表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/139

<3-8>崩れ去る村 6

「……そうか、村長は残ったか」


 一足先にダンジョンへと戻った俺達は、先行した者全員で、壁を作っていた。


 とりあえず、今回連れて来た者達は、ダンジョン内に増設した部屋に毛皮を敷いて、そこで寝てもらうことになったのだが、今後も増えることを考えると、全員をずっとダンジョンの中に押し込んでおくわけにはいかない。

 

 それに、火で壁を作ったとはいえ、数日もすれば鎮火し消えてしまうような壁だ。そのうち、足跡を追いかけて敵軍がここまでやってくることは明白だった。


 最終的にはダンジョンに逃げ込んでの迎撃になるだろうが、せっかくこれだけの人数がいるのだから、と言うことで、急ピッチで壁を作り、迎撃することになったのだ。


「てめーら。勇者壁の名にも恥じない物を作り上げろ。わかってんだろうな?」


「もちろんっす」


「任せておいてくださいよ」


「ハン。てめーじゃ作れねえような壁を作ってやんよ」


 新入り(エイデン)達は体格の良い者が多く、本職がきこりということもあって、作業は予想以上の進行を見せている。

 まぁ、先輩であるリアム達に負けないように頑張ってるってのもあるようだが……。


「……あーっと。

 今回は簡易なんで、速度優先でお願いします」


「「「イエッサーー」」」


 スコップで地面を掘り下げ、出てきた土を盛り上げる。そして、その上に木をつき立てる。

 まぁ、少々脆いだろうけど、すこしの間だけだったら、馬の突進を止めることも出来るだろう、といった感じの仕上がりになる予定だ。


 本当なら、石を積み上げてー、御堀に水を入れてー、なんてのを作りたいのだが、如何せん時間が無い。


 迎撃の祭は、馬の足が止まったところで、弓の一斉射撃を行う。そんでもって、一斉にダンジョンに逃げる。


 今から逃げてくる者も合わせると、こちらの人数は40人程度。

 新入りは本職がきこりの者ばかりなので弓の扱いは心もとないが、それでも一斉に射撃を行えばそれなりの人数を負傷させることが出来る。


 現状を考えるに悪くない作戦だろう。


 …………なんて、そんな事を思っていた頃もありました。


「あー、皆さん、注目してくださーい。

 えーっと、敵なんですけど。帰宅されましたー。

 えー、うん、なので、簡易の壁は要らなくなりましたー」


 そんな具合で、騎馬軍との決戦は回避されました。 


 壁作りの合間に、カラスの目を通して村の様子を確認していたのだが、どうやら村長が敵の足止めを試みたようだ。

 その結果、数日後にはここに到着する予定だった敵は、3人の犠牲を代償に、王都に向けて帰っていった。


「みんなに1つだけ、お願いがある。

 自分を犠牲にすることはやめてほしい。


 どんなことがあっても、必死に生き延びる、そんな選択をしてくれ。

 ……戦闘を回避してくれた3人に、勇者として、心からの感謝と冥福を祈る」


 たしかに彼等は誇りを貫き、結果を残した。だが、俺としては、必死に生き、俺達と行動を共にして欲しかった。


 大局のための必要な犠牲。最小限の犠牲で最大限の結果を残した。それはまぎれもない事実だった。


 甘ったれるなと言われようが、勇敢な者の誇りを傷つけるなと言われようが、必死に生きて欲しかった。それが、俺の偽らざる本心だった。

 

 まぁ、だからと言って、村長達の行動を否定する気は無いけどさ。助けてもらったのも、感謝しているのも事実だし。


「しばらくの間、休憩にする。

 今後の方針を決めるから、首脳陣は集まってくれ」


 そんな訳で、後から逃げてきた村人達と合流し、村長達に対する黙祷を捧げた後、いつものメンバーで話し合いがもたれた。


「それで? 今後はどうするつもりだい?」


 勇者国の行く末を話し合う大切な会議。その進行を勤めるのは、勇者である俺、……では無く、サラ様。

 ……適材適所。うん、そういうこと。


「今後、今後かぁ……。

 とりあえず、今まで通りダンジョンの強化は続けたほうがいいよな?

 なんと言っても俺達の最後の砦だろうし

 ……まぁ、そうは言っても、住んでくれたモンスターが大きく成るのを待つのと、広く深くするってだけなんだけどさ」


 現在、ダンジョン内には、俺の腹に穴を開けた鶏型が50体ほど居る。

 作り始めた当初と比べれば雲泥の差ではあるが、守りの要と言うには心もとなかった。

 

「あとは、魔玉を使った製品とは別に、うちの特産のようなものを作りたいかな。

 塩が自作できない点を考えると、外貨を確保できる物は増やしておいたほうが良いと思う。

 これはミリアとノアに頼ることになると思うけど、お願いできるか?」


「大丈夫よ」


「うん。任しといて」


 裏ルートから入手しているとはいえ、篭城などを考えると、塩の入手ルートは多い方が良い。


「あとはやっぱり、外に街を作って、ダンジョン以外の防御手段を持つ、かな。

 騎兵隊が撤退したとは言え、いつ次が来るかわからないし。


 町作りと平行して、壁や監視塔なんかを作りたい。

 これは、アリスの魔法とサラの知識をメインに進めればいいかな?」


「了解したよ。

 とりあえず、防御力の強化と外貨確保を目標とするって事でいいね?」


「あぁ、そういう感じだな。

 ……悪いが、最後に一言だけ言わせて欲しい。


 みんな、何が起きても死ぬなよ」


 この日から、勇者国が本格的に動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ