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<3-25> たくさんの勇者


「うん。完全に包囲されたね。さすが、4000人もいるだけのことはある」


「櫓からも包囲されたって連絡が来てるよー。見えるところすべてに敵が配置されたんだってー」


「予想はしてたけど、実際に見ると嫌な光景だよな……」


 お米様で作ったおにぎりを使って、兵を鼓舞した翌日。

 勇者国の周囲は、王国の兵士で溢れかえっていた。


 敵を発見するために森を切り開いて作った平原は、王国の旗が至る所に掲げられている。

 高いところから石を投げれば、誰かに当たりそうな密集具合であり、発見するとかそんなレベルの話ではない。


 見渡す限りが敵だった。


 もし俺が王国の王子ならば『こんな壁など、数の前には無意味よ、わはは』と高笑いしているのだろうが、攻められる立場では苦笑すら出てこない。

 大勢の人に囲まれるとか、威圧感が半端じゃないよ。


 店の前には、おばちゃまの列が出来てて、俺はバーゲンセールのカゴの中の服、それも90パーセントオフのシールが貼られてる感じ。ヤバいと思いません?


「みんなに動揺は、…………無いみたいだな」


「うん。みんな元気だったよ。

 補給も問題ないってミリアお姉ちゃんが言ってた」


「了解」


 そんな状況にあっても、勇者国の兵士は高い士気を保っていた。


 全員が美味しいおにぎりを食べて、勇者になったからな!!

 

 壁の上では、弓を手にした住民達が『王国の連中、早く来ないかなー、俺が新しく得た力を見せつけてやるのになー』『バーカ、俺が解放した力で倒すんだから、お前の取り分はねぇんだよ』『いやいや、吾輩が天より授かった力を使って、1人残らず滅する予定である』と笑いあっている。


 無論、おにぎりを食べて新たな力に目覚めたり、能力を開放出来たりした人などいない。食べたのは、普通の美味しいおにぎりだ。


 思い込みって大事だよね!!


 ……次は、持ってたら勇者になれるツボとかどうよ?


「さてさて、敵さんの様子は、っと。

 うん。予定通りだな。…………ちょっと、やり過ぎたかもだけど」

   

 そんな和気藹々とした雰囲気の俺達とは異なり、壁の向こう側に陣取った王国の兵士達は、皆、口を堅く閉ざしていた。

 全体的にギスギスとした雰囲気が漂っている。


 時折聞こえる声も、談笑には程遠い。

 

「……おい、今、俺の足踏んだよな?」


「あぁ? 足を踏んだくらいでなんだよ? お前、俺の嫁となにしてたんだよ?」


「だから、なにもしてねぇ、って言ってんだろう、この禿隠し野郎」


「はぁ? 俺、べつに禿てねぇし」


「嘘つけよ。勇者が名指しで、毛が薄いことを必死に隠してるってバラしてたじゃねぇか」


「はぁ? お前、あんな奴信じるの?

 お前さては勇者国のスパイだな!!」


「お前こそ、嫁と嫁とって散々言っといて、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。

 お前こそ勇者国のスパイだろ」


「おい、お前ら、うるさいぞ。すこし黙れ」


「「うるせぇよ、ロリコン野郎!!」」


「…………」


 ちなみに、この人達。3人とも冤罪です!! 無実です!! 


 いやー、さすがに全員分の秘密調べるの面倒でさ。適当なことを言った人も居るんだよね。えーっと、全体の3割りくらいかな。


 けど、まぁ、あれですよ。『俺は全力で戦う、己のすべてをこの戦いで出し尽くしてやろう!!』そういう信念ってことにしといてください。


 勝てばいいんです、勝てば。


 悲しいけど、戦争なのよね。


 そんなギスギス状態は、一般兵だけじゃない。むしろ、上層部の方がギスギスしていた。なにしろ、一般人とは違って、100パーセント本当のことだけで、全員を徹底的に爆撃したからね。


 いやー、俺も心が痛んだよ。うん。  


 特に、第2王子をターゲットにした話なんて、やばかったね。


 初恋の人が、第1王子の側近として、主にどんな仕事をしているかを話したときの第2王子の反応を見てたら、ほんと、心が苦しくなったよ。しかも、第1王子とその女性って、相思相愛だから、悔しがるしか出来ること無いみたいだし……。

  

 そんなわけで、王国軍の会議は修羅場と化していた。


「それじゃ、君達の手勢だけで、勇者の首をとってきてね」


「「「…………」」」


「ん? 嫌? 嫌なら、それでも良いんだよ?

 ふらふらした蝙蝠さんたち」


 豪華なテントの中で、第2王子の前に跪く男が4人。それを8人の男達が片膝を地面につけて眺めていた。 


 第2王位の言葉通り、彼の目の前に跪く男達は、第1王子にも良い顔をして取り入ろうとしていた者たちだ。

 ちなみに、第1王子派のスパイだった2人の男は、秘密裏に処刑されていた。子爵と男爵だったんだが、戦時中に死んだってことにするから、問題ないんだってよ。


「僕達は、勇者が逃げないように、周りを取り囲んでおくから。がんばってね」


「……かしこまりました」


「了解しました」


「はい」


「…………」


 王国側の作戦は、捨て駒を突っ込ませて、俺達の出方を伺い、本命が突撃する作戦で決まったようだ。


 裏切りの可能性がある者を俺達に排除させてから、本格的に攻めよう、ってことだね。


 そろそろ開戦みたいだな。


 よし、…………とりあえず、俺が出来ることを探そうかな。



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