<2-8>岩のある部屋
「……あれ? 他のやつらは?」
「あ、兄様。おはよう。
えっと、皆は忙しいから、不参加だってさ。
サラ姉とアリス姉は土の魔玉造りで、クロ姉は新人さんと一緒にダンジョン改造って言ってたよ」
「人数が少なくて心配かも知れないけど、お姉ちゃんが居るから大丈夫よー。
なにがあっても守るからねー」
「……了解。頼りにさせてもらうよ」
魔力を流出させてから5日。
空を飛ぶ大きなマリモを発見した日から、朝食前にみんなで魔物の増え具合をチェックすることが、最近の日課となっていた。
あ、そうそう。マリモを倒したときにドロップした藻なんだが、お湯で茹でて塩で味を調えたら普通に美味しかったぞ。イメージ的には、アオサのスープって感じだった。
出来れば味噌汁にして飲みたかったが、味噌が無いから仕方がない。
まぁ、そんなわけで、今日も日課を果たすべく、昨日と同じくらいの時間に洞窟へ転移したのだが、そこに待っていたのは、ミリアとノアだけ。
他のメンバーは別で作業をしてるため、来れないらしい。
メイン戦力であるクロエとアリスが居ないのは正直心もとないが、いままでダンジョン内で出会った魔物はマリモだけで、戦闘らしいことなんて一切無かったし、いざとなれば移動の魔玉で逃げれば良いか、ってことで、3人だけでダンジョンに突入することになった。
「それじゃぁ、いきますか」
「はーい」
そんなゆったりとした掛け声と共にカラスを2匹呼び寄せて左右に配置し、万全の体制でダンジョンの入口を潜る。
すると、すぐに大小様々な石が点在する部屋に出た。
「うーん?
今日も真ん中の石がすこしだけ大きくなった……かなぁ?」
「どうだろな。俺的には昨日と変わらない気がするが」
「お姉ちゃんは、おっきくなったと思うわよ」
とは言っても、新しく石のある部屋を作った訳ではない。
魔力を流した翌日。
やっぱマリモだけじゃ意味ないよなぁ。ってことで、より多くの魔物をダンジョンに住まわせる必要があると思い、その手段として、部屋の増築や魔力流出量の増加を考え、ダンジョンコアに話を持っていったのだが、却下された。
ダンジョンコア曰く、現状で部屋を増やしたり魔力量を増やしたりするよりも、部屋の中に障害物などを作ったほうが、より早く魔物を成長させれる、と言われたので、そういうことならと、石スライムを購入し、部屋の中で放し飼いにした。
今更発覚したことなのだが、従者として召喚するスライム達は、もともとダンジョンに仕え、ダンジョン内を整備する者であり、放し飼いが正しい使い方らしい。
そんなわけで、魔力を流した中部屋は、石スライムの整備のお陰で、石や岩がゴロゴロ転がっている部屋になった。
現状では、1番大きな石でも、俺の腰くらいまでの高さしかないが、時間経過と共に石が大きくなっているため、そのうち、俺の身長を通り越し、天井まで到達するのではないかと思っている。
どうでも良い話だが、この世界では、細石が岩になって苔がむす、ってことも不可能では無いらしい。
現在、侵入者の立場である俺達からすると、初期の頃の部屋と比べて物陰が多く、部屋全体が見通せなくなったため、不意打ちなどの危険が増したが、ここを住みかとする魔物達にとっては、暮らしやすい空間になったことだろう。
……まぁ、俺にはカラスが居るから、障害物なんて関係ないんだけどな。
「うっし、やりますか。
ちょっとだけ意識を分散させるから、周囲の警戒よろしくな」
「はーい」
「任せてねー」
念の為、2人に声をかけ、合計8匹のカラスを動員し、部屋の中をいろんな角度から眺めていく。すると、岩と岩の隙間や、岩の陰に隠れるように身を潜めていたマリモを発見。
その日は、部屋全体で20匹くらいを発見することができた。
昨日が16匹で、今日が20匹だから、魔物の数自体は増えてんだけどな。戦闘力の無いマリモをいくら増やしたところで、兄達に対する防御力にはならないしな。
流出させる魔力量を200に引き上げるべきか? 石スライムだけじゃなく、草スライムとかも放し飼いにしたほうが良いのかな? けどなー、増やすと大きなお風呂購入が遠のくな……。
手持ちは、油スライムと普通のスライム。油まみれのダンジョンとか嫌だな……。
なんて思っていると、部屋中央を飛んでいたカラスの目に、見慣れない生物が映りこんだ。
「……新しい魔物らしき生き物を発見した。
場所は中央の岩陰。ちょうど、俺達から見て岩の真後ろに居る」
「新種!?
強そう? 頼りになりそう?」
即座に警告を発した俺だったが、返ってきた言葉は、ワクワクと言った感じの物。
そんなノアの問いかけに対し、再び新しい魔物に目を向けるが、その見た目は、なんとも返答に困る感じだった。
「……あー、なんだ。
強そう、……には、見えないな。
なんだろう、見た目には、クロエが喜びそうな感じだな」
「クロ姉が喜ぶ?」
「あぁ。
まぁ、確かめる必要があるし、接触してみるか。
それでいいよな?」
「うん」
「大丈夫よー」
そういうことになった。




