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<3-35> 決算


「…………終わったか。

 失敗だったな……」


「いや、そんなことは無いさ。

 たしかに第1王子は取り逃がしたが、捕虜と仲間は増え、敵の戦力を大きく削った。

 最高の結果では無いかもしれないが、前進には違いないよ」


「…………そうだな」


 騎馬隊の突撃を受けた俺達だったが、被害はそこまで大きく無かった。

 2回の斉射に加え、炎によって突撃してくる馬の数を減らしていたため、実際に俺達のところまで到達したのが、20体ほど。


 その結果、死者が7人、骨折などの重症が19人であった。


 突撃によって混乱した兵を立て直し、再びの包囲と共に王子が逃げたことを周知させ、降伏させた。 


 寝返り兵の死者が124人。銃兵の死者が7人。敵兵の死者は200を超え、捕虜は600人ほど。

 結果だけを見れば、勝利と言っても過言ではない。


「あの時、俺がやつを撃ててればな」


 第2王子が殺され、残るは第1王子のみ。

 これが最後の戦い。これが最後の犠牲者。これで終わり。それが目的の戦いだった。


 敵の戦力は減り、捕虜を説得すれば、俺達の戦力は戦闘前より増えるだろう。

 だが、俺が気を抜かなければ、降伏じゃなく殲滅を選択していれば、そもそも戦力を増やす必要すらなかったのだ。


 それにもし、第1王子が俺達の方へ向かってこなければ、彼を捕らえることは可能だったと思う。


 左右の森へ逃げ込むには、馬を下りなければ不可能であり、俺達の逆側、寝返り兵達の背後には、王子の逃走に備えて、罠と伏兵が仕掛けてあった。対策は完璧だと、本気で思っていた。


 まさか、1番の攻撃力を誇り、敵にとって未知の存在である銃兵に向かって突撃してくるなんて、完全に予想外だったのだ。

 

 100人の剣士と3体の宇宙人、どっちに向かって突撃しますか、って聞かれて、宇宙人を選ぶやつなんて居るか? どんな攻撃をしてくるかわかんないんだぜ?


 ……まぁ、あれだ。要するに、俺が銃を過信し過ぎたってことだな。


「ハルキ。きついようなことを言うが、いまは落ち込んでいる暇なんて無いよ。

 落ち込むなんていう贅沢は、兄を倒した後だ。わかっているよね?」


「……あぁ、悪いな。その通りだ」


 襲われたから戦った前回とは違い、俺が、俺の考えで、俺の権限で攻め込んだ戦いだ。失敗したからと、嘆いている暇なんて無いよな。

 贅沢は勝った奴だけが出来る。地球と一緒だな。


「反省は必要だけど、過去に引きずられない。それが正しい生き方だよな」


 気持ちを無理やり奮い立たせ、周囲を見る。

 勇者国に作った指令室。側にはいつものメンバーしかいない。


 能力を超える魔法を行使したことにより、気を失ったアリスも、あれから5時間ほど経過した今では、普通に歩けるほどまでに回復していた。

 まだ、顔色は悪いけどな。


「クロエ。連れて行った兵達と、寝返ってくれた兵達の様子は?」


「んーっと、ちょっとだけ疲れてるみたいだったけど、『近衛兵に勝ったー、宴だー。米を食えー』ってみんな楽しそうだったよ」


「そうか、わかった。

 褒美として蒸留酒を出すから、手配しておいてくれ」


「はーい」


 近衛兵に勝った、か……。そうだな、そのくらいの気持ちじゃないとだめだよな。


 酒、肉、米、今日は贅沢に大盤振る舞いにしよう。王国じゃ酒があまり手に入らないらしいから、寝返り兵のために、酒は多めに出しといた方が良いだろうな。


 この世界に蒸留酒は無いらしいから、試行錯誤して作った蒸留酒を振る舞うのは、急性アルコール中毒なんかが怖いんだが、勇者肝いりの飛びっきり高級なお酒って言っとけば、みんなチビチビのむだろ。


 ……二日酔いとか、死屍累々の後片付けとかは、そのときになってから考えればいいよな。うん。


「サラ、捕虜達の様子はどうだった?」


「一応、おとなしく鍵付きの部屋に納まってくれたよ。

 普通の兵は意気消沈で、近衛兵達は敵意が燻ってるってところだね」


 中には『勇者国の牢屋は高級すぎる』なんて驚く人もいたけどさ、などと言ってサラが笑う。


 ぶっちゃけ、牢屋を作るなんて発想が無かったから、捕虜達には、ダンジョン内の普通の部屋に入ってもらったんだよね。だから、高級もなにも、牢屋ですら無いって話なんですよ……。


 まぁ、いいや。牢屋の件については置いとくとして、捕虜の方も概ね予想通りだな。


「ミリア。食糧の残りは?」


「倉庫に入りきらないくらい残ってますよ。籠城戦が予想以上に早く終わりましたからね」 


「だよな。

 とりあえず、宴の会場に運び込んで、捕虜達にも渡してやってくれ」


「了解しました」


 1か月以上の籠城も想定していたんだが、2日で終わったからな。これで余ってなかったら、どこに消えたんだよ、魔法か? って話になるよ。


 食糧も問題なし。あとは……。


「アリス。眩暈や吐き気はどうだ?」


「……うぅーーー、うっさいわね。大丈夫よ!! もう全然平気なんだからね!!」


 うーん、強がりがいつもより酷いな。

 明日1日休んだらそれなりに回復するかな、って感じか?


 1番酷いであろうアリスがこの調子なんだから、2日も休めば大丈夫ってところだな。


「わかった。俺が捕虜を今日と明日で説得する。

 明後日には王都に向けて進軍しよう。明後日までに、兵站と体調を整えておいてくれ」


「……捕虜の説得さえできれば、戦力はボク達の方が上。攻めるなら、早めのほうが有利か……。

 そうだね。準備の方は受け持つよ。今度こそ、決着にしよう」


 そういうことになった。


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