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<36>ダンジョンを作ろう 3

「それじゃぁ、ここに置くぞ?」


「はいっす。置いちゃってくださいっす」


 ダンジョンコアに声をかけるふりをして、後方で待つ仲間にタイミングを伝える。

 そして、ダンジョンコアを石の台座に載せると同時に、バックステップで台座から距離をとった。


 すると、ダンジョンコアを載せた台座を中心に、魔方陣と思われる光りが地面に描き出される。さらには、台座やダンジョンコアが淡い光りを放ちはじめた。

 ダンジョンコアが初めて喋るときや、入口の階段を作るときでさえも、魔方陣らしきものは確認出来無かった。

 つまりは、階段を作よりも大きな規模のことを起そうとしているってことなのだろう。


 やっぱり、台座に乗せろってのは、罠か。このまま、全体魔法とか、洞窟を崩すとか、そんなのはやめてくれよ。


 とりあえず、何が起こるかはわからないが、この魔方陣に触れるのは得策じゃないな。


 そう思い、後方に飛ぶようにして、さらに距離をかせぐ。


 そんな俺の行動に対し、予期せぬ言葉が飛んできた。

 

「お仲間様はさすが勇者っす。今後の予測を行い、指示の前に動くなんてすばらしいっす。

 その調子でもう少しだけ、距離をとってほしいっす」


「…………あぁ、了解した」

 

 台座に置くことで、ダンジョンコアが豹変し、俺達を襲ってくるかも、なんて思っての行動だったのだが、疑った相手に褒められてしまった。

 それどころか、俺の身を案じてるかのような声までかけられた。


 なんとも釈然としない思いを抱えながらも、ダンジョンコアの指示通りに、その場からさらに離れる。


「その辺で大丈夫っす。

 自分は今からここの地形にアクセスして、管理コアになるっす。その際にこの台座周辺の環境が変化するっすから、絶対に近づかないで欲しいっす。それと、出来る限りでいいんすが、その場を動かないでもらえるとありがたいっす。

 危険はないんすが、強い光りが出るっすから、目を閉じておいて欲しいっす。いいっすね?」


 俺達と敵対するつもりなら、距離を稼ぐ時間を与えずに魔法を発動しているはずだな。

 それに、喋り口調も雰囲気も変わってないところを考えると、ダンジョンコアの指示にしたがっても大丈夫そうか?


「あぁ、そっちも了解したよ。

 ……アリス、わかったか?」


「はぁ? 何でアリスにだけ声をかけるのよ。

 動かなければいいのと、光るから気を付ければんでしょ?

 わかってるわよ、失礼ね!!」


 今回はアリスでもわかったらしい。

 

「それじゃぁ、やるっすね。

 それと、今後、自分の声はオーナー様以外に聞こえなくなるっすから、そのつもりでお願いするっす。

 自分は、皆さんと話せて楽しかったっすよ」


「は? いや、ちょっとま――クッ」


 思わず目を見開いてダンジョンコアの方を見たが、視界は強い光りでかき消された。


 それから少しばかりの時間が経過し、次第に瞼の裏に感じる光りが収まっていった。

 そして、ゆっくりと時間をかけて目を開いていくと、目の前には、アクリルケースで覆われた石の台座と、その中に鎮座するダンジョンコアの姿が見て取れた。


 ダンジョンコアが置かれた台座の足元からは、数百本もの電気の線らしき物が生え、その行く先は、地面の中や壁、天井と、階段から台座までの道らしき部分以外を所狭しと走っている。

 そして、天井や壁の上部が蛍光灯の様に光りを放ち、部屋全体を明るく照らし出していた。


 異世界で長年魔法を見続けてきたサラやアリス、クロエも、この部屋の大きな変化には驚いているようで、恐る恐ると言った感じで、光る壁に近づいて見たり、部屋に這う線を触ったりしている。


「階段の方も、この部屋と同じように光っているようだから、明かりにしていた炎を消すけど、構わないかい?」


「あぁ、そうだな。もう、明かりは必要ないみたいだな」


 そんな彼女達の側で、俺は、何か特殊なことが起きないか、周囲の警戒を行っていた。しかし、いくら時間が経過しようとも、それ以上の変化は一切起こりそうにない。


「……アクセスとやらは終わったのか?」


 そう小さく呟くと、終わったって言ってるよ、とクロエから返事が来た。


 洞窟からこの部屋に来るまでの間だけだったが、ずっと、っす、っす、と話していた声は聞こえてこない。

 最後に聞いた言葉通りなら、俺がその声を聞くことはもう無いのだろう。

 

 結局ダンジョンコアの指示は、ダンジョン作成に必要不可欠なことのみだったようで、今後、何か不具合が起きることもなさそうだ。

 

 渡る世間に鬼はなし、か。俺は少し、周りを疑いすぎなのかもしれないな。


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