<2-7>ダンジョンを作ろう6
「魔力堰を洞窟からの出入り口とそれぞれの居住区の入口に設置してくれるか?」
「はーい。
お願いね、コアちゃん」
「それから、魔力を流出させてくれ」
「はぁーい。
……んぅ? んっとね。魔力の放出は、1回出しちゃうと止められないって。
それから、流出量よりも残存ポイントが少ないと足りない量に応じて、ダンジョンの一部が崩壊しちゃうから気をつけてね、だってさ」
「……ってことはなにか? もしかして、流出ポイントって毎日消費される感じか?」
「ちょっとまってね。……うん、そうなんだって」
「……了解。そしたら、とりあえず、100ポイントだけ流出させてくれ。
流出場所は中部屋の真ん中で」
「あーい」
国民が増えてから5日が過ぎ、ポイントも程よく溜まったので、ダンジョン内に魔力を流すことになった。
ダンジョンを造り始めてからもうすぐ1ヶ月。
ダンジョンコアこそあるものの、どう考えてもただの地下ハウスだった場所も、これで幾分かダンジョンらしくなるだろう。
「それじゃぁ、ダンジョンの入口に飛ぶぞ」
いつものメンバー向かってそう言葉をかけた俺は、ポケットから魔玉を取り出し胸に当てる。そして心の中で強く念じると、次の瞬間にはダンジョンの入口、いつもの洞窟に居た。
周りを見渡せば光りの玉がいくつか浮かんでおり、それらが次第に人の形に近づいたかと思えば、そこからサラやクロエが現れた。
今使用した魔玉はクロエとサラの合作で、転移の魔法が付与された物だ。
1日に4回しか使えなかったり、ダンジョン入口と自分の部屋にしか飛べないといった制限はあるものの、万が一、ダンジョン内に倒せないようなモンスターが出現しても、自室へ帰れるようになった。
勿論、朝の時点で、新人5人を含めた全員に1個ずつ渡してある。
あ、そうそう。ダンジョンコア曰く、魔力堰なる物で魔力を遮断してやれば、そこから先には魔物が出てこなくなるらしい。
なので、俺達の部屋の方や洞窟の方に、魔物が出てくるなんていう心配はないそうだ。
これで、逃亡当初から予定していた、ダンジョンを使った防衛戦が出来るようになった。
……まぁ、もうすでに戦闘しちゃった後なんで、予定はかなり狂ってるんだけどな。
「よし。全員到着したな。
それではこれより、ダンジョン攻略を始めるぞ」
俺の掛け声にみんなが、おーーー、と言って答えてくれる中、ノアが声をかけてきた。
「あのー、兄様。ちょっといい?」
「ん? どうした?」
「なんでわざわざ洞窟に移動したの?
魔力を流した中部屋だったら、コアの部屋から歩いていっても良くなかった?」
「無論、様式美だ。
ダンジョンへの突入といえば、1階の階段からに決まっているだろ!?」
「……あ、そうですか。わかりました。ありがとうございます」
あれ? 予想外に呆れられた気がするんだが、俺、何か間違ったこといったか?
……まぁいいか、とりあえず、俺達のダンジョンの実力を確認するとしますかね。
「……お兄ちゃん。なんか、嫌な気配がする」
階段をくだり、中部屋の入口へと差し掛かった所で、急にクロエがそんなことを言い出した。
そしてその感覚は彼女だけでなく、他のみんなも感じたようで、各々が得意な武器を構え、周囲の警戒を行う。
そんな空気の中、サラだけが特に緊張した様子も無く、いつも通りの雰囲気で周囲を眺めていた。
「そんなに身構えなくても大丈夫だとボクは思うよ。
この感覚は、全身を魔力に覆われた時のものだね。それも比較的薄いものだよ。
昔、研究のために同行したダンジョン討伐に参加したことがあるんだが、その際に、ダンジョンの入口付近でこれと同じ感覚に襲われたからね。
強い魔物がいきなり襲ってくるなんてことは無いと考えるよ」
俺の感覚としては、殺意の篭った視線を向けられているような感じだったのだが、どうやらダンジョンとはそんな場所らしい。
ってか、研究のためにダンジョンに同行って、王女様が何やってんだよ。良く許可が出たな。
とりあえず、その場に居てもどうしようもないってことで、カラスを先行させ中部屋に入ったが、サラの言葉通り、いきなり強力な敵が出てくるなんて事は無かった。
体育館ほどの大きさの部屋は、中に入ってしまえば視界を遮る物など無く、天井から降り注ぐ光りによって、部屋全体を見渡すことが出来た。
そこにあったのは、見慣れたいつもの部屋。
天井や壁、床などは、魔力を流出させる前と、何も変わってなかった。
だた、そんな部屋にあって、4つだけ、変わったことがあった。……いや、4匹だけ増えていたというべきか。
そいつらは、俺の腹ぐらいの高さで部屋の中を漂っていた。
大きさはクロエの顔と同じくらい。藻のような物が丸く一塊になったよな見た目で、一言で言うならば、空飛ぶマリモだった。
魔力を流したことによって発生した魔物だとは思うのだが、ただ空中を漂っているだけで、意思らしき物は感じない。
試しに近づいてナイフで突っついてみると、ポテンと地面に落ち、程なくして表面を覆っていた藻のような物だけがその場に残った。
恐らく、突っついたことで魔物の討伐に成功し、獲物を確保したと判断されて、ポイントと獲得物になったのだろう。
結局、その日生み出された魔物は、大きなまりもが4匹だけで、その戦闘力は皆無だった。
守りとしては心もとないどころか皆無にも等しいのだが、まぁ、初日だし、こんなもんだろ。
そういうことにしておこう。
……ってか、クロエが目をランランとさせているんだが、この藻みたいなの、食えんのか?




