<2-3>手探りで進行中
「お兄ちゃん。油の回収始めるね」
「あぁ、了解。よろしくな」
俺が、かっこよく、勇者っぽく、リーダーっぽく、ビシっと建国の誓いを述べてから10分ほど。
仲間達から、かっこよかったよお兄ちゃん、言いたい事は悪くないんだけど、もうちょっと堂々としなさいよね、などの評価を貰った後、俺達は逃げ出した事実など無かったかのように、整然と並んだ兵達の前へと戻った。
え? あれ? 戻って来られたぞ? 今の時間は何だったんだ? などと言う声がいろんな場所から聞こえるが、勇者らしく、え? なんだって? の精神でスルーする。
そして、クロエが油スライムを使って地面に広がる油を回収し始めたのを確認し、俺は再び壇上へと登った。
ちなみに、クロエの手を離れた油スライムは、その小さな体よりも多くの油をドンドンと吸い込んでいる。
吐き出した時も不思議に思ったが、質量保存の法則など完全に無視している。さすがは魔法の世界、ほんと、なんでもありな感じだ。
まぁ別に、この世界の法則がどうなっていようと良いのだが、それよりも今は話す内容だな。
仲間達の意見をまとめると、どうやらさっきの宣言は威厳が弱かったらしいし、今回は強気に喋ろうと思う。
……強気ってどんな感じだ?
お、そうだ。あの感じなら、威厳たっぷりじゃないか? よし、それでいこう。
「お前等ー、暖かい食事が食いたいかーーー!!」
「「「…………」」」
イメージはテレビで見たベテラン司会者の感じ。
ただ、言葉だけだと盛り上がらないと思い、ビシっと右腕を高々と振り上げ叫んでみたのだが、目の前に居る兵士達は、全員、ぽかーん、としている。
「……あー、ごめんなさい。出来ればで良いんですけど、俺が問いかけたら、みんなで、おーー!!、って言って貰っても良いですか?」
「え? あ、はい。勿論です。申し訳ありませんでした。もう一度、お願い出来ますか?」
「わかりました。それではいきますよ。
お前等ー!! 暖かい食事は食いたいかーーーーー!!」
「ぉ、おーーー」
「声が小さいぞ。美味しい物が食いたいかーーー?」
「「「おーーーーー!!」」」
おぉー、意外に楽しいなこれ。会場も盛り上がってるし、今回はバッチリだな。
……あれ? アリスが、なにやってんのよ、まったくー、って雰囲気を出してるし、ミリアが、あらーハルくんたら、やんちゃねー、って雰囲気を醸し出しているんだが、もしかしてこの方向性も違うのか?
…………いや、違うな。俺が間違ってるんじゃない、周囲の勇者像が間違ってるんだ。そう、そういうことだな。これが俺の勇者だ!!
……いや、やっぱ、反省会が怖いから、イメージを変更しよう。
…………威圧、威圧、威圧。
「よし、お前等。ここでの返事はイエッサーだ。わかったな?」
「「「…………」」」
「もう一度だけ聞く。わかったな?」
「「「イエッサー」」」
……レンジャー、って言わせた方が良かったか? ……まぁ、どっちだっていいか。どう違うのかわかんないし。……あれって特殊な隊だけか?
「うむ。では、お前等に命令を与える。
1番左の列は、サラの指示で食料庫より肉を持ってこい」
「「「イエッサー」」」
「2列目と3列目はアリスの指示で、調理場を整えろ。
調理器具なんかは自前のやつを使え」
「「「イエッサー」」」
「残りの連中で戦闘が出来るやつは、油の回収が終わり次第、クロエの指示で食料の確保。
戦闘が出来ないやつは、半分がノアの指示で調理、残りの半分がミリアの指示で寝床の作成だ。
これから作る寝床を使うのは本日限りだ。そのつもりで整備しろ。
全員、自分の担当はわかったな?」
「「「イエッサー」」」
「上官である彼女達の返事にはイエスマムだから間違えるなよ。
本作戦の作業終了予定はひとはちまるまるとする。行動開始!!」
「「「イエッサー」」」
俺の言葉に従い、軍隊の様にキビキビとは言わないまでも、それぞれの担当者の後に続いて兵士達が動き始めた。
ただその際に、ひとはちまるまるってなんだ? しらね、出来るだけ早くって感じじゃね? なるほど、お前頭いいな、 と言った感じの会話が多くの場所で行われた。
そういえば、この国で時計って見たこと無かったな。……ちょっと悪乗りが過ぎたか? けど、みんな俺の指示にしたがってくれるし、間違えてないよな?
うーん、いまのやり取りでちょっと思ったんだけど、そのうち時計くらい作った方が良いのか?
人が増えれば増えるほど、集合時間とかキッチリした方が良いだろうしな。
とりあえず日時計作って、それを元に砂時計でも作れば良いかな? ゆくゆくは、1時間ごとに鐘を鳴らす感じで。
けど、出来るなら腕時計なんかも造りたよな。詳しい構造はわかんねぇけど、魔法使えば何とかならないかねぇ?
スマホを時計代わりってのが最高なんだけど、それはさすがに無理かー。
…………ってか、今思ったんだが、この準備の時間中って、俺って何すればいいんだ?
みんなそれぞれの仕事の準備を始めちゃったけど、俺ってば、自分に仕事割り振ってなくねぇ?
……やべぇ、やっちゃった。
これ、完全に要らない子になっちゃってんじゃん。
やばい、これ、俺、完全に空気だよ。
……よし、全員の所に顔を出してみて、俺頑張ってますよ感を演出することにしよう。うん、そうしよう。
どなたか、勇者の手伝い要りませんかー?




