<28>ぼっちの危機 2
「戦闘能力が皆無の勇者ってありえないでしょ。どうやって魔王を倒すつもりなのよ?」
口調こそいつも通りだが、明らかに怒っているアリスの質問には、先の戦闘以上にアタフタするしかない。だって、俺、勇者じゃないんだもの。……たぶん。
それと同時に1つだけわかったことがある。やっぱ、魔王は居るんだな。
「……アリスは俺が勇者だって納得してくれたんじゃないのか?」
「はぁ? 納得?
なに勝手にアリスの気持ちを決め付けちゃってんの? 納得なんてしてないわよ。
城のときは、と・り・あ・え・ず、信じてあげただけじゃない。とりあえずよ、とりあえず!!
いまは、その信用が出来なくなったってだけじゃない」
まぁ、たしかに、アリスの言うことも十二分にわかる。あの立ち向かうことも逃げることも出来ない戦闘を見たら、誰も俺のことを勇者だなんて思わないよな。
「……けど、ほら。髪の毛、黒いぞ。確かめるために、撫でても良いぞ」
「なによ、なんで撫で……、いいの?
……じゃなくて、撫でないわよ!! ……今は。
あ、後で撫でるんだから、覚えときなさい。今は、髪の毛じゃなくて、戦闘の話よ」
その場で思いついた話しすり替え作戦は、残念ながら失敗したようだ。ってか、予想以上にうまくいきそうで逆にびっくりした。
けどもうダメだな、良い作戦が思い浮かばない。
「……戦闘がどうかしたのか?」
「どうもこうもないわよ。あんたが、勇者だって証明できるだけの武力を示しなさい。
なんか、勇者らしい特殊能力とかあるんでしょ?」
……勇者らしいものってどんなだ?
勇者の剣とか? 破邪の剣? 魔法なら、雷系って勇者っぽいよな? とりあえず、トラブルの匂いを感じたら、行ってみたくなる性格が一番勇者っぽいかなー?
ってか、ちょっと待て、そういえば、サラに召喚されたときに、異世界召喚系ライトノベルのテンプレ的な話をしたな。
「あー、なんだ。俺は、勇者らしく、特殊能力として、召喚魔法を持っている」
……こっちの世界に来た当初の話を思い出し、伝えては見たものの、召喚魔法って勇者っぽいのだろうか?
「へー、召喚魔法ねぇ……。正直な話、勇者っぽいって気がしないんだけど……」
うん、俺もそう思う。けど、俺が持っているらしい能力はそれだけだもの。嘘付くわけにもいかないし……。
「まぁ、いいわ。何も無いよりはマシだから、とりあえず、勇者らしく特殊能力を持っているって事で、及第点にしておいてあげるわよ」
ふぅ、なんとか同盟破棄の危機は去ったようだ。
正直な話、冷や汗の量は狼戦よりも多かった気がする。
「それじゃぁ、召喚してみなさいよ」
「…………え?」
「え? じゃないわよ。勇者らしく物凄い召喚魔法が使えるって言うんだし、使ってみなさいって言ってんの。
まさか、嘘でしたなんてこと、無いわよね?」
……どうやら、危機は去っていなかったようだ。むしろ、物凄いとか、知らない間にハードルがあがってる気がする。
「い、いや。あれなんだよ。うん。
えっと、そう。勇者らしく、特殊な物が必要だから、今すぐにってのは、無理だなー。いやー、残念だね、うん」
「はぁ? なに言ってんのよ。魔法系で物が必要って、魔玉が必要ってことでしょ?
魔玉なら、そこにあるじゃない」
アリスが指し示す場所には、先ほどまで戦闘を繰り広げていた狼が横たわっている。
その後も捲くし立てるように話すアリス曰く、この世界の魔法は、自分の中にある魔力を使うタイプと、魔物の心臓である魔力の通りやすい石、魔玉プラス自分の魔力を使うタイプの2種類しかないらしく、歴代の勇者達でも例外はなかったそうだ。
つまり、準備がないから無理、と言った逃げ道は、即行で封じられたらしい。ってか、さっきの狼、魔物だったんだな。
……普通、魔物との初戦闘って、スライムとかじゃないの? このゲーム難易度高すぎない?
「いやいや、そこにあるって、どうやって取り出すんだよ」
そこにあるものは狼であり、魔玉ではない。しかし、そんな疑問を予測していたらしいアリスは、迷うことなくクロエの方を向いた。
「クロエ。あんたなら、そこの犬、解体できるわよね?」
「うん、だいじょ、……ばない。
むりだよ。私、解体なんて出来ないよ」
話を振られたクロエは、瞬時に肯定しようとしたが、瞬間的に俺の視線から意図を読み取って、否定方向に変更してくれたらしい。さすがクロエ、空気の読み方も優秀なようだ。
しかし、そんなクロエにも、アリスの魔の手が忍び寄る。
「さっきの戦闘じゃ、かなり手馴れた感じだったじゃない。……クロエ。あんた、解体出来るわよね?」
「……えっと、あのね、わたー」
「出来るわよね?」
「…………」
「クロちゃん、アリスの目を見てみよっかー。
……出来るわよね?」
「……うん。……できる。ごめんなさい」
アリスの粘着質な責めにクロエが敗北した。
どうやら、逃げ出すことは不可能なようだ。
戸惑いながらも、クロエが手際よく、馴れた感じで狼を解体していく。
「うまいじゃない。どこかでやったことあるの?」
「うん、昔、猟師のおじさんの所で、アルバイトさせて貰ったてたの。給金は安かったけど、お肉が貰えたから楽しかったよ」
話しながらも、見る見るうちに毛皮が外され、身と骨、そして、心臓部分から、服屋で見た、薄い緑色の玉が出てきた。
残念ながら、魔法を使う準備が整ったようです。




