<14>お買い物2
空になった容器をおばちゃんに返却し、大通りを進むと、程なくして先行するクロエの足が止まった。
どうやら服屋に到着したようだ。
目の前にある入口は、重厚な開き戸で、側には執事を思わせる衣装を身に纏った男性が佇んでいる。
「いらっしゃいませ。弊社に御用でしょうか?」
どこか値踏みするような視線を向けられたが、奴隷商と同様に、王家の家紋を見せると、何事も無く中に案内された。
店の中はコンビニ程度の広さで、中央にポツンと2組のソファーと机が置かれ、その片方には裕福そうなお腹の30代男性が座っていた。
部屋の隅には、ソファーを取り囲むようにして、つぼや絵画が置かれ、天井からはシャンデリアが吊り下げられている。
高級な店であることは十分に伝わってくるのだが、肝心の服の姿は一切無い。
服など、しま〇らか、ユ〇クロがメインの俺には、到底服屋には見えないが、クロエが連れて来てくれたのだから、服屋で間違いないのだろう。
怪しまれない程度に店内を見渡していた俺に対して、ソファーに座る男性が深々と御辞儀をしてきた。
彼の背後には案内してくれた執事姿の男性が立ち、その口元を動かしている。
恐らくは、俺が王家の使いであることを主人に伝えているのだろう。
「ようこそ御越しくださいました。洋服商人をさせて頂いております、アレクと申します。
本日はどのようなお召し物を御求めですか?」
どうやら服屋であっているようだ。
「……あぁ、女性用を3着と男性用を1着。
サイズ調整不要で、汚れ防止と体温調整の魔法がかけられた物を貰いたい。
それと、なんだが。実は、姫様が我侭を申されてな。出来る限り急ぎで手に入れたいのだが、出来るか?」
「はい、可能でございます。4着であれば、40分程度の時間お付き合い頂ければ、仕上げてご覧にいれます。
サイズフリーと汚れ防止に体温調整であれば、4着で金貨4枚で如何でしょう」
40分待てってことは、今から作るのか?
……服ってそんなに早く作れたっけか?
オーダーメイドの服って、何と無く1週間以上待たされるイメージなんだがな。
「……わかった。よろしく頼む」
魔法の服を作ってくれなどどいう、日本なら頭の具合を心配されそうなオーダーに対して、あっさりと頷いて見せた商人は、執事服に何かを命じる。
すると、程なくして薄い緑に見える手のひらサイズの球体が5つ、俺達の前に運ばれてきた。
執事服が綿のようなものを使い、慣れた手つきで机の上に玉を並べていく。
「それでは、こちらの魔石に手を置いて頂けますか?」
不安げな内心を悟られないように、出来るだけ堂々とした態度で、玉に触れる。
ガラスのような手触りで、手のひらから冷気が伝わってくる。たとえるなら、冷蔵庫に入れた大きめのビー玉のような感じだ。
「それでは、目を閉じて、お求めになりたい服の形を思い浮かべてください。
出来上がってからの微調整も可能ですが、細部まで出来る限りを想像して頂けると幸いです」
良くわからないが、想像しろと言われたので、とりあえず男物の服を想像した。
長袖のTシャツに上に、羽織るパーカー、下は普通にジーンズでいいだろ。
そんなことを考えていると、手に当たっていたひんやりとした感覚が無くなった。
「はい。もう目を開けていただいて結構ですよ」
恐る恐る目を開けば、机の上に、想像通りの服が横たわっていた。
状況を考えるに、俺の想像を元に、商人が魔法で作り出したのだろう。
手の中にあった玉が消えていることから、あれが素材だったのだと思うが、目の前にある服は、どうみてもポリエチレン100パーセントって感じだ。
さすがは魔法の国、魔法の世界、何でもありだ。
「お疲れでなければ続けて、残りの3着も御協力願えればと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「あ、あぁ、構わない。
この玉に手を載せれば良いんだな?」
その後、妄想力をフルに活用して、クロエの服を仕上げ、サラ、そして今後仲間になる予定の女性用に取り掛かる。
クロエの場合はすぐ側に居たので、さほど苦労せずに仕上げることが出来た。しかし、サラの方はスムーズにとはいかず、3人目に至っては、出会ったことすらなく、かなりの時間が必要だった。
それでも何とか女性物の服を妄想に委ねて搾り出し、ほっと一息ついていると、背後から声をかけられた。
「お兄ちゃん、着替えおわったよ」
急ぐ気持ちを抑え、ゆっくりと振り向けば、俺の妄想衣装に身を包んだクロエがそこに立っていた。
「どうかな?
変じゃない?」
服を見せ付けるように、クロエはその場で一周回って見せた。
カッターシャツを思わせる黒い長袖の上着は、両肩に大きな切れ込みが入れられ、少女の白い肌を大胆に露出させている。
袖口はゆったりと広がり、指先まで覆い隠すことで、彼女の可愛らしさを助長させていた。
腰まわりは、細いベルトを服の上から回し、その大きな胸を強調させている。
その下には、上着と膝にも届かないほどの黒いスカートを履き、膝上まである赤いボーダーラインの入った靴下との間に、絶対領域を作り出していた。
彼女のトレードマークであるツインテールの付け根には、ハンカチほどの面積がある赤地に黒の模様が入れられた布が縛られており、同様の布がもう1枚、ふっくらとした胸元に、ネクタイの様に巻かれている。
タイトルを付けるなら、無邪気な黒い天使、で良いと思う。
「大丈夫、似合ってるぞ。
さすが、俺の妹って感じだ」
「そうかな。ふふ、ありがとう、お兄ちゃん」
可憐な笑顔に、思わず頭を撫でたくなったが、人が側に居るので自重した。
そのままでも可憐な美少女を更なる高みへと歩ませる事が出来た。そんな自分の妄想力を褒め称えたいと思う。




