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<3-41> 後日談


 王都を占領してから1年が過ぎ去ったある日のこと。


 普段は勇者国の首都として活気に満ち溢れた旧王都は、異様な静けさに包まれていた。


 王国の体制が崩壊し、名前を王都から首都に変更して以降、過ぎ去る日時に比例して人が増え続けているこの場所が、静寂とまでいえるほど静まり返るのは初めてのことだった。

 まるで1年前の内戦に戻ったかのような静けさである。


 ただ、内戦中とは異なり、人々が家に引きこもったり、生気の抜けた顔で項垂れている訳では無い。


 表通りや広場など、人々は王都の至る所に集まり、神に祈りを捧げながら、周囲の音に気を配っていたのである。


 そんな静けさの中で、不意に聞こえる男の声。


「待たせたな。次世代の勇者が誕生したぞ」


 首都の至るところから聞こえるその声に続き、赤ん坊の泣く声が首都全域に届いた。


 寒気さえ覚えるよな一瞬の静寂。その後に訪れるのは、爆発するような歓喜の渦。


 うぉおおーー!! という声が勇者王国の首都全域を震わせた。


 サラ王妃が産気づき、勇者ハルキが次の勇者の誕生を知らせたのである。


 内戦による爪痕は徐々に消え、平和という幸せを人々が噛みしめ、笑い声が大きくなってきた中での出産。無事に生まれて来てくれた子は、繁栄する未来の象徴として、人々に歓喜を運んだ。


 街に活気があり、十分な食べ物があり、勇者国の基盤も安定した。勇者国全体が歓喜の渦に包まれた日であった。



 そんな人々を見下ろすように建てられた城の中で、俺はマイク替わりの魔玉を前に、我が子を抱き上げていた。

 ベットの上には、憔悴しながらも幸せそうな笑顔を見せるサラの姿もある。


「申し訳ないが、女の子だったよ。

 ……けど、本当に良いのかい? その子を世継ぎに決めてしまって」


「あぁ、問題ないよ。俺とサラの子だからね。男だろうが女だろうが関係ないさ。

 きっと良い勇者になってくれるよ」


「……そうだね」


 少々親ばかな気もするが、あのサラが産んだ子なんだ。きっと頭の良い子になることだろう。


 ……俺の血の分が心配だけどさ。


「お兄ちゃん、わたしも抱っこしたい!!」


「あっ、ちょ、バカ。クロちゃん、もうちょっと優しく、そんな乱暴に抱き上げたら危ないじゃないの!!」

  

「クロエさん、クロエさん。次私ですからね。次は私に抱っこさせてくださいね」


「なに言ってるのよ。次はアリスに決まってるじゃない」


「あらあらー。ふふふ、みんな元気ねー」


 王妃と妻と嫁、妹と義妹、産まれたばかりの娘。そして、勇者国に住まう市民達。


 俺の家族全員が、幸せな笑顔を振りまいていた。 




 人は1人じゃ生きられない。


 日本に居た頃の俺は、ぼっちだった。仕事をしていた頃も、ハローワークに通っていた頃も、確かに心臓は動いていた。だけど、それだけだ。生きてなど居なかった。


 サラに召喚され、檻の中で彼女の手助けをすると決めたとき。あの時に、俺は、産まれたんだと思う。


 ぼっちだったサラの仲間になり、奴隷商でぼっちだったクロエを購入し、ぼっちだったアリスを引き込んだ。2人だけで生きていたノアとミリア。それからは、大勢の人が俺達と共に歩んでくれた。


 洞窟で狼に襲われたり、ニワトリに殺されかけたり、人間同士の殺し合いに参加したり、たしかに大変なことは多くあった。日本じゃ絶対に出来ない苦労が多いにあった。


 だけど、日本に居た頃と違って、毎日生きていた。誰かの手を借りながら、誰かの手助けをしながら、毎日ワクワクして、生きていた。


 もしいつの日か、日本に帰る方法が見つかったとしても、俺はこの世界で生きようと思う。


 だって、俺達はもう、ぼっちじゃないのだから。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 新作の『妹の部屋のダンジョン』  http://book1.adouzi.eu.org/n2784dm/ も、よろしくお願いします。


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