<3-23> 決戦前の集会
「…………そーかぁ。来ちゃうかぁー」
「んゆ? どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、なんかさー。次男が軍を動かしたみたいなんだよねー。
兵士達の話しを聞く限り、寄り道なしでここに来るってさ」
お米様の栽培に成功してから1年が経過したある日の事。
王都周辺に潜ませていたカラスの目に、俺達の国に向けて出立する王国軍の姿が写った。
王国はどうやら最大兵力を投入するようで、城内の詰め所には最低限の人数しか残って居らず、城の守りだけを残しての出立したようだ。
集団の中には次男本人の姿もあり、さながら最終決戦といった感じだった。
「んー、そうなんだ。ってことは、お兄ちゃんの予想通りってことだよね?
私は予定通りに準備したらいいの?」
「あぁ、そうなるな」
ここ数日の王国の様子を見るに、そろそろ危ないかなー、と感じていたので、勇者国の皆にはそれとなく伝えてあった。
ずっと平和だったらいいのになー、といった希望もあって、通達は注意喚起程度にしておいたのだが、残念ながら無駄にならなかったらしい。
「それと、悪いんだが、サラ達にも伝えてもらえるか? 敵が来るから準備してくれって」
「はーい。了解しましたー。
それじゃ、行ってくるね」
そういって、クロエはパタパタと駆け出して行った。
それから3時間ほど経過した頃、俺はアリスに作ってもらった高さ4メートルほどの御立ち台の上に居た。
背後には、サラやクロエ、アリスにミリア、ノアといった、いつものメンバーが勢ぞろいしており、眼下には綺麗な縦列を組んで俺を見る人々の姿がある。
「今日は良く集まってくれた。勇者として礼を言う」
数にして凡そ800。
子供や年寄り、妊婦などの戦えない者を除いた勇者国に住む者、この1年で俺達を頼り移民してきた人達のほとんどが、ここに集まっていた。
「すでに周知していることではあるが、今朝、王国の軍が王都を出立し、ここを目指している事が判明した。
勇者の力で確認した限り、その数は凡そ4000人程度だ」
数日のうちに王国が攻めてくる可能性が高いことに加え、ここに集まってもらう時にも、王国が攻めてきたから集まってくれ、と周知していた結果もあってか、俺の言葉に酷く狼狽するような者は見受けられない。
だが、4000人、四千、よんぜん、と各所から呟くような声が聞こえてきた。
800人 対 4000人
普通に戦えば、どう考えても勝ち目は無い。
「俺達と敵の戦力の差は、5倍程度。守る側である俺達が地理的に有利ではあるものの、絶望的な差と言っていいだろう。
だが、俺達には、この1年で蓄えた力がある。
武器は数え切れないほどあり、食料も充実している。そして、高さ10メートルの外壁は、王都に負けないレベルになったのは皆知っているだろう」
簡易で作り始めた壁は、日に日に高さを増し、間に土が入り、さらには水が入った堀まで作られていた。
そんな信頼できる壁を思い浮かべながら、背後のサラ達と、集会場の端に立つ女性達に視線を送る。
俺の意図を理解した女性達は、パタパタと支度を開始。サラが俺の前へと食糧の入った器を持ってきてくれた。
「皆も知ってのとおり、俺は勇者だ。そして、俺が育った、この世界に来る前に居た国では、そこに暮らす者のほとんどが勇者だった」
……いや、基本的に日本人って召喚や転生したら勇者ですし、嘘は言ってないよ、うん。
「その秘訣。勇者の秘密をお見せしよう」
そんな言葉と共に、クロエが阿吽の呼吸でサラが持つ容器の中から、手のひらサイズの食糧を取り出し、全員が注目しやすいように掲げて見せた。
お茶碗1杯分のお米様を手のひらで愛情を込めて三角形に握ったもの。
「これはおにぎりと言って、勇者達が戦いの場や遠征時に力を得るための食べ物だ」
……日本じゃ、職場や遠足で食べるって言う意味な。
「つまり、これを口にすれば、ここに居る全員が、勇者の力の一端を得ることが出来る!!」
……皆で日本人の心であるおにぎりを食べて、日本人の心に触れようぜってこと。
「無論、おにぎりは全員に行き渡るだけの量を確保した。ここに居る全員が勇者になれるんだ!!」
先ほどの4000人と言う言葉以上に、会場がざわついた。王国には無い力をここに居る全員が手に入れることが出来る。それは希望というほか無いだろう。言うなればお米様のお導きだ。
……あと一息って所かな。
「我々全員が勇者となれば、王国軍など恐れる必要など無い。我等の真の力を見せ付けてやろうじゃないか。
全員、拳を高く掲げろ。そして、勇者国ここにありと吼えて見せろ。皆、戦えるな?」
「「「イエッサーー!!」」」
「よし、ならば米を食え。武器を持て。
王国のやつ等を追い返してやるぞ!!」
「「「おぉぉぉおぉおぉーーーーー!!!!!!」」」
……うむ、完璧だな。後は敵に嫌がらせをしながら待つとしよう。




