<3-9> 街をつくろう
「……えーっと、俺は手伝わなくていいんだな?」
「現状を考えると、そういう事になるね。
この場所は予定通りに、僕とアリス、それから村長の息子の3人が主体で作業を進めるよ。
キミの意見は十分聞かせてもらったから、安心して他の場所を見てきたらいいだろうね」
「なによ、もぉ。ここにはアリスが居るんだから、何が起きても大丈夫に決まってるじゃない。
ダーリンは他の不安そうなところに行きなさいよね」
「……はい。了解しました」
今後の活動方針を話し合った翌日。勇者国の国民全員を集め、緊急の授与式を開催することになった。
新入りのリーダーであるエイデンに建設部長、兵士のリーダーであるリアムに探索部長、そして、ノアに販売部長の称号を与えた。
サラ曰く、今後の事を考えると、今のうちから命令系統を明確化しておいた方が良いと進言させてもらうよ、とのこと。
時間が無くて用意できなかったが、それぞれの役職を示すためのバッジのような物も後々用意する予定だ。
重要な役職を国のトップである勇者が任命することで、俺の地位を安定化させると共に、わかりやすい努力目標として、頑張った成果として、国民感情の安定化に良い影響を与える、らしい。
うーん、まぁ、いいたいことはわからなくも無いけど。地位には責任が着いて回るし、平社員、ほどほどが1番良くないか? なんて思うのだが、まぁ、サラが良い制度だって言うし、問題が起きたら起きたで、そのときに何とかしよう。ってことになりました。
ちなみに、サラ、アリス、ミリアが王妃、クロエが妹という役職?を欲しがったので、あげました。……王妃はまだいいにしても、役職が妹ってどうなのよ?
あれか? 下っ端は、妹様、なんて呼ぶのか? それとも、サラ王妃的な感じで、アリス妹?
……うん、まぁ、別にいいんだけどね。
ってな訳で、無事に? 任命式も終わり、早速とばかりに、それぞれの担当に別れて、作業を始めることになった訳だ。
「……ふぅ、ようやく行ってくれたか。
手伝おうとしてくれるのはありがたいが、ハルキは自分がどのような立場に居るか、わかってほしいものだね」
「ほんとよ。ダーリンが居たんじゃ、みんな遠慮しちゃって行動出来なくなるわ。
……まっ、それがダーリンなんだけどね」
「優しさは彼の美点だけど、優しすぎるのが欠点とも言えるね」
サラ王妃、アリス王妃が落ち込んだ表情で去っていく勇者を見届け、呆れとも、尊敬ともとれる愚痴を零す。
想像してみて欲しい。ある日いきなり総理大臣が作業現場に現れ、一緒に作業をしようじゃないか、といわれる状況を……。どう考えても、普段の力を発揮できる場面ではないだろう。
そんな訳で、周囲の人間が萎縮している状況を鑑みた2人の王妃は、悪の根源である勇者を追い出した訳だ。
しかしながら、勇者がその場から居なくなっても、作業員達の表情が晴れることは無い。
「……いえ、あのー。俺達からすれば、王妃様達も十分偉い御方なのですが……」
そう、建設部長が言う通り、サラもアリスも勇者国のトップ集団の1人である。そして、勇者と違い、列記としたお姫様である2人は、建設部長達から見れば、勇者以上に近寄り難い存在なのだ。
言うなれば、総理大臣は帰ったが、外務大臣と防衛大臣は残ったような感じだ。
「あー、たしかに、そうなるかもしれないね。
けれど、まぁ、ボク達は気にしないから、そこまで気を使わなくて良いよ」
「そうそう、サラ姉の言う通り。
アリスが偉いのは、アリスだから仕方が無いんだけど。あんた達が気にしなきゃ良い話よ」
「……畏まりました」
どうやら、彼等の必死の訴えも、彼女達には届かなかったらしい。
それならばと、建設部長は建設についての話しを持ちかける。どうやら、息苦しい会議は早めに終わらせる作戦のようだ。
「えぇーっとですね。勇者様から、壁は蛇腹の様にジグザグにして欲しい、と言われています。
なので、洞窟の入口から見て正面に門を設置し、そこが窪みになるよう左右に壁を設置します。そして、半円系でジグザグになるように、崖まで壁を延ばしたく思います」
建設部長は、そんな言葉と共に、近くに落ちていた木の枝を使って、地面に図を描いていく。
勇者の希望通りだという完成予想図は、機械の歯車を半分に割ったかのようなものになった。
「そうだね、僕もそのように聞いているよ。
正直な話、普通の壁の方が簡単なんだけど、ハルキの要望だからね。詳しくはわからないけど、ボク達が想像できないような結果を生み出してくれるんだろうね。
たしかに、工事の難易度は上がるけど、畑とかは壁の外に作る予定らしいから、大きさは必要最低限で良いとの話だよ。
それに、アリスも居るからね。予想外の事態が起きなければ、大丈夫だと思うよ」
「そうそう。アリスに任せときなさい。
けど、勘違いしないでよね。ダーリンのお願いだから仕方なく強力してあげるんだから。
むしろ、アリスに感謝しなさいよね」
ありがとうございますの言葉と共に、サラを覗いた全員が頭を下げる。
どうやら、建設の大まかな予定が決まったようだ。
木を切り、切り株を引き抜き、穴を掘って出た土を盛り上げる。そして、その表面をアリスが土魔法で固め、出来上がった基礎に木材をつき立て、組んで壁にする。
サラの指示のもと、建設部長が先頭に立ち、防御施設の最重要項目とも言える、壁作りが開始された。




