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<3-19> 米を炊こう 9

「遅かったじゃない。アリスを心配させるなんて、ダーリンのくせっ!!

んきゅっ!? ち、ちがうわ。誰も、心配なんてしてないんだから!! 調子にのらないでよね!!」


「お疲れ様。どうやら大変だったみたいだね」


 第2王子の包囲網を振り切り、必死に逃げてきた俺達は、本拠地で待っていたサラ達に、手厚く迎えられた。


「あぁ、遅くなって悪かった。

 ミリア。悪いんだが、ノアを頼めるか?」


 そして、挨拶もそこそこに、背負うように連れて来たノアをミリアに託す。


「わかったわ。お姉ちゃんに任せといて」


「お姉ちゃん……、おじさんが……」


「……うん、大丈夫よ。

 お話は、ホットミルクを飲みながらね」


 殺意を持つ大人達に追われ、一般市民に指を指され、時には悲鳴をあげられながら必死に逃げ続けた俺達は、心身ともに疲弊していた。

 そして、信頼していた伯父が裏切った可能性が高い事に気がついたノアは、俺やクロエ以上にこたえたようで、見るからにぐったりとしている。


「紅茶入りのクッキーと普通のクッキーどっちがいい?」


「……紅茶入り」


「うん。じゃぁ、お姉ちゃん、久しぶりに頑張るね」

 

 そんなノアが、ミリアに連れられて行くのを見送り、サラ達の方へと向き直った。ノアの事は不安ではあるが、命の危機ってわけでも無いし、実の姉に任せておけば大丈夫だろう。

 

「それで? どのような事があったんだい?」


「あぁ、実は、ちょっと拙いことになった」


 旅の1番の目的であったお米様は、無事に入手出来たこと。

 大量の兵士に囲まれ死に掛けたこと。

 第2王子を暗殺しようと銃を撃ったが、見えない壁に阻まれたこと。


 そして、王都にダンジョンへの入口を開き、それが敵側に知られたことを伝えた。


「……ねぇ、それってヤバイんじゃないの?

 ダンジョンの入口って、見つからないようなところに作ってくるって言ってなかった?」


「あぁ、アリスの言う通り、そこそこ拙い。

 なんとか打開しようとしたんだが、どうしようもなかったんだ」


 第2王子が現れるまでは、立て篭もりと遠距離攻撃でなんとか均衡を保っていたのだが、銃による攻撃を封じられたことにより、状況は一気に悪化。

 仕方なく、100Pで買える通路を使ってダンジョンから王都までを直線で繋ぎ、クロエの移動魔法で逃げてきた。


 出来ることなら、都の外に入口を作って、ばれないように商品の仕入れルートなんかに使いたかったのだが、王子達に知られてしまったので、使えそうもない。

 それどころか、敵が攻めてくるルートを増やしただけになってしまった。


「兄達に存在が知られてしまった事は残念だが、キミ達の命には代えられないからね。仕方ないよ。

 それで? 兄達の動きはどうなっているかわかるかい?」


「あぁ、カラスを通じて見る限り、突然現れた穴を怪しんで、誰も入ってこない……、いや、どうやら様子見は終わりらしい。丁度、第2王子に背中を押された兵が入ってくるみたいだ」


 俺達が逃げるために作った王都にあるダンジョンの入口。そこに1人の青年が足を踏み入れようとしていた。

 

(壁が明るい。どう考えても敵の罠だよな……。

 はぁ……、ほんと、運悪いな……)


 半ば人柱として不審な穴の調査に任命された彼は、自分の運の無さに心から後悔していた。

 勇者の遠距離魔法はその目で見ていたし、敵が得体の知れない者だと理解していた。ゆえに、脱出用に使ったと思われるこの穴も、不気味で仕方が無かった。


(帰りたいけど……、何もせずに帰ったら、処刑だろうしな……)


 入口から300メートルほど歩いただろうか。重い足取りで先へと進む彼の前に、不審な生物がヒョッコリと姿を表した。


(っぅ!! …………ふぅ。何だ、トカゲか……、びっくりさせやがって。

 ……いや、おい、まて、おかしくねえか?)


 それは、一見するとただのトカゲなのだが、近づいて見るとその異常さがわかる。全長は1メートルほどだろう。その巨体にあわせるかのように、その口もとには、鋭い牙が生えていた。


 どう考えてもトカゲなんて優しいものじゃない。


(召喚獣? いや、魔物か?

 ……どちらにせよ、味方じゃないな)


 応援を呼ぶか、相手の出方を伺うか、逃げるか、などと考えていると、突然、トカゲが口を大きく開いた。


「っ!!」


 そして、その口の中から、兵士に向かって、真っ直ぐに炎が噴射される。


 瞬時に反応した兵士は、左手に装着していた丸い盾を体の前に掲げたものの、トカゲが吐き出す炎を防ぐには大きさが小さすぎた。


「ぐっ!!」

 

 顔と手、それから胸は何とか守ったものの、腰から下は、火炎放射器並みの炎が直撃し、鎧を溶かしていく。

 炎は、予想以上に高温だったようで、掲げた盾は半分近く溶け、全身がぼろぼろだった。

 特に足の方は重症で、その痛みから、その場に立っていることすらままならない。


「や、やめろ!! 来るな!!!」


 そして、身動きが取れなくなった兵士のもとに、巨大なトカゲが忍び寄る。


 床に治れ込みながらも、剣や盾で応戦するも、程無くして、ダンジョン無いに兵士の叫び声が響き渡った。

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