表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/40

第35話 マキリ

 暗闇のなかで戦闘の音が聞こえた。


「タッツ、でるぞ!」


 腕をつかまれ引っぱられた。声はドミニクさんだ。


 廊下にでる。非常灯がついていた。赤い電灯でうっすら見える。そして廊下のさきにいたのは、黒いライダースーツに全身をつつんだ緑の顔をした兵士だ。


 兵士さんの両手首には、手錠はある。でもどうやったのか、つなげる鎖は左右で引きちぎられていた。


「出口まで誘導する!」


 ドミニクさんの声に、緑の兵士はうなずく。


 三人で走った。廊下のさき、曲がりかどからアメリカ兵がきた。


「近づくと撃つぞ!」


 ドミニクさんは天井にむかって二発拳銃を撃った。アメリカ兵が退避する。そのすきにドミニクさんを先頭にして走った。


 赤い非常灯だけの暗い廊下をぬける。外にでた。


「止まれ!」


 目のまえにジープに乗ったアメリカ兵がふたり。手には自動小銃。


「タッツ、すまん。動くなよ!」


 ドミニクさんが、ぼくのこめかみに銃をつきつけた。


「銃をおろせ、この少年を撃つぞ!」


 ふたりのアメリカ兵がひるんだときだ。まるで猫が飛びだしたかのように早く動いた人影があった。


 動いたのは緑の兵士。ジープの荷台にいたアメリカ兵に飛びつく。ふたりはからまり地面に落ちた。さきにすばやく立ちあがったのは緑の兵士。手には自動小銃を持っている。からまった瞬間にうばったのか!


「銃を捨て、車からおりろ!」


 緑の兵士は、大声でどなった。地面によこたわるアメリカ兵に銃口をむけている。ジープの運手席にいたアメリカ兵が、銃を置いてジープからおりた。


「いくぞ、タッツ!」


 ドミニクさんに言われ駆けだす。三人でジープに乗りこんだ。運転席に乗りこむのはドミニクさんだ。座ってすぐにアクセルを踏む。


 ジープが急発進した。


 ぼくはうしろをふり返った。さきほどの建物から、多くの兵士たちがあふれでてきている。


「追っかけてきそうです!」


 ぼくのあげた声に、ドミニクさんが首をひねってふり返った。


前方ぜんぽう!」


 言ったのは異星人の兵士。ぼくもドミニクさんもあわてて車のまえを見る。


 まえからジープ。ドミニクさんはハンドルを右に切った。


 しばらく走ると十字路。まえからアメリカ兵を乗せたジープ。さらに右からも。


 荷台のほうに乗っていた緑の兵士さんが動いた。さきほど、うばい取った自動小銃をかまえる。相手のジープではない。空にむかって乱射した。むかってくるジープ二台が急停車する。そのすきにドミニクさんはハンドルを切った。左の道に入る。


 この道を思いだした。ぼくは何度もヘリコプターで連れてこられた。


「このままだと!」


 言い終わるまえに道がひらけた。滑走路だ。


 ドミニクさんはブレーキを踏んだ。でも後方からアメリカ兵たちが駆けてくる。たまらずドミニクさんは再度アクセルを踏んだ。


「ぼくはヘリから見たことがあります。このさきは海です!」

「それでも、引き返せねえぞ!」


 うしろをふり返った。走ってくるアメリカ兵や、軍用ジープ、それに戦闘車両までが滑走路にむかい各方面からでてきている。


 滑走路は長かった。ドミニクさんはジープをひたすら走らせる。


 もういちど背後を見た。アメリカ兵である迷彩服の集団は、いそいで追いかけてはこない。滑走路をふさぐように広がり、じりじり追い詰めるように進んでくる。


 ドミニクさんがジープを止めた。


 数メートルさき、滑走路が切れている。


 ドミニクさんと緑の兵士さん、ふたりは車からおりて駆けた。ぼくもつづく。


 三人で滑走路が切れるところまで走り、下をのぞきこんだ。


 断崖絶壁だ。海面までは遠く、飛べば岩場に落ちて死ぬだけだ。


 乗ってきたジープまでもどった。でも、遠くから横一線にならんだアメリカ兵が、ゆっくりと近づいてくる。


「この車を、よこに動かしてもらえますか」


 異星人の兵士が言った。ドミニクさんが運転席に乗りこみ、ジープをすこしバックさせる。


 次にハンドルを切って前進させた。ジープは滑走路に対しよこになって止まる。


 ドミニクさんがジープからおりると、今度は緑の兵士さんがジープに近づく。助手席にあった自動小銃と拳銃を取ると、それは地面に置いた。そしてスーツの腰あたりでなにかを押した。


たてのかわりにしましょう」


 なんのことかと思う間もなく、ジープの車体に近づく。しゃがんで車体をつかみ「ふっ!」と強く息をはいて力を入れると、なんとジープがひっくり返った!


「すごい、強化スーツだ!」


 ぼくの言葉に緑の兵士さんは笑みを見せた。腰にボタンがあるのか、もういちど押す。


「ただの道具です。さすがにこれを使用しても、一個小隊にも勝てない」


 そうなのか。ぼくにはスーパーマンに見える。でもそうか、ひとりを倒しているあいだに、ほかから撃たれれば終わりだ。


 ひっくり返ったジープのタイヤ、そして車の下側を目のまえにして、三人で座った。


 ドミニクさんが、ジープのよこから滑走路をのぞいている。


「じりじり、近づいてくるな」


 つぶやいたドミニクさんの表情はあせっている。反対に緑の兵士さんは、冷静に座った体勢で小さな拳銃をさわっていた。


「なるほど、こういう構造ですか」

「拳銃か。あのえらそうなやつから、ぶんなぐって取ってきたぜ」


 ぶんなぐった相手は、きっとギャザリング参謀議長だ。ドミニクさんはベースボールにはくわしいけど、政治家はくわしくないらしい。


「すまねえな。助けられなかった」


 ドミニクさんはそう言うと、兵士さんのとなりにきて座りなおした。


「ミスター・オチ、腕のタイマーを」


 緑の兵士さんに呼ばれたので、ぼくも近くに移動して座りなおす。


 兵士さんが、ぼくの左腕を取った。腕の時計を見ている。


 腕の時計は数字の表示が消えていた。


「こわれましたね」

「さきほど、言われませんでしたか、こわれないのでは」

「物理的な衝撃では、という意味です。司令官に連絡をするのは無理ですね」


 しまった!


「ぼくのミスです!」

「いえ、あの状況では、正しいと思います」

「でも、グリーン提督に連絡できれば、助けを呼べるのに!」


 緑の兵士さんは、水平線のかなたを見つめた。


「私は長く船に乗せられました。ここは母船のある島ではないでしょう」

「オアフ島です。あなたの母船があるのはハワイ島の沖」

「では、呼んでも間に合わない」


 それなら、まえもってグリーン提督へ連絡をしておくべきだった。異星人との戦闘になる。そう思うと連絡できなかった。


 銃声音がしてびっくりした。いつのまにかドミニクさんが移動している。よこ倒しのジープを盾にするようにして、はしから手をだして自動小銃を乱射していた。


 すこしだけ乱射すると、まだもどってきて座る。


「こっちに近づこうとしてたんで、ちょっとおどかしてやった」


 緑の兵士さんは、空を見あげた。ぼくも空を見る。空は曇っていた。スコールがきそうだった。


「このあたりのようです」


 兵士さんの言葉がわからなかった。なにが、このあたりなのだろうか。


「もういちど、つかまる気は?」


 ドミニクさんが聞いた。緑の兵士さんは首をふる。


「どこかへ移送と言っていました。閉じこめられたくは、ありません」

「そうだな、解剖されるだけだな」

「解剖ですか」


 緑の兵士さんがぼくを見た。ぼくはなんとも言えず、目をふせた。


「メリアを助けてくれて、ありがとうよ」

「私のほうこそ、助けていただき、感謝を申しあげます」


 ドミニクさんと緑の兵士さん。ふたりが見つめあっている。


「どうする、がけから飛ぶか、戦うのか」


 ドミニクさんの言葉で、ふたりがなにを話しているのかやっとわかった。


「だ、だめです!」

「タッツ、おまえは残れ。さっきの感じじゃ、政府はおまえに手がだせねえ」

「待っていただきたい。ミスター、私だけで」


 緑の兵士さんが発した言葉を、ドミニクさんはさえぎった。


「ここまですりゃ、おれも重罪よ。長く刑務所に入るなら、ぱっとちるさ」

「ふたりとも待ってください!」


 そんな馬鹿な。ふたりを見た。ドミニクさんは半笑いだ。緑の兵士さんは、ドミニクさんを見つめている。


 ドミニクさんは緑の兵士さんにむかって手を差しだした。


「おれはドミニク・クムカヒだ。あんたの名は?」


 問われて緑色した顔は、考えこむ表情になった。


「わたしの星の言語は、この星のかたには発音しにくく……」


 そこまで言うと、はっと顔をあげた。


「これは、こちらではなんと呼びますか?」


 空中に指をさしている。なんのことだろう。耳をすました。遠くで、ごろごろと雷が鳴っている。


「雷鳴のことか。ハワイ語では、マキリという」

「ではそれで」

「わかった、マキリ。めいの命の恩人だ。忘れねえ」

「私も、ドミニクという名を忘れません」


 ふたりが握手をかわした。ぼくはどうしたらいいのか。なにも考えが浮かばない。


「いい、グラブさばきだったぜ」


 ドミニクさんの言葉に、マキリさんが笑った。


 ふたりは手と手をしっかりとにぎっていた。その次の瞬間、手をにぎったまま緑の兵士マキリさんが動いた。あいた手に持つ拳銃をドミニクさんの肩に押しつけ撃ちぬいた!


「ぐあっ!」とさけび声をあげ、ドミニクさんがのけぞって倒れる。


「マキリ、おまえ!」


 倒れたドミニクさんが、撃たれた右肩を押さえている。


「異星人におどされていた、そんな理由を考えてください」


 緑の兵士は立ちあがり、腰のボタンを押した。ぼくのえりくびを持つと、軽々と片手で持ちあげる。


 そのままジープのかげからでた。


「近よると、この地球人を撃つ!」

「うそだ!」


 緑の兵士さんは、ぼくを撃つことはできない。撃てば侵略側の負けになる!


 マキリさんが、ぼくにむかってほほえんだ。


「ええ、うそです。ですが、さきほどわかりました。一般の兵士は、銀河憲章を知らない」


 あのドミニクさんがぼくに銃口をつきつけたときだ。


「撃たないでくださいです。これはうそです!」


 さけんで手足をばたつかせた。でも持ちあげられていて、手足は空を切るだけだ。


 雨がいっせいにふってきた。スコールだ。


 大粒の雨だった。滑走路のアスファルトに雨が打ちつけ水しぶきをあげる。


 緑の兵士さんが、左手に持つ銃を動かした。近づいてくるアメリカ兵にむけた。


「だめだ、撃っちゃだめだ!」


 銃声がした。ぼくのからだが地面に落ちる。


「マキリさん!」


 駆けより頭をかかえ起こした。後頭部から大量の血が流れている。


 必死で押さえた。必死で押さえているのに、スコールの雨が赤い血を洗い流していくだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ