<41>あいつ、マジ空気
「ストップだ。
この先に敵がいる」
狩りを行うために洞窟を奥に進むにあたって、隊列を組もうとしていると、それまで辺りをうろうろしていたカラスが、突然飛び立ち、俺達の前方へと降り立った。
そしてその瞬間、俺の視界の端に、小さな画面のようなものが映りこんだ。
パソコンのタスクバーに画像が収納されたような感じで、不思議なその画面に意識を向けると、徐々にそのサイズが大きくなった。
注意深く観察した結果、どうやら、カラスの視界が写りこんでいるようで、その大きさも、自分の視界を100%覆えるくらいの大きさにまで拡大できることもわかった。
サラが言っていた、召喚獣は主人と感覚を共有できるらしい、というのは、おそらくこのことなのだと思う。
それならば、ということで、カラスを先頭に、そこからすこし距離を開けてクロエ、アリス、サラ、俺の順番で奥へと進む。
途中、視界を遮る大きな岩や分かれ道などあったが、カラスは俺の指示通りに動いてくれた。
昨日、逃げろと命令した際の行動が嘘の様な動きだった。
寝て頭がすっきりしたからなのか、召還してから一定以上の時間が経過したからなのかはわからないが、とりあえず使えるので良しにしとこう。
俺達の周囲にはサラの魔法のちいさな火が飛んでいるものの、カラスが居る位置では真っ暗に近い。しかし、共有していると思われるカラスの視界は、とても良好だった。
生憎と俺は、カラスについて詳しくないため、それがカラスの持つ能力なのか、召喚獣だからなのかはわからないが、暗闇でも状況をリアルタイムで把握できるのは、強いアドバンテージになると思う。
そんな予想以上に優秀なカラスの視界に、白い狼の姿を捉えた。初日の夜に見た個体よりも、やや大きいようだ。
大きな岩の陰に身を潜め、近くを飛ぶカラスには目もくれず、俺達に視線を向けて警戒を強めているように見える。
「その先の岩に狼が隠れている。その様子を見るに、俺達が近くを通りすぎたら、飛び掛ってくるつもりだろう。
ただ、幸いなことに、その意識は俺達に向けられていて、カラスには行ってない。ゆえに、カラスに背後から威嚇してもらおうと思う。
威嚇に驚いて岩陰から出てくるようなら、アリスの魔法とクロエの投げナイフで遠距離から倒す。逆にカラスに襲い掛かってきても、こちらに誘導するつもりだから、その場合もカラスに当てないように注意しつつ、遠距離攻撃で仕留めてくれ。いいな?」
「はーい」
「任せときなさい」
そういうことになった。
カラスと出来る限り感覚を共有し、狼の背後へと回り込む。そして、真っ黒な翼を出来るだけ大きく広げ、甲高い鳴き声を発した。
ちなみに感覚共有だが、カラスを先行させているうちにいつの間にか出来るようになっていた。
意識を集中する必要はあるが、カラスの手足が自分の手足と同じように動かすことが出来る。
「カーーーー!!」
渾身の力を振り絞って、バサバサと、音が出るように大きく羽ばたく。
しかし、そんな俺の努力もむなしく、狼は一向にその場を動こうとはしなかった。
それどころか、カラスを見ることさえなかった。
……あれ? ちょっと、遠かったか?
そう思い、先ほどよりも狼に近づく。
「カーーーーー!!」
バサバサ。
…………。もうちょっと、近づくか。
「カーーーーー!!」
バサバサ。
……………。こいつ死んでるじゃね? ……けど、カラスは見ないけど、明らかに動いてるしな。
しょうがない、もう少し近づくか……。
「カーーー!!」
…………。
そんなことを続けること、10回以上。
半ば、意地になっていたカラスは、とうとう耳元と言って過言ではないところまで近づいた。
それでも狼は、こちらを見ようもしない。
「カーーーーーーーー!! カーーー!! カー!!」
「無視するんじゃねぇよ、このやろ!!」
思わず、本体の方で声を荒げてしまった。そして、そんな気持ちがこもった必殺の嘴を狼の横腹に向けて振り下ろす。
鋭い嘴が柔らかそうなお腹に直撃した。
「わぉん?」
そのおかげで、狼を振り向かせることに成功した。……のだが、狼は辺りを見渡したかと思うと、不思議そうな顔をした後に、何事も無かったかのように人間達の警戒へと戻った。
俺の相棒は、敵に見つかり難い能力かスキル的な物を持っているのかもしれない。そして、どうやら、攻撃力は皆無のようだ。
その硬そうな嘴の攻撃も、狼の反応を見るに、ん? いま、何か当たった? 程度の物らしい。
…………まぁ、あれやな。諜報能力に特化してるって事だよな? そうだよな? 無能じゃないよな?
ちなみに、狼は、普通に近づいて、襲い掛かってきたところをアリスが土の壁で動きを抑え、その瞬間にクロエがナイフを突き刺して倒しました。




