<3-21> 決戦への備え
「勇者の名において、米の守護者の称号を与える。
それに伴って専用の個室と畑を与えよう」
「はっ!! 謹んでお受け致します」
「うむ。専用の畑は田圃と命名し、お米様は勇者国の要とする予定だ。
自分の仕事が国の未来を大きく左右すると心得よ」
「か、畏まりまして、ございます」
俺の前で傅いた男の額から冷や汗が流れ出る。恐らくは、自分に与えられた任務の重さに、びびって居るんだと思う。
だがしかーし!! お米様のためだ、この人には精一杯頑張ってもらわなきゃいけないからな。むしろ言い足りないくらいだよ。うん。
お米様をお土産に、王都から逃げ帰ってきてから1週間が経過した。
逃げてきた当初は、王都に作ってしまった入口から何人もの兵士が入り込み、ここまで攻め込んでくるのではないかとハラハラしていたのだが、幸いなことに、王都からここまではかなりの距離があったことに加え、ダンジョンに住まうモンスター達も強くなっていたために、すぐに攻め込まれるということは無かった。
それどころか、何人もの兵士をモンスター達が返り討ちにしてくれたお陰で、ダンジョンのポイントが飛躍的に増えてくれたくらいだ。
そして、どうやら王国側は、ダンジョンの攻略を断念したようで、入口に見張りを立てるだけで、中に入ってくる者は居なくなった。
最近では次男の発言権が増していたようだが、今回の失敗を受けて長男が盛り返したお陰で、2人の争いは泥沼に戻った。そのため、しばらくの間は俺達の国が攻め込まれることは無いだろう。
それならば、と言うことで、王国はしばらく放置し、内政を優先して取り組むことにした。その先駆けとして、農作業が一番得意な者を選び出してもらい、米の専門家になってもらうことにした訳だ。
いざ行かん、お米の国へ!! ヒャッハーーーー!! って事だ。
「先ほど渡した種籾は、勇者である俺自ら出向き、妹であるクロエと共に命がけで入手してきた宝であることは知っているな?
我が命、おぬしに預けたぞ?」
「は、はひ」
「うむ。職務を全うせよ」
「イエッサーーーー」
米の守護者を引き受けてくれた男は、今にも泣き出しそうな顔で俺の前から去っていった。
…………うん、ちょっと、脅しすぎたかも。……後で差し入れでも持っていってあげよかな。……いや、むしろ俺が行くと逆効果か。
あー、うん、……彼の事は後で考えよう。
「なんだか、彼が可愛そうに見えたのはボクだけかな?
お米様が関わると、ハルキは人が変わったように見えるから気をつけるべきだと進言させて貰うよ」
「私もサラお姉ちゃんに賛成。
さっきのお兄ちゃん、ちょっと怖かったかな」
あー、やっぱり? 俺もそうかなーって思ってました。
けど、お米様のためだもの。美味しいご飯のためだもの、このくらいは仕方ないよね!! うん。
「……はい、ゴメンナサイ。調子に乗ってすいませんでした。誠に申し訳ありません」
仕方ない。仕方ないんだけど、たしかにやりすぎたと思う。
……やっぱ、後で謝罪と差し入れだな。
「まぁいいさ。ハルキとクロエが命がけで入手してきたのは事実だからね。
それで? この後は次男の魔法対策でいいのかい?」
「いや、それに関しては、寝る前に1つアイディアが浮かんだから、今日はサラだけ残ってくれれば大丈夫だな。
アリスは壁の建設、クロエは部屋の増加、ミリアとノアは移民の募集と受け入れ態勢の構築に行ってくれるか?」
「任せときなさい」
「はーい」
「はい」
「了解しましたー」
俺の指示を受けたいつものメンバーが、思い思いの返事を返して、部屋から去って行った。
残ったのはサラと俺だけ。
王都から帰ってから連日、今後の勇者国のあり方についてと、俺を苦しめた次男の魔法への対策についていつものメンバーで話し合っていた。
その結果、勇者国のあり方については、人手が増え、壁を初めとした防衛設備建設に目処が付いたことに加え、王国の兵士という予想外の所からポイントを入手できたため、部屋の増加と防御力に問題は無いと判断し、周囲の村や町から、積極的に移民を受け入れることになった。
ぐずぐずしていて、エイデンの居た村みたいに、突然王国側に襲われた村を助けに行くってのは大変だからね。
もともと、周囲の村からも受け入れの要請が頻繁に来ているので、これに関しては滞りなく上手くいくと思う。
問題になるのが、次男の魔法についてだった。
「それで? マジックキャンセルに対して、どんなアイディアが出たんだい?」
マジックキャンセル。それが、次男が持つ魔法の名前だった。
サラ曰く、彼はどんな魔法でも一瞬にして防御、無効化できるらしい。それどころか、剣や弓の攻撃も防げるんだとか。
この世界の物にはすべて魔力が宿っており、その魔力をキャンセルすることで、弓や剣などの魔法じゃ無いと思われる攻撃に関しても、キャンセルして無効化してしまうそうだ。
それゆえの鉄壁の王子らしい。
俺の銃弾を防いでみせたあの見えない盾はそういうことだったようだ。
ここでちょっとだけ考えても見よう。
前方に無敵の盾を展開する集団と、周囲を眺めているだけのカラスが飛び回る集団を。
…………うん、勝てない。性能が違いすぎる。
ってか、魔法も物理も完全防御だなんて、チートすぎやしませんか? この世のすべてを消し去るってなんだよそれ!!
サラの付与魔法もそうだけど、王家の魔法強すぎるでしょ!!
それに比べて、俺の召喚魔法ってどうよ? 未だにカラスしか召喚出来てないんだぜ?
そんなチート達と肩を並べようだなんて、俺、マジ勇者…………。
「いや、サラの付与魔法を使ったら対抗できるんじゃないかなー、と思ってさ。付与魔法を別の視点で使ってみたらどうかと思ったんだよ」
「別の始点? 詳しく聞かせてくれるかい?」
ってことで、チートにはチート。王族の魔法には王族の魔法で対抗しよう、と思い立ち。
付与魔法をいろんな角度から眺めて思いついた結果をサラに伝える。
こうして俺達は、いずれ迎えるであろう王国との決戦に備えるべく走りまわるのだった。




