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<3-32> 魔力の有無


 戦場から逃げ出した第2王子は、王国へと続く道をひたすらに逃げていた。


 途中で偶然見つけた兵から、馬を譲り受け、身を任せるかのように馬に揺られているものの、その表情は優れない。


「王子、残った者は、我々だけのようです。ほかの者の行方は知れません」


「……そっか」


 王子の周りを取り囲むのは、300人にも満たない兵士達。 


 王都を出立した当初は、4000人だったものが、今となってはこの人数しか残っていないのだ。


 どのような言葉を並べたところで、敗北という評価を受けることは確実だろう。


 だが、幸いなことに、兵の消耗という観点からすれば、さほどの被害は受けていなかった。

 ほとんどの兵は、ただ逃げただけである。


 王都に帰れば、逃げ出した兵達も集まってくる。全員が帰ってくることは無いだろうが、家族を放置出来る者など少数であり、大半の者が王都へと帰るだろう。


 今回の失態で、軍関連の権力は兄に持っていかれるだろうが、そちらもまた、時間をかけて回復すれば良い。


 まだ負けてなどいない、王座への道が閉ざされた訳では無い。自分は大丈夫だと、第2王子が自分に言い聞かせるように、今後の展望を模索しながら、王都へと歩みを進めていた、そんなとき。


 不意にその視界を大量の人が埋めた。


「……ん?」


 そこに居たのは、同じ防具に身を包み、同じ武器を手にした男達。


 王国の兵だった。


「おぉーー、君達、良く戻ってきたね。

 罰則はしないから、すぐに――」


「お待ちください!!

 ……どうにも、様子が変です」


「え?」


 突然、目の前に現れた王国兵は、第2王子に向けて、手に持った槍を突き出した。明らかな敵意である。


 王国の兵が、自国の王子に穂先を向ける。明らかに異常な光景だった。


「王子!!! こちらからも、自国の兵士達が!!」


 そして気が付けば、背後にも王国兵の姿があった。左右の森からも、人の気配を感じる。


 どうやら、囲まれたようだ。


「……僕を待っていたのかな?

 それで? 君達の目的は?」


「そんなもの、知れておる」


「…………えっ!? ……兄さん??」


 人の垣根を分け入るように出てきたのは、王国の第1王子。


 王都に居るはずの、兄の姿が、そこにあった。 


「王国第2王子、貴様の首だ」


 突然の兄の登場。突然の敵対宣言。


 第2王子には、今現在、何が起こっているのかを理解する術は無かった。だが、自分が危険な状況下にあることは理解できる。


「国の守護者たる神々よ。我が意図に答え、鉄壁の盾を我が前に示し給え」


 それならばと、第2王子は、自分を守るための魔法を唱える。

 彼にとっては、それが最善の選択しであり、唯一の選択肢だった。


 ゆえに、第1王子としても、予想は立てやすい。


「鉄壁の王子など、籠に捕らわれた小鳥に過ぎない。

 第2王子を守る我が友よ。その者から離れ、我が元へ参れ。第2王子と共に沈む必要は無い。私には君達が必要だ」


「な!! なにを勝手なことを言っているのですか。横暴が過ぎますよ。

 それに、捕らわれた籠だなんて、侮辱するのはやめてください。僕の盾は、最高の盾です」


「ふははは。何が最高の盾だ。

 愚妹に破られた盾が、最高の盾だなどとは、笑いしかこみ上げて来ぬな」


「…………」


 どうやら兄は、先の戦いの結果をすでに知っているようだ。

 

 原因も分からずに敗れた先の戦いを持ち出されては、さすがの第2王子も二の句が継げない。


「もともとは、勇者国との戦いで疲弊した貴様を討つために、こうして待ち構えて居たのだが、まさか負けて帰ってくるなんてな。

 自分の弟が、予想以上に無能で、兄は寂しいぞ」


「……それでは、初めから僕の首を取るつもりで?」


「そういうことだ。そのために、初日の夜に逃げ出させて、ここに待機して貰ったのだがな。

 貴様の敗戦のおかげで、予想以上の兵が逃げてきてくれたぞ」


 どうやら、戦いが始まる前に、自分の部下を兵に紛れ込ませ、夜逃げに扮して後方に集結。実際の戦闘で逃げ出した兵も吸収しつつ、第2王子の到着を待っていたらしい。


「サラがどのように、貴様の盾を攻略したのかは知らんが、愚妹に出来ることは、俺にも出来る。

 命乞いをするなら今のうちだぞ。我が友達もな」


「…………」


 あの時のように、王子の盾が破られるかもしれない。そんな思いが、第2王子を守る兵達を動揺に導いた。

 良くも悪くも、魔法の盾の影響力は大きい。


「……兄さんに、僕の盾が壊せると?

 魔法も無い、兄さんに?」


 固有魔法の無い王族。それも王位継承権第1位。それが、王位を巡って争うことになった原因である。


「無論だ。俺に不可能など無い」 


 長男には、国や人を動かすだけの能力があったが、王として認められるだけの魔法が無かった。


 次男には、強力な魔法があったが、人の心の動きには鈍感であった。


 そして、後継者を決めぬまま、急な病で王が亡くなったとなれば、争わない理由が無い。


「1つだけ、冥途の土産に教えてやろう。

 お前の盾は、攻撃を防ぐ物じゃない。魔力が籠る物を弾く物だ」


 それは、王家が誇る禁書を辿り、第1王子が辿り付いた結論だった。


 王家の歴史の中には、次男と同じような魔法を使えた者が何人も居り、その者達が残した書物が多数存在する。

 ゆえに、その結論にたどり着くのには、さほど時間は必要無かった。


「つまり、魔力が込められていない物は、弾かない」


 探すのに苦労したぞ、と言って、第1王子が真っ黒なナイフを懐から取り出した。さらには、第1王子の周囲を取り囲んでいた近衛兵達も、第1王子と同じようなナイフを取り出す。


「…………」


「貴様のためだけに作らせたナイフだ。

 魔力を持たない物に貫かれて、死ぬがいい」 


 魔法がすべてじゃない。そんな言葉を含んだ命令が第1王子により発せられ、第2王子の周囲へと、王国の兵士が向かう。


 それから数分後。


 勝ち目が無いと武器を手放した兵達の中央で、真っ黒いナイフが血に染まった。



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