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<2-5>新人指導

 敵の兵士だった人達と、仲良く食事してから一晩が過ぎた。

 

 徴兵されてからずっと酷い扱いを受けてきた彼等にとって、暖かいスープが飲めて、雨風の当たらない場所で寝れることが、すごく幸せだったようで、カラスを使って盗聴を行っていた俺のもとには、勇者すげー、勇者やべー、といった声が多く聞かれた。

 

 昨日のイチャイチャも含めて、勇者(おれ)の評価はうなぎのぼりなようだ。


 ……ん? 盗聴は犯罪?


 あぁ、それって日本の話でしょ? ここは、勇者国。そんでもって俺が王様!! だから大丈夫!!


 ってか、盗聴相手おっさんだし。俺にそんな趣味無いし。見つかっても、ゴメンね、テヘ、って言っとけば大丈夫だろ。


 そんな兵士達の中には、クロエやノアなどに、勇者国の国民になるにはどうしたら良いですか? なんて聞いてくれる人も居たくらいで、勇者国の出だしとしては、まずまずと言った感じになった。

 

「お兄ちゃん。階段ってこの辺でいい?」


「うーん、まぁ、大丈夫だろ。

 どうせ、みんなに帰ってもらったら消去するんだしな」


「あーい。コアちゃん、お願いねー」


 ただ、ここに住みたい、国民になりたい、と言われても、ダンジョンを造り始めたばかりの俺達には、大人数を養えるだけの場所と能力が無かった。


 畑は襲ってくる物が1部屋あるだけで、肉は狩りだしな。


 今回の戦いが長期戦になることを見越して、食料庫を購入して肉を詰め込んでおいたけど、今回の配給で使い切っちゃったし。


 そして何よりも、多くの兵を抱えてしまうと、放置の方針で決まりそうな兄達に余計な感情を抱かせてしまう可能性があったというのが1番大きな理由だ。


 そのため、奴隷として買われて兵士になった者の中で、身寄りが無く、大きな犯罪歴の無い者だけ残って貰うことにして、その他の人達には、それぞれの村に帰ってもらうことにした。


 勿論、普通の村人の中にも、ここに残りたいと言う者も大勢居たが、だめよー、貴方達の成長をずっと側で見守ってくれた人達がみんなの帰りを待ってるでしょ? 帰ってあげなきゃねー、とミリアに説得されてダンジョンを去って行った。


「それじゃぁ、こいつらのことよろしくな。

 首輪組みは自分達が受けた扱いと同じ位でいいけど、犯罪奴隷達は最低限、人間らしい生活をさせてくれよ」


「「「イエッサー」」」

 

 そして、兄の部下だった者達と罪を犯して奴隷になった者は、村共有の奴隷として、村ごとの参加人数で頭割りし、それぞれに配分した。

 

 ぶっちゃけた話、准男爵やその側近なんかは、その辺に転がしておいても邪魔なだけだし、処刑するにしたって無駄なだけだし、それなら彼等にあげて周囲の村で畑仕事に汗を流して貰おう、ってことになった。


 自分達が徴兵した人達にどのような扱いをしていたか、その身でわかって頂こうって言う名目も存在する。


「うっし、とりあえずは、落ち着いたか。

 それじゃぁ、残った人は、ひとりひとり、名前と得意な武器、それから得意な事を発表してくれるか?」


「「「イエッサー」」」


「左から順番な。それじゃ、よろしく」


「イエッサー。

 自分は、リアムといいます。土木工兵を担当していたため、得意武器はありません。得意なことは土を掘ることです」


「なるほどな。

 よし、次」


「イエッサー」


 最終的にダンジョンに残ったのが、いつものメンバーと奴隷兵士の男が5人。

 

 5人とも僅かばかりの食料を盗んだことで捕まった者達だ。


 年齢は15歳前後、クロエやアリスなんかと同じくらいで、全員が栄養の行き渡ってない細い体をしている。


 サラ特製の嘘発見機でも確かめたし、本当に、食べる物に困る生活を強いられていたのだろう。


「よし、お互いの得意な事はわかったな?

 それじゃぁ、このメンバーを使った戦闘方法を考えてくれ。

 10ぷ、じゃなかった。俺が終了の合図をするまでの間に、考えて欲しい。それでは初め!!」


「「「イエッサー」」」


 とりあえず5人程度なら大丈夫だろう。ってことで、彼等だけは俺達がダンジョンで受け入れることにした。


 身よりも無ければ帰る場所も無い彼等を追い出しても、同じような罪で捕まるだけだろうし。

 なにより、今回のサラ、アリス討伐のために長男が食料を買い集めたことがキッカケで、彼等が罪を犯した可能性が高いため、俺達にも責任の一端があった。


 どの世界でも戦争のシワ寄せが行くのは、弱者である子供達なのは変わらないらしい。


「報告します。

 前衛に盾と剣を持つ者を3人、後衛に弓を2人が良いと考えます」


「よし、ならば、その隊形で演習を行う。

 クロエ、悪いんだが、演習を見てやってくれるか?」


「はーい。この人達を倒せばいいんだね?」


「……は?

 ……えーっと、いや、あれです。演習なんで、倒さず寸止めでお願いします」


「うん、わかったー」


 ただ、そうは言っても、仕事を与えずに養うことが出来るほど、俺達に余裕が在るはずが無い。そのため、自分で食べる分は自分で確保してもらうために、戦闘訓練を行うことにした。


 幸いと言うべきか、1週間程度ではあるが、兵として訓練を受けた彼等は、即興で隊を組んだとはいえ、それなりの動きが出来ていた。

 近づいてくる敵に対し、盾と剣を持った者が体を張って動きを止め、その間を縫うように後衛の弓が飛んだ。


 お手本に忠実のしっかりした動きだ。

  

 しかし、今回の演習に関しては、相手が悪かった。


 (クロエ)は、スライム剣を片手に構えたかと思うと、すごいスピードで彼等に近づいた。

 慌てて前衛が対処しようとするが、その合間を踊りでもしているかのように、軽やかなステップでクロエがすり抜ける。

 そして、1人、また1人と、首元にスライムナイフを当てられた後衛の者が降伏していく。


 いや、あれですよ。俺としては、隊形の指導とか、構えの指導とか、そんなことをクロエに頼んだ予定だったんだけど、まさか、1人で5人を相手に戦うって、さらには勝つとか……。


 クロエさんって、ちょっと、チートすぎませんか? あー、うん、そうだな。さすが勇者ってことか。そうだよな。俺が勇者な訳無いもんな。うん。


 そういうわけだから、負けた男達よ。勇者様の妹様すげー、勇者様は彼女より強いんだろ? すげーよなー、とか言うのやめて貰っていいですか? 彼女が勇者で、俺ってば、一般人なんですよー、はははー。


 ……最終的に、前衛2人、斥候兼短剣(シーフ)1人、弓1人、指揮官1人の隊列で落ち着きました。

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