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<48>乙女の感情

 クロエに了承の意を伝えた姉妹は、馬車を森の中に隠し、馬用の水を魔法で出してから、クロエの後に続いた。

 そして案内された先は、大きな洞窟。


 なぜ王族が洞窟の中に? と思ったものの、女は度胸、ここまで来たら行くしかない、と自分に言い聞かせ、姉妹が洞窟に入る。


 すると、クロエから、新たな指示が飛んだ


「移動するから、目を閉じてね」


「え? それってどう――」


「ノアちゃん」


「……うん」


 クロエの発言の意図を聞こうと思った妹だったが、姉に窘められて口と目を閉じた。


 この国では、王族に仕える者の命令を疑問に思ってはいけない。

 最悪の場合、問答無用で殺される可能性があるからだ。


「んー? いいの?

 ありがと。それじゃぁ、始めるね。

 魔力さん、距離を縮めて欲しいな。お願いね」


 目を閉じた2人にクロエの詠唱の声が届いたかと思うと、体全体に浮遊感を覚えた。

 ただ、その浮遊感も一瞬のことであり、その間隔を疑問に思う暇も無く、すぐにクロエから次の指示が飛ぶ。


「うん、もう目を開けていいよ」


 指示に従い、姉妹が恐る恐る目を開くと、周囲は土の洞窟ではなく、灰色の石に囲まれた部屋だった。


 部屋の中央には大きな石のテーブルが鎮座し、その周りを20脚の椅子が並んでいる。


「それじゃ、私はお兄ちゃん達に報告と出迎えの準備してくるから、ちょっとだけ待っててね。

 好きなところに座ってていいよ」


 そういい残して、クロエが去っていった。


 そして残された姉妹達は、商人の本能に従い、部屋や交渉相手の鑑定を始める。


「……お姉ちゃん、この机と椅子、石につなぎ目ないよ。

 それに、この灰色の壁もつなぎ目がないから、石を削ってこの空間を作り出したってことかな?」


「うーん、そうみたいねー。それに、ここに移動したのも魔法だと思うわー。

 さすがは王家ってことねー」


 そう、相手は王家であり、雲の上の存在。

 自分たちの知識では、ここにある物の価値などわからないと言う事だけわかった。


 そして、交渉相手が王家であることを思い知った姉妹は、何故自分達がお目通りすることになったのか、その理由をあーでもない、こーでもないと、話し始めた。

 すると、妹の方が、ここまでで得た情報からあたしなりに推理すると、と前不利してから、言葉を紡ぎだす。


「今回の交渉の目的はずばり、お姉ちゃんのおっぱいね!!」


 そんなことを言い出した。

 当然、姉の反応は、ぽかーん、である。


「……えーっと、どうして、目的が私のおっぱいってことになるのー?」


「えっと、まず、さっきの子が、ハンカチはサラお姉ちゃんに見せろって言われたって言ってたでしょ?

 王家のサラ様って、第4王女、付与のサラ様で間違いないじゃない。

 なのに、あの子はサラ様じゃなくて、自分のお兄ちゃんと交渉して欲しいって言ってた。


 最近村で、サラ様が若い男にたぶらかされて国外逃亡の恐れがあるから、捕らえるための兵を募集するって掲示があったでしょ。

 つまり、今回の交渉相手は、サラ様と愛の逃避行中であるその男性の可能性が高くなるじゃない。

 ここまではわかる?」


「うーん? まぁ、頭の良いノアちゃんが言うならそうなんでしょ。

 それでそれでー?」


「えーっと、それでね。さっきの子って、サラ様をお姉ちゃんって呼ぶわりには、道で待つっていう仕事をしてたじゃない? つまりは、あんまり身分が高くないんだよね。

 で、あの子の考えられる立場は、逃避行男性の側室か愛人。

 それなら、正室のサラ様をお姉ちゃんって呼んでもおかしくないし、あのような仕事を与えられていてもおかしくはないの。


 そこに、私達が気に入られて、交渉に来たことを踏まえて考えてみて?

 特に注目すべきは、サラ様のお胸の大きさと、クロエさんのお胸の大きさ、お姉ちゃんのおっぱいの大きさ」


 王家の女性人は比較的胸の慎ましやかな者が多く、その中で唯一、サラだけが立派に育っていた。

 そのため、口の悪い一般人の間では、隠し子説や拾い子説、果てまでは付与魔法で大きくした説までもが飛び出し、話題となっていたため、情報が行きかう商人の娘である2人は当然のように知っていた。


「……それって、クロエちゃんが、魔玉を餌に、おっぱいの大きい人を探してたってことー?」


「うん、まぁ、より正しく言うなら、相手が子供でも適正価格で魔玉を買い取れる心の綺麗なおっぱいさんを探してたってことね」


 そう自身満々に言い切った妹は、再度自分の胸と姉の胸を比較する。


「…………おっぱいなんて滅びればいいんだわ。いっそのこと、あたしの手でおっぱいを滅ぼしてやろうかしら」


 そう静かにふつふつと呟いた妹だったが、その声は、なにやら考えごとを始めた姉には届かなかった。


(サラ様が王女の立場を捨て恋に走るってことは、それだけ良い人ってことよねー。絶対に、すっごいイケメンなんだわー。

 生まれてから20年、わたしにも遅い春が訪れたのね。

 それに王女様と知り合いになれれば、お父さんのお店を復興させるなんてすぐ。ノアちゃんにも、良い暮らしをさせてあげられるわねー)


「お姉ちゃん? そんな思いつめた顔してどうしたの?

 ……まさか、さっきの話、本気にしてる? 最後のおっぱいのくだりは冗談だよ? ……たぶん」

 

(うーん、平民の立場からすると、側室どころか愛人だろうけど、それでもいいわねー。

 ……経験はないけど、仕入れ業者のお姉さま方から、そういう知識はいっぱい聞いたし、大丈夫よー。

 お父さん、遅くなりましたが、わたしお嫁に行きます。そして、幸せになります)


「ねぇ? ……おーい、お姉ちゃん」


 妹が必死に呼びかけるものの、恋する乙女となった姉は、こちらの世界に帰ってこない。

 そうしているうちに、入口の扉が開かれ、クロエが姿を見せた。


「準備が整ったから付いてきてー」


「ひ、ひやいー」


「ちょ、お姉ちゃん、緊張しすぎだから。

 リラックスしよ、リラックス」


 そして、姉の行き遅れ返上をかけた交渉が始まる。

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