<49>ん? なんだって?
ダンジョンを造り始めてから2週間が経過した。
この2週間、クロエが商人の確保、アリスが洞窟内の魔物を魔法で倒しポイントと食料を稼ぎ、サラが付与魔法で兄達に対抗するための準備を行っていた。
それぞれ個別での活動を行っているものの、みんな頑張っている。
…………ん? 俺? ずっと専業主夫をがんばってるよ?
え? 勇者(仮)のくせになにやってるんだって?
いや、だって、適材適所で仕事割り振ったらこうなったんだもの、仕方ないよね。うん。
けどまぁ、そうは言っても、俺だって成長してるんだよ? 聞いて驚け?
この度、俺の召喚獣は40体を超えましたー。すごくね?
…………全部カラスですけど、なにか問題でも?
……そうそう、成長したと言えば、この1週間でダンジョンも、それなりに成長した。
主戦力であったクロエが抜け、サラのサポートが無くなったことにより、効率はかなり落ちたものの、毎日、それなりのポイントをアリスが稼いでくれていたので、当然といえば、当然だ。
それに、ダンジョンレベルも3にあがったしな。
とりあえず、新しく増えた項目だけ、お伝えしよう。
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ダンジョンレベル 3
設置可能施設:中部屋2000P、個室・中1000P、食料庫1000P 分かれ道300P、果樹園1800P、魔力堰300P
実行可能機能:自動修復2000P
召喚可能従者: 水スライム 500P/匹 土スライム 500P/匹 木スライム 500P/匹 油スライム 1000P/匹 電気スライム 1000P/匹
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っと、まぁ、色々と増えました。
えっと、まず増築したのは、果樹園。
これはクロエが、お兄ちゃん達と一緒にりんごが食べたいな。幸せな気持ちはみんなで共有するべきだよね。と言ったのをキッカケに導入が決まった。
ちなみにだが、果樹園部屋に入ると、当然のように果実達が攻撃を仕掛けてきたので、採取はクロエかアリスの担当になった。
次に、個室・中を改造して、応接室と控え室も作った。
こっちは、商人と面会するにあたって、勇者や姫としての面子を保ち、交渉を有利に進めるために絶対必要だと、俺以外の意見が一致したので、それなりのポイントを使って作った。
一致団結した女性陣に勝てるわけないしね。
控え室には机と椅子があり、日本人の感覚では、会社の会議室といった感じの部屋だ。
応接室は、すこし高い位置に作られたステージのような場所に豪華な椅子があり、部屋の中央には赤いカーペットが敷かれている。
こちらは、漫画や小説に出てきそうなお城の謁見の間と言った感じだ。
サラ曰く、王都の謁見の間に似せたとのことで、前国王が座っていても違和が無いくらいの仕上がりになったらしい。
「それじゃぁ、商人さんを連れてくるね?」
「……あぁ、よろしくな」
そんな威圧感たっぷりの部屋に入った俺は、クロエに同意し、中央の立派な椅子に腰掛けた。
そして、俺の左後ろにアリス、逆側にサラが座る。
ちなみに、このポジションは、サラ、アリス、クロエの3人で順番に回すそうで、今回はクロエが案内役だったために、こうなったらしい。
「お兄ちゃん、お待たせー」
ほどなくしてクロエと共に、2人の女性が部屋に入ってきた。
年上の方は、真っ直ぐ腰まで伸びた藍色の髪の毛や大人しそうな雰囲気から、大人の女性特有の色気を感じる。
年下の方は、年上と同じ藍色の髪をふんわりとしたショートカットで、年上の方とは対照的に活発そうな雰囲気だった。
なんだろう、近所の面倒見が良くて優しいお姉さんと、陸上部で頑張る活発な中学生って感じかな。
「えっとね、まず、中央に居るのがお兄ちゃん。職業は勇者様だよ。
それから、左がサラお姉ちゃんで右がアリスお姉ちゃん。第4王女様と第5王女様ね」
クロエが先導して俺の前方に2人の商人を跪かせた後、本当に簡単な紹介を行った。
その紹介を聞いて商人2人が揃って表情を強張らせる。
(……勇者様ー? んー、たしかに黒い髪をされているわねー。
それにしても、サラ様って本当におっぱい大きいのねー。…………わたしが、勇者様の側室?)
まぁ、いきなり勇者だ、姫だ、って言われても驚くしか出来ないよな。とりあえず、俺が呼びつけた形になってるわけだし、ここは誠意を見せとくか。
「遠いところをよく来てくれた。さっそくなのだが――」
「はいー。不束者ではございますが、幸せにしてください」
「…………は?」
なぜか、いきなり婚約者に対して言うセリフを言われてしまった。
相手の意図がわからずサラやアリス、クロエに視線を送るが、3人とも、意味がわからないと首を横にふった。
「……えぇーっと、やっぱり、側室はダメですか?
けど、大丈夫ですよ。愛人の覚悟も決めてきました」
沈黙を否定ととったのか、相変わらず意味のわからない言葉を続けた。そして、一旦言葉を区切りったかと思うと、大きく息を吸い込んで、さらに巨大な爆弾を投下した。
「わ、わたひの体を勇者様のお好きにおつ、お使い、ください。
…………だだ、我侭を聞いて貰えるなら、2人っきりがいいです」
「…………何を言っている?」
とりあえず、女性がパニック状態になっていることはわかるのだが、方向性が見えないので、とりあえず聞いてみた。
しかし、俺の質問を更なる否定と捉えたのか、女性はさらに焦りだした。どうやら、火に油を注いだだけのようだ。
「ごめんなさい、すいません、申し訳ありません。今すぐ、ここで出来ます、すぐ脱ぎます、大丈夫です。
…………けど、妹の前だけはどうかご勘弁を……、ぅぐー」
なんだか、最初見たときのふんわりした雰囲気と大分違うなー、なんて、現実逃避気味に考えていると、突然、爆弾発言娘の口が手で覆われた。
どうやら、もう1人の商人が、これ以上の爆弾投下を防いだらしい。
「すいません勇者様。バカな姉を落ち着かせますので、5分だけください」
「……あぁ、構わない。
こちらとしても、勇者だ、姫だなどと言って、すぐに受け入れられるとは思っていないからな。
先ほどの休憩室であれば、好きに使って構わないから、5分と言わず1時間でも、落ち着くまでゆっくりしてくるといい」
「ありがとうございます」
そうして、商人との会談は、始まってすぐに中断となった。
とりあえず、爆弾発言娘が姉、2人が姉妹と言うことだけはわかった。
意味のわからない発言は聞こえなかったことにしよう。




