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<3-6>崩れ去る村 4


「え? 村長親子の所もかい?

 実はあたしの所にも来られてねぇ、薪の隠し場所を教えてもらったよ?」


「あんれぇ? うちの所もだよ?

 薪はかさばるから置いてくって仰ってねぇ」


「……なんじゃ。平等に配るだけの時間が無いからと言って居られたわりに、いろいろと配って居られるのぉ。

 ちなみに、わしも油をあずかっとるぞ。しかるべき時に有効に使えといわれて居る」


 村長の地図を筆頭に、次々と勇者から貰った、預かったとの声があがった。


 結局は村人全員が、勇者本人やその仲間達から、困った事態になるときまで誰にも話さず保管しておいて欲しい、と言われ、何かしらの物を貰っていたようだ。


(軍が攻めてくることを予測されていたお方じゃ。全員に行き渡るようにし、直前まで黙っていろと仰ったのは、これから決める作戦をスムーズに決めさせるためじゃろ。

 ワシが決めた作戦だと言うよりは、勇者様からそれぞれが託された作戦だとした方がしまりは良いじゃろうからな。


 じゃがなのぉ……。薪と炭とは……。

 勇者様は我々にどうしろと仰って居られるのかのぉ…………)


 勇者からの預かり物は、薪や炭、油、なかには弓矢なんてものを受け取っている者も居た。

 

 弓は最悪の場合の保険だろうから、変に頭を悩ませる必要は無い。


 問題は、薪、炭、油である。

 共通点は暖を取るための物であることを考えるに、寒いところに行け、と言われている可能性が高いと思う。

 そして、寒いところと言われてピンとくるのは、森の中での潜伏だった。


 たしかに与えられた薪や油の量を考えれば、全員で暖を取ったとしても、1ヶ月近く耐えれる。

 そして、それだけの時間があれば、敵が退散する可能性は高かった。


 しかし、先にも述べたとおり、敵に居場所が知られる可能性があるため、火をおこす事は出来ない。

 風の魔法が使える者でも居ればよかったのだが、生憎と、村には風どころか、魔法を使える者すら皆無である。


 もしこれが毛皮や布などであれば、森で息を潜める作戦を勧めているのだと確信出来るのだが、薪や炭では決定力に欠ける。


(勇者様の神託を聞くためにはお祈りが足りないのじゃろうな。

 ……いっそのこと、頂いた薪で勇者の像を彫れば聞こえるかもしれんのぉ)


「……みなで勇者様の像を彫るのはどうかのぉ?」


「……は?

 …………親父、ボケたか?」


「……いや、冗談じゃ」


 9割ほど本気だったのだが、息子に白い目で見られれば引き下がるしかない。しかし、引き下がったからと言って、勇者の意向がわかる訳では無いのだが……。


 そうして、預かり物の使い道に頭を捻っていると、若い男が集会場へと駆け込んで来た。


「お、もどってきたな。

 それにしても早いじゃねぇか、敵の偵察部隊とでも出くわしたか?」

 

 そういって村長の次男が額に大粒の汗を浮かべた男を出迎える。


 村の重役達が監視台で敵軍を眺めているころ、若い連中も敵の情報を探るべく動いていた。


 目が良い者2人と足の速い者1人を直接見える距離まで向かわせていたのだ。


 そして、村で1番足が速いからと、敵軍の情報をいち早く届ける役割を担った彼が、こうして戻ってきたというわけだ。

 

 ただ、持ち帰ってきた情報は敵の事では無いのだが……。


「は、……はぁ、…は。……い、いや、ちがう。

 ……道に、木々が、……積み重ねられてた。

 は、は、は、……通れなくてな、引き返してきたんだ」


「は? 木?

 何だってそんな物が?」


 森を切り開いて作った、王都の方角へと伸びる一本道。

 両手を左右に開いた大人が4人も並べば通れなくなるような幅の道に、まるでその行く手を阻むかのように木が横たわっていたらしい。


 そもそも、左右は深い森が広がっているため、枯れた木が1本倒れただけでも通行できなくなるような道なのだ。

 そこに何本もの木が積み重ねられていたとすれば、諦めて引き返すのも無理は無い。


「また倒木か? 前のときのように、でっかい獣でもでたか?」


「ばーか。積み上げてあったって言ってただろ? 獣が積み上げたりするかっての」


「人がやったってのか?

 だれがそんなことするんだよ?」


「…………」


 そんな報告を聞いた村人達は状況がうまく飲み込めず、しきりに首をかしげていた。

 敵軍を見に行ったら木が倒れていた、といわれたのだ、混乱するのも無理はない。


 しかし、村長だけは、何か思うことがあったのか、鋭い目を走ってきた男へと向ける。


「…………ジェン。

 その積み上げられた木とやらは、どのくらいの高さであった? それと積み上げられ方も聞かせて欲しいんじゃ。

 敵を防ぐための壁としては使えそうかのぉ?」  


「か、壁は、……むり、ですね。

 は、は、は……、た、高さは、いいのですが、……隙間があって。

 たぶん、……は、は、すぐ、崩れます」


 油、薪、そして不自然に積み上げられた木。


 それらの情報が出揃ったとき、村長の中で1つの考えが浮かんだ。


「……そういうことですか」


「ん? 親父、何か言ったか?」


「いや、勇者様に祈りを捧げただけだ。

 ……みな、聞け。攻めてくるやつ等を出来る限り足止めし、その間に勇者様のもとに逃げる。

 これは村長命令じゃ。異論は認めん。

 

 勇者様から託された作戦を実行し、勇者様の御前に行こうぞ」


 そして村長を中心に生き残りをかけた撤退作戦が始まる。

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