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<17>姉妹の喧嘩

「魔法は、感覚なんだ。

 キミ達2人は絶対に魔法を使えるんだから、あとは自分の中でイメージを膨らませるだけだよ。

 まずは目を閉じて、自分の中にある魔力の確認をすることだね。それから、詠唱をしてみようか。


 言葉は何だって良いよ。それにやり易いなら、口に出さなくても問題はないんだ。

 自分が思うまま、願うまま、とりあえずは、やってみてくれるかい?」


 指示された通り、目を閉じて、魔力を探って見る。そして、中2病染みたセリフを腹の底から叫ぶ。


「我が呼び声に答え、現世へと出現せよ。ファイヤーーー!!」


 …………、何も出ませんでした。


「1つだけ、アドバイスするとすれば、魔力を体から外に出すときは、ハーーーって感じだね。ハァーーーだと違うから注意が必要だよ」


 ……それって、どんな感じなのでしょうか? どう違うのでしょうか?


「……魔力さん、お願い、炎に変わって。

 それから、出来れば、舞ってくれると嬉しいな」


 クロエの方も何も出なかったが、叫んだ俺よりは、傷は浅く済んだと思う。

 …………穴があったら入りたい。


「クロエの方は、少しだけど、魔力が出ていたね。

 キミにはそのスタイルがあっているようだから、ドンドンとお願いしてみようか」


「はーい。

 魔力さん、水になってくれたら、お礼にクッキーをいちま……、半分あげるから、水になってほしいな」


 ダンジョンの魔法がクロエに移植されてから、3日。


 そんな感じで、俺とクロエは、サラに魔法を教わっていた。しかしながら、3日程度では不十分らしく、俺もクロエも未だに魔法を発動する事は出来ていない。

 まぁ、時間と言うよりは、サラの感覚的な教え方の問題な気もするが……。


 それでも、何と無くではあるが、自分の中にある魔力とやらを感じる事は出来るようになっていた。


 サラ曰く、2人とも順調だそうだ。


「2人とも、お菓子を奪って来たんだが、食べるかい?」


「うん。ありがとう、お姉ちゃん」

 

 城での生活も、すごく快適だった。

 サラが研究で引き篭もるために作らせたというこの部屋は、風呂やトイレ、台所など、人が生活できるだけの能力が備わり、部屋も複数あったので、苦労らしい事は一切無い。それに、頻繁にサラが城の厨房に出向いて、食べ物を奪ってきてくれるので、美味しい物を食べることも出来た。


 ただ1点だけ、不満があるとすれば、異世界らしく、小麦から作る物がメインで、米が一切無かったことくらいだ。


 正直、米が無いのは辛いが、綺麗な美女と可愛い美少女と楽しく生活しているんだ。そのくらい我慢しなければ、罰が当たるというものだろう。


 そんな悠々自適な幸せ生活も、1人の訪問者によって、終わりを迎える。


「サラ姉。アリスを面倒事に巻き込まないでよ!!」


 そんな言葉と共に、入口の扉が開かれ、1人の少女が、俺達の空間に入り込んできた。


 歳はクロエと同じくらいだろう。

 吊りあがった目に、口元の八重歯、気の強そうな表情。一目で、我侭そうな印象を受ける。 


 サラの事を姉と呼んでいることや、第4王女の私室に無断で入れることから考えるに、彼女が第5王女、アリスなのだろう。

 ってか、一人称が自分の名前呼びって、王女として大丈夫なのか? ツンデレ系美少女? 身長小さいなー。

 

 そんな無駄なこと考えていると、アリス(たぶん)に睨まれてしまった。


「……ふん」


 姉妹と言う割りには、似通った部分が少なく、あえてあげるとすれば、もてそうな容姿であることくらいだろうか。

 後で聞いた話ではあるが、姉妹とは言っても、母親が違うらしい。


 目が覚めるような金色の髪の毛は、肩にかかるほどで切りそろえられ、クロエよりもやや高い位置で2つに縛られている。

 身長は150センチほどと小柄で、胸は姉と比べるのがかわいそうになるほど、ペッタンコだ。

 ただ、全体を通して攻撃的に見える彼女にとっては、そんなスレンダーボディも、その魅力を上げる要因になっていた。


 YESロリータ、NOタッチ、そんな感じだ。

 

 待っていた訪問者の到着に、ほっと安堵の息を吐き出し、事前の打ち合わせ通り、サラの横へと移動する。

 

「……その男が首謀者ね。

 あんた、サラ姉から離れなさいよ!」


「首謀者ねぇ。まぁ、間違ってないが、あってるとは言えないな」


 ボソッと口走った言葉だったが、どうやらアリスに聞こえていたらしく、彼女の表情がさらに険しくなった。


「なによ、平民の癖して、アリスに口答えする気?

 あんたは、平民らしく、黙ってアリスの前に跪いていたら良いのよ」


 普通なら、怒りの感情も湧き出してきそうな物言いなのだが、彼女のような美少女に言われるならば、笑って流せそうなのは何故なのだろうか。   


「…………なに、ニヤニヤしてるのよ。気持ち悪いわねぇ。

 怒鳴られてにやけるなんて、あんた、変態なの?」


 おっと、どうやら、顔に出てたみたいだ。


 まぁ、変態かどうかと聞かれれば、自身を持って、変態だ!! と答えるべきなのだが、俺が話しても拗れるだけなので、視線をサラに向け、早急に話を進めてもらうことにする。 


「ボクの夫を変態呼ばわりしないで貰えるか?」 


 そんな言葉から、国の行く末を大きく左右する、姉妹のケンカが始まった。 

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