう、ってことで構えてみた。


 剣も盾もそれなりのお金を使ってますよ、と言った感じの見た目で、ところどころに宝石があったり、無駄な模様が付いてたりするが、それを持っているだけで強くて偉くなった気がして安心するから不思議だ。


 未知の敵と接触するということで、ミリアもノアも武器を手に持ち、緊張感を高めながら岩の向うを覗き込む。


 まず目をひくのは、頭の上に乗った赤い大きなトサカであろう。そして、顎辺りが赤く垂れ下がっている部分も含めて顔全体を見ると、まるでこちらを威嚇しているように見える。

 体は白い羽で覆われているものの、尻尾だけが黒く。その尻尾が天に向けてピンと立っている姿は、雄雄しく見える。


 その体格と比較すると、太股だけが異様に発達していおり、足先に備わる鋭い爪とあわせて考えると、攻撃の主体は、その足から繰り出される蹴りなのだろう。


 つまりは、







    ニワトリだった。   



「……ハルくん。新しい魔物って、あの子なの?」


「あぁ、マリモより強そうだろ?」


「……えぇ、まぁ、そうね」


 大きさは俺の膝くらい。小学校の時、飼育係りでお世話をしたニワトリに似ている気がする。


 種類はブロイラーなのかな? ……まぁ、ニワトリなんてブロイラーくらいしか知らないし、そもそもブロイラーってどんなニワトリなの、って聞かれても、よく知らない、って答えるしかないほどの知識しか持ち合わせてないから、イメージ的なものだけだがな。


 ニワトリは、俺達の接近に気がついていないようで、一心不乱に岩と地面の間を突っついている。

 恐らくは、そこに生えている藻か何かを食べているのだろう。


「お姉ちゃんの目には、ニワトリに見えるわね」


「……うん、あたしの目にも、ニワトリに見えるよ」


 そんな敵の姿を確認し、緊張して損した、と言いたげな雰囲気で、ミリアとノアが武器を下ろす。


 ちなみにだが、ミリアは弓、ノアは短剣と小さな盾のスタイルが得意らしく、人並みには使いこなせるらしい。

 なんでも、商人は移動が多く、魔物や盗賊と出会う可能性が他の仕事と比べて高いからと、幼少の頃から親に習っていたそうだ。


「2人の様子を見るに、ニワトリに対して馴染みがあるようだな。

 この国って、養鶏とか盛んなのか?」


「んー、そうね。首都を含めて、どの村でもニワトリを飼っているわね。

 小さな村だと、村共有の財産ってことで、村長が育ててたりするわよ」


「なるほどな」


 どうやら養鶏は一般に普及しているらしい。

 

「まぁ、この様子だと、魔力を流し続ければニワトリも増えるだろうし、養鶏うんぬんは後々考えるとして、とりあえず、こいつを狩って帰るとするか。

 お土産が無いと、クロエが怒るだろうしな」


「そうね。そうしましょうか」


 から揚げにしようか、焼き鳥にしようか、もし卵も手に入るなら親子丼もいいなー。……あー、米が無いんだっけか。

 いっそのこと、北京ダックとかどうよ? 俺じゃぁ、作り方わかんねぇけど、クロエにそれらしい説明したら、再現してくれんじゃねぇかな?


 なんて、妄想に花を咲かせながらニワトリに近づくと、俺の接近に気付いたニワトリは威嚇するように白い翼を大きく広げ、全力でこっちに向かってきた。


「ぅぉ!!」


 安易に近づくと逃げ出されて捕まえるのが大変になるかな、と思っていたのだが、結果は正反対。


 日本に居た頃のニワトリのイメージで一杯だったが、よく考えれば敵は魔物だった。

 少しばかり考えが浅はかだったようで、予想外の出来事に体が硬直してしまった。


 その間に魔物(ニワトリ)は勢い任せに鋭い爪を繰り出し、爪の先端が俺の右足を直撃する。


 …………まぁ、そうは言っても、敵は所詮ニワトリ。ズボンが裂けることすらなかった。


 ふぅ。いやー、びっくりした。


 けど、あれだな。もし、この世界のニワトリの攻撃力が予想以上に高かったら危なかったな。

 

 敵はどんな見た目でも魔物。気を引き締め無いとな。


 なんて、心の中で反省し、剣と盾を構えなおした。

 

 そしてダメージを受けた左足から目線を戻し、再びニワトリに目を向けると、ニワトリの側をマリモが通過しようとしている姿が目に映った。


 そして次の瞬間、ニワトリがマリモ目掛けて嘴を振るった。


「え?」


「兄様!?」


「ハルくん!!」


 空飛ぶマリモを食べたニワトリは、白かった体に緑色の線が入り、次の瞬間には、先ほどの倍ほどのスピードで俺に突撃。


 その鋭い爪が俺の腹に深々と突き刺さった。


 そっか、こいつは俺が良く知るニワトリじゃなくて、魔物だもんな。マリモを倒してレベルアップしたって事だろうな。

 スピードも攻撃力もあるし、こいつなら、それなりの戦力になりそうだな。


 ってか、ニワトリがこんなに強い世界なら、俺のカラス達も、もうちょっと強くても良くないか?


 滴り落ちる自分の血を漠然と眺めながら、俺はなぜか、そんなことを考えていた。

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